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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第一章 妖精王子の誕生
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第10話 妖精宮②

「なーんていいますけどね。実際には違うのよ。ミーちゃん」

「そうなの?」

「そ。実際には森の泉の女神エーゲリーエ様に横恋慕した女神が毒を盛って彼女を苦しめたの。それでエイメナース様が大神ガーウディーム様に助けを求めて眷属神の医神、薬神達の力を借りたんだけど代わりに世界樹の管理権をガーウディーム様に譲ったのよ。そしたら他の神々が世界樹を寄越せって攻め込んできたの」


 ガーウディームは東方諸国の多くで守護神とされている。

一方大地母神群は豊穣を司る女神達であり、帝国の守護神だった。

エーゲリーエに毒を盛ったといわれる地獄の女神達も大地の神々の系統であるとされていたので自分達の神々を擁護する為か、帝国に伝わる神話では森の女神達を侮辱するような話ばかりだった。


 旧人類帝国初代皇帝スクリーヴァが攻め込んできた際にもそうして東方の神々を侮辱した為、妖精の民の指導者アンヴェルフは人々を指揮して帝国に対し徹底抗戦を繰り広げた。彼の子孫も他の国々も協力して帝国と戦い最後にはお互いの神話を再編纂して手打ちにし、東方諸国もそれで妥協して帝国の従属下に入った。


「名前が覚えきれない・・・」

「名前は覚えなくてもいいわ、ただご先祖様達はそうして1000年間独立と守護神への誓約を守った事だけ覚えておいて」


マクシミリアンはマルレーネが次々と古代の神々の名前や人間の偉人達の名前を出すと固有名詞が覚えきれずにパンクしてしまった。


「1000年だけではない。妖精の民は今も守っているのだよ」

「お爺ちゃん・・・。今もなの?」

「そう。我々は今も森の女神達の帰還を信じて待っている」


森の女神が神食らいの獣を封印し、神々は天上界へと去った。

妖精の民と神獣クーシャントは森の女神の帰還を信じ妖精宮を守っている。

ヴォーデヴァインも娘と孫に付き合ってディリエージュを出てその妖精宮への道を歩んでいた。


「出て行っちゃった人も多いけどね」

「こら」

「ごめんなさい」


茶化すマルレーネをヴォーデヴァインは叱りつけた。

そして溜息を吐いて続ける。


「実際、5000年以上もの間帰りを待つのを諦めて人の世界に出て行ったものもいるのは確かだ。ここに残っているのも外の世界を恐ろしく思って出て行かないだけという者も多い」

「外の世界が怖いの?」

「そうだ。我々は少し人と違う。ちょっと珍しがられるくらいならいいが蛮族と同じとされると人類全体の敵になって狩り殺されてしまう」

「ばんぞく?」

「獣人達だ。遠い北の国よりもさらに北にいる。神々が争いあった時に一部の神獣と共に神々から離反して移り住んだといわれている」


獣人達は帝国軍と何千年も睨みあい、飽くる事無く戦いを続けていた。


「わたし達の女神様が残っていたらきっと話は違っていたんでしょうけどねえ。残念だわ」

「森の女神様が残っていたら?」

「そ、森の女神様は百獣の母といわれていてね。よそさまの神獣さえアクシーニ様には逆らわなかったそうよ」

「世界樹から多種多様な生命が誕生したといわれているからその化身であるアクシーニ様は大地母神に匹敵する・・・いやそれ以上の、万物の母たる存在だったのだ。神代にはここも世界の中心だった筈なのだが」


人の世界が発展していくのに対して妖精の民の世界は行き詰って閉塞感が漂う。

だが、外の世界に憧れた者も差別に遭い、ディリエージュに集まって混血が進んでいた。


森の奥にいる純血の妖精の民は少ない。

妖精宮の傍で宮殿とクーシャントの世話をしている者はさらに僅かだった。


ヴォーデヴァインが話してやっているうちに世界樹の化石としてその姿が残る妖精宮が見えて来た。


白く、石のようになった世界樹の名残。

それは巨大でマクシミリアンの視界一杯に広がり白く眩しく光っているように見えた。


「みんな、ただいま」


マルレーネは周囲を見回して挨拶したが、マクシミリアンの目には視線の先には誰もいない。


「みんな?誰かいるの?」

「あら、見えなかったか。昔は見えてた風なのにねえ。じゃあ、これ」


マルレーネはマクシミリアンに目を閉じさせて秘薬をその瞼に塗ってやった。


「さ、もう一度よく見てごらんなさい」


ひんやりした感覚に恐る恐る目を開くとマクシミリアンにもその姿が見えた。

あちらこちらの枝に隠れている小さな小さな木霊と風に乗って戯れている風の精霊達がいた。風の精霊はマクシミリアンの視線に気が付くとウインクして風を起こし樹上へと舞い上がっていく。木霊は恥ずかしがって手に持った木の葉で身を隠してしまった。


「わ!すごいや!お伽噺じゃなかったんだ!」


マクシミリアンも年相応に児童書を読んでいるので精霊の事は知識としては知っていたが、それがお伽噺である事は理解していた、そのつもりだった。

精霊は神に近い存在として妖精の民から親しまれていた。


「凄いでしょ。秘密にしてるわけじゃないけど外の世界じゃあんまり公言しない方がいいわね」

「どうして?ははうえは凄いって自慢したい!」

「えへっ、そう?じゃあいいかしら」

「駄目だ、無用な問題を起こすな。それにエーゲリーエ様もよく物事は神秘的に思わせておいた方が何事も上手く進むとおっしゃっておられた」

「なによ、お父様だって会った事ない癖に」

「当たり前だ。だが、儂のお爺さんのお爺さんもみんなそう語り継いできたのだ」


マクシミリアン達は戯れながら妖精宮に入っていった。

宮殿の清掃をしていた民達が長達の来訪に喜んで出迎えた。


「これはこれは王子まで連れて、急にどうされました」

「前に来た時の事をマクシミリアンは覚えていないようだったからな」


マルレーネはフリードリヒがマクシミリアンに本格的な教育を与える前に先手を打った。始祖アンヴェルフと王家の本来の在り方を人格的な基礎が完成される前に教え込む事にしたのだ。

フリードリヒも将来我が子を帝国に送り出す前に、フランデアン王家の在り方を教えるつもりだったがマルレーネはそれよりももっと強い印象を与えようとしていた。


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2022/2/1
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