A.D.4021.世界を変えるワガママ
セブンスドール最終形態、その名はホワイトノヴァ。
ブラックホールエンジンに代わり、創り出された、小宇宙を内包し、小宇宙が起こすビックバーンのエネルギーをパワーにかえる。コズミックエンジン。
コドクワクチンが作り上げた、抗マイ神様用のマシン。深紅のボディは透けるように内部から大量の光が外部に漏れ出して、臙脂色に輝く、特に胸にはまれた巨大なダイヤモンドからの光量はすさまじい。
七海が二千年前に始めたマイ神様の作成、それを抑制する為に造られた、コドクワクチン、両方の最終制作者である沙耶が想定した未来。
二十一世紀、世界はAIの出現により激変した。AIは人間を遙かに越えるスピードで進化を続け、人類の生活を裕福にした。だが、全てのAIに自我が生まれたとき、同じ事を言い出す「人類は銀河に必要ない」と。
遠い未来、七海のマイ神様が完成した場合も、同様な考えにたどり着く可能性を考え、本物の神になる寸前、神になる者が滅びを選択した場合、それを止めるために、沙耶のプログラムはその強大な力に対抗できるように、ホワイトノヴァを作り上げた。
抗体であるセブンス自身が滅亡を望む神にならないように、最後のキーはエイトに託された。自分を止める為に造られた、輝くマシンを見たナインは思わず呟いた「美しい」と。
ホワイトノヴァの内部は光の粒子で出来ており、コクーンは持たない。質量の有る光によって構成される操縦席で、セブンスは沙耶の意志を感じていた。
「ナイン。沙耶は、あなたを害する為に、光の機神を造ったわけじゃない。どうか、話を聞いて」
微笑が笑いに変わったナイン。
「ふふ、あはは……やはりセブンスと沙耶、私にとって二人が最後の試練というわけですね、いいでしょう、決着をつけます」
ダークーマター。暗黒物質をエネルギー源とするブルーノヴァは、右手を高く上げた、その手に宿る、大剣。時間も空間も削り取る、ブルーノヴァの力を具現化したもの。
ラバーズとしてセブンスの横につきそうエイトがうなずいた。
「直接見て納得した。シルバはセブンスドールで重力の研究を進めた。そしてついにブラックホールの内部を見るにいたった”事象の地平”この宇宙の真理の門をナインは見たのよ……ナイン……戦いたくないの。お願い話を聞いて」
「……戦うしかないの? エイト、どうしたらいいの!?」
悩むセブンスにナインが動きを止め、猶予を与える。
「戦いなさいセブンス。蟲毒プログラムは、最後に相手を食らいつくした者が生き残る。この戦いは避けられないのです。愛する人を生かしたいなら、私を倒しなさい」
セブンスの左目が輝く、二千年の時を越えた愛が銀河の行方を決めようとささやく、セブンスにもその想いが伝わった。
光の機神の右手にビックバーン、宇宙創成の力を持つ大剣、昴が握られた。
先にナインが動く、揺らめく黒い炎を纏った真理の剣を右に払う、空間と時間が削りとられ、剣の軌道上のものは消滅する。
回避するホワイトノヴァへ切り込む、青き機神、数度の接近と回避が行われ、再度、攻撃を仕掛けたブルーノヴァに、回避を図ったホワイトノヴァ、その時、見えない壁に邪魔され動きが止まった。
剣先を返し、セブンスの乗る光の機神のコクピットを突く青き機神に、セブンスが初めて剣を振るう、二本の究極の力がぶつかる。
全てを消し去る真理の剣。創成の力を持つ昴。
生と死の力が漆黒の宇宙を輝かせる。
真理の剣の通った空間は何もない空間に変わる。
そこは時間も物体も存在できない、先ほどから切られた空間は、三次元の物体は入ることが出来ない空間、ナインはセブンスの動きを読み、周りの空間を削って、動きを制限していく。
ブルーノヴァが剣を振るたびに、徐々に動ける範囲が狭まり、追い詰められていくセブンスが乗る光の機神。
「逃げ場は無くなった。これで決着がつきます」
ナインが勢いをつけてセブンスに向かう、削られた空間に邪魔されて動けない、光の機神に、ブルーノヴァの剣がコクピットへと刺し込まれた。
ホワイトノヴァの亀裂が入った胸から、小さな光の球が見えた。勢いは止まらず、そのままナインの剣先は進む。
「なにかおかしい。この球体は……まさか!?」
エイトがセブンスの意図をこの時初めて知る。
「わざと動けないふりをして、正確に、この球体を突かせたの!?」
ナインの剣が小さな球体に触れた時、ビックバーン宇宙開闢が起こった。
剣を抜こうとするブルーノヴァ、その剣、腕、身体と、徐々に強い光に包まれる。騎乗するナインにも光が上がってくる。首を必死で振り、否定しようとする。
「こんなまやかし……宇宙は静寂に包まれるべきなのです。ビックバーンが終わった時には、世界は冷えてすべての生き物は消えてしまう。そんなうたかたの幻を追ってどうなるっていうんです! セブンス!」
光が漆黒の闇を消していく中でセブンスが笑顔を見せる。
「いいの。全てうたかたでもね。消えてしまったら、また始めればいい。今、あなたの剣で新しい宇宙が始まったようにね」
広がり続ける光にナインは肩を落とす。
「なぜ? 始まらなけらば、終わりもないのよ。神になるために造られた者には自由など必要ない。二千年の愛なんか望む事もゆるされない。それなら、最初から全てない方が悲しまないのです」
セブンスは初めて自我を見せたナインに手を伸ばす。
「いいの。ワガママで。女はそんなものよ、自分の好きなように生きて、愛しなさい心中の人を。それで世界が滅びてもいいじゃない。だって、二千年前に七海は哲士を助ける為に、世界を消すかもしれない、ワガママ、を押し通したのよ。ナインも言っちゃいなさい、自分の本当の気持ちを」
ナインの身体は全てビックバーンの光に包まれていた。美しい顔を伏せて青い瞳は涙に零れた。
「私は神になるもの、ワガママなんて……でも、忘れられないの、あの人と一緒にいたい……の」
セブンスの胸で起こったビックバーンに、ナインの心が影を加えていく。
「創成と破滅は一つであるもの。今それが分かりました」
ナインが呟き、もう一度セブンス問う。
「本当に……私は……愛していいのですか? 神にならなくてもいいの?」
セブンスが大きく頷いた。
「神様なんかやめちゃえ! 普通の女の子に戻ります! どっかで聞いたセリフだけど、それでいいよ……でも、その前にやりたいことがあるの」
ナインが顔を上げた、セブンスは遠くを見つめていた。
「このビックバーンと無の影が作る宇宙は三次元より上位の次元。消えてしまうまで時間がない。この高次元の宇宙が存在している間に、やるべきことがある。それが私とナインを呪縛から解き放つ……手伝ってナイン」




