開幕
”むかしむかし、あるところに勇敢な王子と可憐なお姫様がおりました”
「・・・こんなおはなしでいいのかい?」
「はい、お父さん。続けて、続けて」
娘は初めて父親に物語を読み聞かせて貰っていた。
彼女はそれまで泣いていた顔を晴らし続きを聞きたがった。
「構わないが、長いお話だから今日は途中までだよ。明日は朝が早いのだから早く寝ないといけないよ?」
「はーい」
娘は父親との最後の時間を大切にしようと昼は二人で大都市を観光し、夜になると昼間に買って貰った本をさっそく開いた。父親は大きなホテルの最上階の一室で膝に娘を乗せて初めての我儘に相好を崩した。
「よしよし、では続けよう」
”世界で最も古い国の王子は、幼い頃に湖の国のお姫様と将来を約束しておりました。ですが婚約を決めた王は病に倒れてしまい、後事を親戚に託し我が子が成人するまで摂政として国を守ってくれるよう頼みました。しかし、摂政となったその男は他の職務も大臣の地位も兼任しその子が成人の儀を終えても玉座を譲りませんでした。
これではお姫様を迎える事ができません。
約束は成人してから王の妻として彼女を娶り両国を共に栄えさせる事でした。
大臣は何度抗議されても国を譲りません。王子がまだ未熟だと諭して他国に留学させてしまいました。その間に王子の国はますます大臣のいいなりです”
「やっぱり悪い大臣だったのかな?定番ですよね」
「さあ、どうだろうね。最後まで聞いてから自分で考えてみなさい」
”さてお姫様の方も父親は戦いで亡くなってしまい、家臣は逃げ散ってしまい彼女も敵に囚われの身。王子はそれを知って助けに行こうと思いましたが、未だ王位につけず国を動かせません”
「わぁ大変、どうなっちゃうの?」
「続きはまた明日」
「短すぎるよう」
「じゃあ、静かにいい子で聞いていられるかい?口を挟んでおしゃべりしていたら眠れないよ」
「でも、お父さんともっとお話したい」
娘は合間合間で口を挟んで物語の感想を言いたがった。
「う、うむ。じゃあもう少しだけ」
父親は娘の素直で可愛いおねだりに押し切られて夜更かしする事になった。
さて、はじまりはじまり