幕間①
「ねえ、ねえ!リーエ姉ってば!」
「んー?おっと」
リーエ姉と呼ばれた女性は退屈そうに頬杖をついて本をぱらぱらと捲っていた。
そんな彼女に対し机に両手をのせて身を乗り出した少女が勢い余ってバランスを崩して落ちそうになる。
リーエは助けようと片手を伸ばして戻してやろうとした。彼女の左手には装飾が施された腕輪があり、そこから枝のような飾りが伸びていき優しく少女を支えた。
「わ、ありがとう。リーエ姉」
「ハイハイ、気を付けてね」
「うん、それでね!お外に遊びに行こうよ!いまご本のさいちゅう?だめ?」
「別にいいよー、たまには体を動かさないとね」
彼女達は小屋を出て家の前の泉に流れる小川を辿ってよく遊ぶ広場へ向かった。
途中釣りをしている女性がいる。
「あらら、頭に花なんか飾っちゃって珍しい」
「あれねー、わたしがやったの」
「へえ、なかなかいいセンスだね!」
鎧姿のまま釣りをしている女性は凛々しい美人だったが、花で飾るといっそう麗しい。
「でも全然反応してくれなかった・・・」
「あー、もう釣りに集中して瞑想状態みたいね。それで遊び相手が欲しかったんだ。今度はネーメ姉に贈ってあげるといいよ。ああいうの好きだから」
彼女達は年の離れた七姉妹だった。
他の姉妹はあまり活発に動くタイプではなく、向こうで釣りをしている女性とリーエ以外では元気な年少の少女の相手をするのは厳しかった。突然活発に動き出したかと思うと、エネルギーが切れて眠りだしたりせわしない年ごろだ。
「う、うん。三の姉様かー」
「ははは、まだ苦手か。ま、いいや今日は何して遊ぶ?」
「えっとねー、この前みたいなのがいいな」
少女は枝を持って振りかざした。
「ん、あれかー。気に入ったの?」
「うん!『我ら姉妹、生まれし日、出自は違えども、共に助け合い目的を達せん!天を支え地に安寧を与え、力なきものを救う事を誓う!我ら一心同体となりて死の定めを迎えれば同日に死を甘受する事を誓う!天神地祇よ、この誓いを聞け!たとえ天帝といえど我ら姉妹の誓いを妨げれば誅戮あるのみ!!』」
びしっと少女は枝を天に向かって突き出した。
「お、おお~」
リーエも同調したが、釣りをしていた女性も前回は真っ赤な顔で一緒に付き合わされたのだった。今も反応していない。
リーエも真似して付き合ってやったが、少々首を傾げた。
「おっかしいなー、こんな物騒な台詞だったかなあ」
「リーエ姉が教えてくれたんじゃない」
「そうだっけ」
「そうだよー」
少女は自分の台詞の意味があんまりよくわかってなかったが義姉妹の一員に加えて貰ったのが嬉しくてこの寸劇がお気に入りだった。
「まー、しかし女の子が剣を模して振り回すのはちょっとなあ。ステッキとかの方がまだいいんじゃない?」
「すてっき?」
「杖だよ、杖。つーえー」
「どんなの?」
「こんなの」
リーエは枝で足元に絵を描いて見せた。
「よくわかんない」
少女の理解の範疇外の形だった。
「ま、いいや。杖をかざしてね。こういうのさ『星の海より来たれ、真なる光よ。汝は知るだろう、天を割き地を貫く真の神の姿を!』」
リーエはビシっと頭上に枝を向け、少女も真似をして見上げた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「木漏れ日が綺麗だね」
「そうね」