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繁殖力が強く成長も早い竹や笹を活用しようか

 さて、荏胡麻油のスクリュー式油搾り器を作って今ある荏胡麻の実で試してみた。


「よしこんな感じだな、いい感じじゃないか」


 実際にその能力を発揮するのは秋の荏胡麻の収穫の後が主になるだろうからそれまでにある程度数を作っておくか。


 無論、今残ってる荏胡麻を全部絞ってしまってもいいが、荏胡麻は大事な非常食でもありいざというときには粉にして稗や粟と混ぜて団子にしたり薄く伸ばしてせんべいにして食べたりもする。


 南部せんべいももともとは雑穀を食べやすくするためのものだったようだが、最悪の場合稲が全く取れないという状況も考えて雑穀などをそれなりに備蓄する必要もある。


「まあそれはそれとして他にもやるべきことはたくさんあるか」


 荏原荘は河が近くて山も近い、そのため鉱物資源が豊富で鉄や刀を売ることもできるし、海は遠いが道はあり荏胡麻という特産品もあるので、商人はそれなりに回ってくるという場所だからそこまで困窮しているわけではないが豊かであるとも言い難い。


「使えるものは何でも使うべきか、となると竹や笹を使うのが一番無難だろうな」


 竹や笹なんていったい何に使うのだ? と21世紀の現代人だと思うかもしれないが、化学繊維や合成皮革、プラスチックやアルミ製品などが大量に作られる前は身の回りのものは竹細工で作るものがとても多い。


 例えば小学生が背負うランドセルの代わりや農作業の収穫物を入れるために竹細工の背負いかご、竹で弁当やお茶を入れて野良作業をしたりする時に持ち歩く弁当箱と水筒、服を入れておく葛籠(つづら)、料理の際の水切りなどに利用される(ざる)、掃き掃除に使う(ほうき)や熊手、魚や鶏肉を焼く時に刺して使う竹串、竹箸や竹製のしゃもじ、匙、団扇(うちわ)扇子(せんす)、和傘の骨、竈で使う火吹き竹、食器洗いにつかう(ささら)、日よけのための剛簾(すだれ)、穴を開けた竹に板を押し込む水鉄砲や竹とんぼ、釣りに使う釣り竿の和竿も竹で作られたりなど民具や遊具、工芸品に幅広く竹は使われており、日本での最初の利用は古くは縄文時代に遡るとされ、土器と共に竹で編んだ竹籠がどんぐりなど拾って住居まで運ぶときの入れ物などに利用されていたし、平安時代のかぐや姫で有名な竹取物語も、竹細工のために竹を取るということが当たり前に行われていたことを示すものだ。


 ちなみに竹で編んだ弁当箱は竹のもつ殺菌力のために中の食べ物が傷みにくく、竹を節の部分で切って上に穴を開けて使う水筒には保温性も高いという利点もあるし、衣類を入れておく葛籠も木の箪笥より衣類が虫に食われづらく持ち運びもしやすいというメリットが有る。


 ただし、室町時代では竹はもっと重要な使い方があってそれは武器だ。


 武器と言っても竹槍として使うという訳ではなく、和弓は竹を張り合わせて作る合成弓であるということでこの時代、戦国時代に鉄砲がはいってきても暫くの間までは主力武器である弓に使う竹というのは大事な存在なのだ。


「竹細工で売り物になるような物を作ればそれも銭になるんだがな」


 実際に室町時代頃に九州別府などでは行商用のかごをつくって市で売られていたりもするのだが……それは大都市だからできることであって、山の中の荘園の二十日市にわざわざ買いに来るやつはいないだろう。


「商品化が無理でも生活を便利にすることはできるけどな」


 竹は植物の中でも異常と言えるほど成長が早いが、これは竹が特殊な構造を持つ植物だからで、春先に地面から顔を出す筍は竹の若芽でこれが成長すると竹になるが、ここから高さが20メートルに達するのにかかる期間はたったの60日つまり二ヶ月だ。


 竹の成長が早いのには2つ理由があり、多くの植物は茎の先端だけしか成長していかないが、竹は節の部分が全て成長していく。


 筍を食べてみればわかるが節は筍の時からすでにあってその間がどんどん伸びていくからこそ竹はめちゃくちゃ成長がはやいのだ。


 そして多くの植物は、発芽して成長する際に種子に蓄えられた栄養分を使い終わった後は、葉からの光合成によって栄養をつくり、すこしずつ根から栄養を吸収して成長するが、竹は既に成長したものとも地下茎でつながっており、竹の本体は地面に埋もれている地下茎なので、竹はこの地下茎を周囲に伸ばして繁殖していき、この地下茎からたっぷりと成長に必要な栄養を補充できるために成長を早く行える。


 もっとも竹は地下茎でつながってるからこそ、一本が病気になると全て枯れてしまったりもするが。


 そして竹はめったに開花しないが、開花するとその後全て枯れてしまう。


 だがその周期は100年に一度くらいと頻繁に起こるわけではない。


「やはり竹は炭にして燃料や濾過材に使うのが一番か」


 竹を炭窯で焼いて作る竹炭の火力は普通の炭と比較しても遜色なく、燃料として竈や囲炉裏で使ってもよいし、袋に詰めて水に浸せば竹炭が不純物を吸着して、炭に含まれているミネラルが水に溶け出し、まろやかな味わいの水になる。


 竹を炭化する際に出る煙を採取して、それを冷却し液化させたものは竹酢液(ちくさくえき)となり、それには竹の保つ殺菌成分が豊富に含まれているので虫除けや腐敗防止に役に立つ。


「竹の皮の草履は履物としても丈夫で便利なんだよな」


 竹皮で編んだ草履は履き心地も良くて通気性に優れているため、足裏も蒸れない。


 稲わらで編んだものより耐久性や耐水性も高く実用性も高い。


 そして先を尖らせて植えれば木材を使わないでも鹿砦を作ることもできる。


 落とし穴の底に尖らせたものを設置する狩猟方法は、遥か昔から使われてきたが、竹と間伐材で檻をつくりイノシシなどを捕獲することもできるように狩猟罠の道具にも使える。


「問題は笹をどう使うかだな」


 竹はそのように沢山使いみちがあるので良いのだが、笹はそうでないのがちょっと悩ましい。


 ちなみに笹は背が高くならないだけで竹と同じ植物。


 笹の葉は弁当に入れるパランに使われたり、おにぎりなどを包むのに使われるように竹同様強い殺菌力はあるのだが……。


「笹の葉っぱはちまきや笹団子のような保存食作りに使うのがまずはいいか」


 戦場では手軽に食べられる保存食があるに越したことはないしな。


「あとは紙の材料にするか」


 和紙の材料は(こうぞ)三椏(みつまた)雁皮(がんぴ)が三大原材料だが笹も紙の材料にはできる。


「製紙をやるにしても暇な時期の副業だよな、となると竹の千歯扱きも作るか」


 千歯こきはあくまでも脱穀を楽にするための道具であるがそれがあれば脱穀作業が早く終わるから、そのあとのあいた時間で紙づくりをするのがいいかもな。


 この時代、油もそうだが紙も寺院や幕府などでは多量に使うから高く売れるはずだし。


 笹の葉の殺菌力の高さは切り傷などを洗った後に葉を傷口に当ててまいておくと、そこから化膿しずらくもなったりするようだから、絆創膏代わりにある程度使えるかもしれないな。

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