2064年11月
ばあちゃんから返されたノートを手に部屋に戻った。
他にも何かないだろうか?
もう一度本棚をくまなく探してみたが、もう何もないようだ。元々整理する予定だったから、パラパラと本をめくりながら戻していく。読んでない本の間に何か挟まっていないかと期待したが、何も見つかる事はなかった。
次に机にあるパソコンを起動した。このパソコンではインターネットを見たり、動画を見たり、データ入力の仕事に必要なものを確認していた程度だ。過去に関わるデータが何かないかと探してみるが…。
データフォルダ、空っぽ。
ブックマーク、最近追加したものだけ。
メモ帳等の保存してあるファイル類は無し。
カレンダー、何も予定入力されていない。
メール、ごみ箱含めて最近のだけ。
ある意味、予想通りに何も見つけられなかった。
それ以外に何かないかと部屋を見渡してみても、いつも寝ているベッドと使わなくなった扇風機しかない。やっぱり、ばあちゃんに聞く以外はなさそうだ。もう一度、ばあちゃんと話す為に下に降りた。
「ばあちゃん、具合どう?」
ばあちゃんの部屋の前で声をかけた。
「………」
反応がない。寝ているんだろうか。
「ばあちゃん?開けるよ?」
静かにドアを開けてみると、ひゅっと、隙間からユキが出てきた。
「おわ!びっくりした…」
寝ているのか確認すべく、そのまま隙間からベッドの方に視線を向けてみる。ばあちゃんがいない。静かにドアを開けて部屋の中を見渡すとクローゼットが開いていて、その前にばあちゃんが座っていた。
「…ばあちゃん?」
近づいて声をかけてみるが返事はない。よく見ると、ばあちゃんの体が小刻みに震えている。
「ばあちゃん、どうした?!」
こちらを向かせると息苦しそうにしている。
「…りょ…きゅ、きゅう……」
「ば、ばあちゃんっ!?」
ばあちゃんがそのまま倒れてしまった。
救急車を呼ぶなんて初めてやった。かなり慌ててしまい、電話で何を喋ったか覚えてない。到着するまでの間、気が気でなかった。
数分後、無事に救急車が到着した。家の中に救急隊員を案内する。隊員が手際よく、ばあちゃんをストレッチャーに乗せていく。
「亮、どうした?!」
家の前にいる救急車を見たからか、陽茉さんが勢いよく駆け込んできた。陽茉さんはばあちゃんの友達らしい。何度かうちに来ていたときに挨拶をする程度にしか知らない。
「ばあちゃんが急に苦しそうにしてて、倒れちゃって…」
ばあちゃんが救急車に乗せられると、隊員に病院への同乗を求められた。
「でも……」
いつも外に出られずにいる事、動悸する事が頭をよぎって体が動かない。
「バカ!行け!こんな時に一緒にいないでどうするんだ!」
陽茉さんが、すごい剣幕で怒っている。
「…でも、体調が…」
「ばか!美穂になんかあったらどうすんだ!後悔すんのはお前だぞ!」
そう怒鳴られて無理やり乗らされたけど、不思議な事に全く動悸は起きなかった。
「陽茉さん、とりあえず大丈夫そうです。家の事、お願いできますか?」
「わかった、任せとけ!」
病院に着いてから先生から聞かされたのは、ばあちゃんは『がん』になっていたという事。今日搬送されて発覚したわけではなく、何年も前からだったらしい。既に治せる段階ではなく、余命宣告もされていたが、本人の希望で入院せずに自宅療養中だったそうだ。今回は倒れてしまった以上、一旦入院する事になった。
病気の事なんて全然知らなかった。もちろん聞いていないし、普段は体調を悪そうにしてるのを見たことがない。薬の効果もあるんだろうけど、…うまく隠していたということだ。でも、何故隠していたのだろうか?⋯そんな状態なら教えてほしかった。
タクシーで家に帰ると、ユキが近づいてきたので抱きかかえた。
「今日は入院になりましたけど、どうなるかはわからないそうです」
「…そうか、わかった」
「ばあちゃんの病気の事は知ってたんですか?」
「うん。知ってたよ」
「そうですか。俺は知らなかったから…急に聞かされてびっくりしましたよ」
「……亮には言わないつもりだったみたいだ」
「え?どうして?」
「それは…ばあちゃんに聞いたほうがいい」
「ばあちゃん、か。そもそも本当にばあちゃんなのかどうかも…」
「ん?……あぁ、そうか…」
この感じだとおそらく陽茉さんも自分の事を何か知っている。でも、ばあちゃんから聞いた方がいいんだろうな。




