化物がまた増えた
これくらいなら書ける……
光が入ってくる。
……結局寝ちゃったんだな。寝落ちはよく夜更かししてやってたし、もう癖みたいなもの……ん?
「キュ―リ?」
「ニャ!」
「あ、おはよう。……えっと、なんで?」
あの馬みたいな奴の毛がもふもふすぎて、気持ちよかったからあそこで寝てしまったはずだ。
だというのに、隣にはキュ―リがいる。
ルルはどこだろうと周囲を見渡すと、口から炎を吐き、その炎に翼を当て、身体を縮こまらせるようにしていた。
馬もどきもその炎に近づいてブルブルしている。
……俺が寝ている間に、何があったんだろう。
「キュ―リ、あいつらどうしたんだ?」
「ニャ~?」
「お前も分かんないか……」
「キュ!キュッキュ、キュウ!!」
「ワフ、ワン、ワオーン!」
「……あいつらがキュ―リを示しているぞ?」
「ニャ?ニャー……」
キュ―リがルルと馬もどきに視線をやった。
なんということでしょう。ルルと馬もどきがキュ―リを示すことを止めたではありませんか。
……絶対キュ―リが何かしたな。大方吹雪を口から出したとか、寒がらせたんだろう。なんでそんなことが起きたのかは分からないが、キュ―リは怒らせたら駄目だな。
「まあ、いいや」
「ニャ!」
「さてと……」
この件に深くかかわるのはやめておくとして。
問題はこの馬もどきだな。
「馬~黒い馬~」
「ワフ?」
「ルルは炎、キュ―リは氷……なら馬はなんだ?」
どうせこいつもとんでも能力を秘めているに違いない。ルルといい、キュ―リといい、これまでの人生でニュースでしか見たことないような自然現象をも超える力を有していた。
なら、こいつらと同類の可能性は高い。
能力を持っているのは別にいい。つーか一緒に行動しているのも成り行きだし、いつかは別れる日もくるはずだ。
だがあのモフモフの毛を逃すのは惜しい。久々にフワフワの枕の感触を味わえた。あれを味わってしまった以上、自分の腕では当分眠れる気がしない。
「ニャ―ニャ」
「この地面……か?」
キュ―リが示したのは馬もどきの歩いてきた地面。遭遇時から気づいていたが、毒の地面の色よりもなお黒く、悍ましさを感じるような濁った色をしている。
「ニャッニャ!」
「ワフン……ワオーンッ!!」
何かしらキュ―リが指示を出したのか。馬が吠えたと思えば、全身から黒い靄を噴出させた。
「……待て、待て待て待て待てよおい……」
「キュウ……!?」
木が、溶けた。
黒い靄が紫色の木に当たったかと思えば、一瞬にして蒸発した。いや、消えたのか?
試しにと思い、ルルに切り離してもらった木の枝を濁った地面に投げてみた。
……溶けた。
なるほどなぁ、こいつは消失能力、引いては物を溶かす……腐らせるだな。靄を放出するのをやめても、連鎖的に木がどんどん崩れていく。
……炎、氷、腐敗能力か……インセイン危険世界だろ。死獣の森、強いては死獣の力なのかもしれないが、三つ目の人間もどきの目も危険な感じだった。この森は化け物共が闊歩し、毒の地面による危険地帯なのだろう。だからこそ、ここの外から内側は守られているのか。
逆に外に出た方が、俺にとっては危険なのかもしれない。
……すぐ近くに、俺を燃やしたり、凍らせたり、溶かしたり出来る奴がいることは置いておこう。そうやって殺されたらしょうがない。こいつらからは逃げようがないのだ。
「よし、お前はゼブラだ。これからよろしく……するかは断言できないが、どうせついてくるんだろう?」
「ワフ!」
これで3体目。危険生物の中でも一際危ない個体が3体。
……まぁ、ルルは綺麗になった、俺のお気に入りのパーカーを着てそこらを走り回ってるし、キュ―リは綺麗になった俺のズボンを履いているし、ゼブラは俺に顔を擦り付けて来るし……危険生物とは思えないな、これだと。
「でもなぁ……ルル!何俺のお気に入りのパーカーの背中に穴開けてんだ!?せっかく綺麗になったのに!」
「キュキュ!?キュ、キュキュッキュ!」
確かにあげたよ?あげたけど……それはゲロに毒虫の気持ち悪い液体がついてたからであって、綺麗な状態なまた別だろ……はぁ。
「もうルルのだもんな、しょうがない」
「キュッキュ~♪」
「でもお前はおかしいだろキュ―リ!」
「ニャ~?」
「いや、何が?って何勝手に俺のズボン履いてんだ!?やった覚えねえぞ!ああ、骨だから腰横破けて……あ、勝手に引き裂くな!やめろ!寝巻のズボンをダメージジーンズみたいに改造するな!」
「ニャ~ニャ!」
「……うん、そうだね。もう俺が来たらただの変態にしか見えないだろうね。もう、わかったよ、やる。やればいいんだろ!」
「ニャ~♪」
ああもう、好き勝手やりやがって……でもこいつらを抑える方法がないんだよな。暴力にでも走ったら返り討ちに合って一撃で死ぬだろうし……。
「ワフ」
「ゼブラ……お前だけだよ、いい奴はさぁ……」
「キュキュ!?」
「ニャニャ!?」
「ワフ~♪」
こうなったら……俺が強くなるしかないな。
***
『ふふん、俺が一番印象良いみたいだな?』
『こ、この糞爺……あたしたちの行動を逆手にとってまた撫でられやがって……』
『爺言うな。殺すぞ』
『でもぉ、ゼブラはなぁんにも身につけられないから別にいいかなぁ~』
『なっ!き、気にしていたことを……キュ―リめ……』
『確かにな!このパーカーとか言う衣装は気持ちいいし、何よりあいつに包まれてる感じがするんだよ!ははっ、羨ましいだろ!』
『ぐ、ぐぬぬ……』
『次はシャツなるものをもらいましょうか』
『あっ、おいずりぃぞキュ―リ!』
『ルルは1枚で事足りるでしょ。私には上も必要なのです』
『この身体のせいか……どうにかしてみるか』
ルルとキュ―リが彰人のシャツを奪い合う中。
彰人に撫でられながら、ゼブラは白い地面の上に咲いている花に目を向け、あることを思案していたのだった。
花の名前決めてなかったな、そういや……どうしようかな。