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セブンスドール  作者: こうえつ
死に方を見つける為に
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A.D.4020.初めての感情

牛肉を沢山買って、セブンスの歓迎会をすると言うクロム。

 かなりの高速でクルーズ中のモーターサイクル、ハヤブサの上で、セブンスが尋ねる。


「歓迎会って何? だって私は誘拐された感じだし、パーティーならシャンパンと大きなケーキが足りないよ」

 横を走るクロムが、セブンスの言葉に笑った。クロムが乗るモータサイクル、大型でタンクには「NINJA」と書かれていた。K社が最後に発売した内燃機関、ガソリンで動くマシン、V型3.5リッター800馬力。


「ケーキ? シャンパン? そんなもんはいらん。火をおこして、肉を焼く。厚く切って、塩と胡椒を多めにまぶして、炭火でじっくり、こんがり焼くんだ。かぶりつくと肉汁がジュワッと出るから、付け合わせは、瓶のままビール。がぶ飲して、次の肉を食うのさ。おまえが今まで行っていた、こじゃれた店より、はるかに美味いぜ」

 キョトンとしたセブンス。

「それって、人間の食事のプロセスじゃないような気がするけど」

「セブンス違うぞ。本来人間は焚き火を燃やし、獲物を捕って皮を剥ぎ、肉と血を食らった。歴史的にはつい最近なんだぞ。こじゃれた店で、すかした食事を人間が食べるようになったのはな。何万年も肉を焼く、そして食らう。そんな感じだったんだぞ」

「ふーん、良く解らないけど、そうなんだね……ところでクロム。私の身体おかしいかもしれないよ」

「どうした、どっか具合が悪いのか? もしかしてあれか、ドールは精密機械だから、定期的な調整が必要なのか?」

 髪をなびかせながら走る、白いモーターサイクルの上で左右に首を振るセブンス。

「いえそれはないよクロム。シルバが造ったドールズは、人間ベースで機械は使用していないの。どちらかと言えば丈夫な方だと思うよ。劣性遺伝子は排除されているから、劣化が少ない細胞、密度が高い筋肉を持ち合わせている、つまり病気になりづらいし、もし病気や怪我をしても人より早く治るの」

「でもシルバの家では、よくチューニングされていたと言っていたよな」


想い出したくないように、一瞬目線をそらしてからクロムを見たセブンス。

「あれは私達ドールを人間が完全に操る為に必要な作業。人間だって不機嫌だったり、寂しかったり、泣きたい時だってあるでしょう? いつでも笑顔で好きでもない人に抱かれたいわけじゃない。ドールにもちゃんと感情はあるし、楽しい時も泣ける心もあるの」

「そうか」


短いクロムの一言。風を切って速度を上げる、二台のモータサイクル、少しの間、二人の言葉が消えた。


「……そうだな……すまん。ドールにも感情はあるんだな、知らなかった」

 クロムが普段より、低い声でいたわるようにセブンスに語り掛けた。

 風の音で切れ切れだった、謝罪の言葉は優れた聴覚で、気遣いは心で、十分にセブンスに届いていた。

「ううん、気にしないでいいよクロム。確かに私たちは色々と制約を課されているから、人間には感情が見えずらいと思う。それに今の私はちょっと変なんだ。世界がこんなにも広くて変化にとんだ、興味深いものだったのに、昨日まで私は気がつかなかった。本当に今が楽しいの。マインドコントロールが外れ、自分のマスターがいない、壊れたドールだからかな、ふふ」

 自虐的だが楽しそうに笑うセブンスに、安心したクロムは話題を体調に戻した。

「そうか、ならいい。ところでセブンス、さっき体調がおかしいって言っていたが」

「あ、そうそう、なんか胃の辺りがキュ~って感じで、なんか食料を食べたい感じなの」

「おまえ、それは“腹減った”という現象だ」

「そうなんだ。お腹がすいて食事するって、一度も無かったから分からなかったわ」

「まったくどんだけ箱入りなんだよ。幸せだな。飯や着る物、住む場所を心配をしなくていいなんて。今の時代はこんなに科学が進んでいるのに、資源が枯渇してきてるし、シルバのような貴族が独占するから、一般人は餓死者が出たりしている状態だからな」


クロムは現状の人間の世界に広がる貧困化と差別について語った。

 ジャンプ航法を得た人類は、他の太陽系に進出し資源を得て、爆発的に人口を増やし科学の大きな進歩と共に黄金期を迎えた。しかしジャンプで移動できる距離は、一万光年を超える事は、科学の進歩があっても出来なかった。外への進出が止まった人類に待っていたのは、限られた資源の取り合いだった。


貴族側に昨日までいたセブンスは、クロムの不満を感じながら答えた。

「私は箱には入ってないってないよ。そうだよね、一部の特権階級は毎日豪華なパーティーを開いているもの。でもドールの私が裕福さに幸せを感じていたか、と言われれば、それは違うと思う。食べるもの、着るもの、行動を完全にシルバに管理されていたから。毎日、身体を美しく保つためだけに、食事はただの作業だと思っていたの。今まではね」

「今までは?」

 クロムの問いに、ルビー色の大きな瞳を一杯に見開いて、少し興奮口調のセブンスが今の気持ちを伝える。

「そう、おかしいの。さっきクロムの“飯を食う”を聞いて興味が沸いた。美味しそうだなと思った。どういう状態なのかな?」

「それは”腹減った”あたりまえの感情だ、いい傾向だなセブンス。ハハ」

 クロムが空を見上げて大笑いした。


シルバから解放されたセブンスは、全てのことに興味を示す。

生まれたままの感情が、新しい世界を欲していた。

 高速で流れる緑、顔って来る初夏のにおい、昨日までは知らなかったクロム、身体全体で、全てを受け止めて自由を感じていた。


二百キロで快調に飛ばす二人。山林の荒れた道を、この速度で会話しながら進むのは人間業でない。


「ねえクロムって、強化手術とか受けているの? ドールと変わらない運動能力。生身の人間じゃないように見えるけど?」

「そんなの受けていないぞ。多少、感がいいのと、バカみたいに身体を鍛えているだけだ」

 訓練のおかげと言うクロム、でも疑問は消えないセブンス。

「この速度でマシンを操れるのは、通常の人間には無理だと思うよ」

「まあ、俺は解放軍の中でエースパイロットだし、才能あるのかもな。それかやっぱり、アレのせいかな?」

「アレって? やはりクロムはサイボーグ?」

「いや、子供の頃から、肉と牛乳大好きだったからな。一日五キロ肉と二リットル牛乳は飲み食いしていたな」

 クロムの発言に人間を超えた存在であるドール、セブンスが呆れた。


「はぁ それは人体の構造上、ほとんど根拠がない話。バランスが悪すぎるよ。野菜でビタミンもちゃんと取らないとダメでしょ」


「ふん、野菜なんかは、家畜の食い物だ。人間は肉と牛乳で大丈夫なんだ」

 理解できないクロムの食生活に呆れながらも、セブンスが一部だけ肯定する。

「肉ばっかり食べていると、好戦的な性格になるのは本当みたいだね」

「ほっとけ! ところで、この速度でマシンを操れるのは人でないと言ったな」

 スピードメーターを確認したセブンス、220KMで山間を走る二人にモーターサイクル。

「ええ、でもクロムは人間として、辛うじて定義できそうだけど」

「フッ、そうか。人間として認めてくれるのはありがたいが。おれ達の後ろから迫る、奴はどうだ。人間なのか?」

 セブンスのサングラスに。後方視覚カメラの映像が映った、そこに急激に大きくなる、一台のモータサイクルの影。

「スピード上げるぞ!」


 アクセルをオンにしたクロムに頷き、セブンスもハヤブサのアクセルを解放する。クロムのNINJAは、どう猛な音を発して、一気に三百キロを越える。

 その横に、セブンスのハヤブサも並んだ、それでも、二人の後方から、ピッタリとついてくる一台のマシン。H社が最後に発売した内燃機関のモータサイクル、NS2000Z、1000馬力。楕円ピストンを持ち、六気筒ながら十二気筒エンジンの構造と、パワーを得て、一瞬で二万回転を越えるレスポンスを持っている。


山の谷間のアップダウンを高速で抜けていく、三台のマシン。

二千年前の機械がこの世界の風を抜き去る。

全力で走る二人の目に、青く光る彼方が見えてきた。


「あれは海? まずいわ……クロム!」

 セブンスの警告の言葉に頷くクロム。

 貴族の住宅が並ぶ、海辺の近くまで来てしまった。敵に発見される可能性が高くなる。

「まずいな……確かに」

 クロムとセブンスはためらい、アクセルを戻す、それを待っていたかのように、後方のNS2000Zが、二台の間を抜けて一気に前に出る。そしてアクセルを緩め、クルッと向きを変えて二人の前に止まった。真っ黒な皮の服に、ヘルメットをつけた、人間を越えた者が、セブンスに話しかけてきた。

「セブンス姉さん、久しぶりね」

その声を聞いても、解らないセブンスだったが、その者がヘルメットを取った時、それが誰であるか、どこで逢ったのか、ハッキリと思い出した。

「久しぶりね……エイト」

 シルバの水槽の中で育てられていた、セブンスの妹だった。


三人は海辺の小さな豪華で趣味がいい、レストランで紅茶を飲んでいた。

クロムが嫌いな、こじゃれた店でエイトの顔パスの店で。


「それで、私に何か用があるのエイト」

 紅茶を飲むエイトにセブンスは聞いた。

「妹が姉に会いに来たらおかしいかな。しかも逃亡中なんだから、心配するでしょ? ふふ」

 白い肌に顔はこの上なく整った目鼻立ち、意志の強そうな大きくて黒い目。

 セブンスにどこか似ているが、髪は青い色で、毛先にカールがかかったミディアムボブ。どこか人形めいた雰囲気はドール特有のもの。セブンスより小柄な身体が幼さを見せ、愛らしさも持つ、その美しさは、セブンスにも引けを取らない、セブンスの妹エイト。

「現れかたが派手だな、しかもワザとらしい。その辺は姉のセブンス譲りか?」

 エイトは、紅茶の茶碗を皿に置いて、クスリと笑った。

「そうかもね。私達ナンバーズドールは、各々に違う力を持たされているけど、基は一人の遺伝子、同じ塩素記号から造られているからね。似ててもおかしくはないわね」

 セブンスはクロムと同様に、エイトが偶然に現れたとは思えなかった。 

「エイトあなたの目的は何なの? 偶然なんてありえないよね。どうやって私を見つけたの?」

 エイトの真意が解らないセブンスの顔を見たエイト。

「私ね、姉さんの事を水槽からずっと見ていた。モニターを操ってずっと見ていたの。この星の全てのカメラを使ってね。姉さんは私の事なんて、興味が無かったでしょうけど」


海辺の夕方の強い風。流されるセブンスの髪が、自分の顔にかかったのを右手で払ってエイトを見る。


「エイトの事は知らされていなかった。妹がいるなんてね。でも、あの日聞いたわシルバから。そして次のドールが完成したら、私はいらなくなるって……言われた」

 大きな瞳を柔和な表情でセブンスに向けるエイト。

「姉さんがいらなくなるって? フフ、おかしな事を言うのね。姉さんは特別なの。たくさん足掻いてもらわないと。全ての運命と感情に。それと私、見ていたよ。姉さんがお父様にシルバに何度も抱かれるの」

 クロムの反応を楽しみに笑うエイト。紅茶嫌いのクロムが、八杯目のコーヒーを飲み干している。

「ふう。それにしても、ここのコーヒーは美味いな」

 シルバとセブンスの関係など意に介さない、クロムが満足そうに呟く。

「豆が天然ものだからね。それ一杯であなたの月給が飛ぶわよ、クロム」

 クロムの方を見て、ほおづえをついて見たエイト。

「美味いはずだな。だが、俺の入れる戦場でのインスタントコーヒーは、もっと美味いぞ。今度会ったらご馳走するぜ」

 そう言うと、スッと立ち上がったクロムを見上げたエイト。

「いいわ。私はコーヒー嫌いだから。ふ~~ん、姉さんの趣味って、こうゆう感じなんだ」

 サングラスをかけたクロム。

「紅茶はいれるのが面倒だ。コーヒーにしとけ。うまい肉も食わせてやるぞ」

「有り難う、アンドリューサルクス。ただ、今度会うときは、あなたの死体と、ティータイムになりそうだけど?」

 苦笑いしたクロムが不思議に感じた事があった。 

「そういえばエイト、なんで俺の名前を知っている? おまえも箱入りで出たばっかりなんだろう?」

 幼なさが残る顔で違います、と口をとんがらさせたエイト。

「箱じゃなくて培養水槽! あなたの事? フィフス姉さんに教えてもらったの。知っているでしょうクロム……最凶の衝撃のドール」

「フィフス姉さん!?」


現存するドールで一番有名な、戦いの天才と呼ばれるフィフス。

クロム達、解放軍に立ちはだかる最凶な存在。

フィフスの名前が二人から出て、セブンスは不意をつかれた感じだった。

「クロム、フィフス姉さんと知り合いなの? 私は聞いてなかったけどね。なんで黙っているたのかな」

 セブンスがクロムを疑惑の目でチラッと見た。

「な、なんだよ、その目は……前にちょっとだけ関わりがあっただけだ……う、セブンスその目はやめろ。大体、俺たち恋人でもなんでもないだろ!?」

「へえ、そうなんだ。確かに私はあなたの”捕虜”だし、別にいいよ、フィフス姉さんって、すごいボディラインだものね」

「だから違うって!」

 クロムとセブンスのやり取りを見て、微かに笑ったように見えたエイト。

 その顔を見て、フッと笑ってセブンスの肩を叩いて“行くぞ”と合図して、店の出口へ向かうクロム。

「あ、そうそう。エイト、おまえちょっと幼児体型だな。ちゃんと肉は食っているか? 背は小さいし、もっと胸と尻はでかい方が男には受けるぞ。その辺は姉さん達、フィフスとかセブンスを見習えよ」

 テーブルに肘をついたままでエイトが答える、

「ありがとうクロム。自分でもとっても気にしている事を、ズケズケと言ってくれちゃって……アンドリューサルクス、大型恐竜の野蛮人! でもフィフス姉さんと、愛し合って良く平気だったわね。こうして生きている事は素直に感心するわ」

 寝た? またセブンスが疑惑の目で見たが、クロムは真剣な目でエイトを見た。

「フィフスには借りがある。いつか勝敗をつける時が来るだろう。じゃあなエイト、次に会うのは戦場だ」

 クロムが右手を高く挙げて、エイトに別れの挨拶をする。


 エイトは不思議な喜怒哀楽が混ざった表情を浮かべて、二人のモーターサイクルが、遠ざかる音を聞いていた。憎しみと愛しさと楽しさと寂しさが混ざった、その黒く大きな瞳に雲が写った。

 さっきまで静かだった海辺は、風が強く巻き始め、雨雲が広がり始める。

「……嵐がやってくるわ。それも銀河が揺れる程の」


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