A.D.4020.オレンジの時間
オレンジ色の夕暮れが広がる。街からかなり離れた、森の中に墜ちる太陽。
人間が住めそうな外観を、辛うじて備えた家。家の中、 セブンスと、謎の男が座っている。
「ふ~~ん。あなたはこの帝国ミネルバと、現在交戦中の自由連邦アウローラの兵士だと言うわけ?」
大柄の男は頷いた。
「そうだ。名はクロムと言う」
「信じる根拠は無いけど、一応聞いてあげる。で……本当の目的は何?」
強靱な筋肉を纏った男、クロムが指を指した。
「おまえだよ。セブンス」
クロムを見る美しき人形。そのルビーのような紅の瞳。
「なんの為に? 私をさらって身代金でもせしめる気?」
「そんな、もったいない事はしないさ。おまえは銀河一のドール、使い道は他にもある」
謎の笑みを浮かべたクロム。
「そう、まあいいけど……ところで、そろそろ、私は眠くなったの。今日は意外とハードだったからね」
アクビをして、手を伸ばすセブンス。
「そこで……このダストボックス、汚いこの部屋から早く出たい」
「うん? 寝るところは、ここしかないぞ」
「ええ!? 本気? こんな所で暮らしているの人間が?」
しげしげと、部屋を見渡すセブンス。
シルバの屋敷のベッドルームと、何を比べたらいいか解らない程、全てが違いすぎる。
「まあ、オレと一緒に寝れば、ベッドだけは確保できそうだな」
セブンスが首をかしげて、クロムを見た。
「あなたと? 冗談……しょうがない。隣の部屋で寝る事にするわ」
立ち上がり、ベッドルームの出入り口へ向かう。
「うんーーん、仕方ない、おまえは上等なドールなんだよな、ほれ、これをもっていけ」
クロムが薄くて、お世辞でも綺麗とは言えない、毛布を投げてよこした。
「……一応……ありがとう」
それを右手に引っかけ、セブンスは部屋を出て行った。
隣のダイニングは、生活範囲であった事が解らない程の汚れ具合。
あまりの汚れ具合に、そこで眠るのも諦めて、ため息をつきながら、もう一枚の扉を開けて外へ出る。
「……ふう、私はいったい、なにをやりたいの……教えてよ左目の人」
外はまったく光が無く真っ暗だった。雲が早く流れ、月も星も見えない。樹木が揺れて奇妙な音を出す。セブンスは、思わず震えた。
今まで感じた事のない、暗闇と自然に感じた怖さ。昼間はなんでもなかったのに……ブルッと、再び振るえたその時、後ろから声がした。
「可笑しいだろう? これだけ科学は発展しても人は夜が怖い、闇を恐れる。そこから得体の知れない何かが、自分を捕まえに来そうな感じがする。最高の技術で造られた人形のおまえも同じようだな」
クロムの言葉にセブンスは、揺れる黒い樹林を見ながら呟いた。
「怖い。昨日まで人形だった私には無かった感情」
クロムが素直に自分の感情を話す、セブンスを見つめた。
「マインドコントロールが外れたのか……初めて見る反応だな。ナンバーズドール、シルバが造った他の人形にも逢ったが、おまえは予想したのと違う。不思議なものを感じる……おまえの左目に宿る者のせいか」
解らないと首を振るセブンス。その横に座ったクロム。
「おまえの感情は、生まれたばかりだ。色んなものを見て感じてみろ。そうすればおまえが望んでいるものも……」
セブンスが言葉を続けた。
「恋する事もできる……かな?」
「ほう、これは以外な答えだな。ところでオレはそろそろ、風邪引きそうなので部屋に戻るが……どうする?」
クロムを見るセブンス、その姿は親に置いていかれる子供のような幼きもの。
昼のモータサイクルの操縦や、マシンウォリアとの戦いの痕跡はまったくない。
真っ直ぐな銀色の腰まである、さらりと流れる髪が夜風に揺れる。
ドールらしい完璧な表情は消え、少し幼さを感じさせている、大きくてルビーのような紅の瞳は、すがるようにクロムを見つめる。
「一人になるのが怖いのか?」
クロムがセブンスに聞いた。
首を振ったセブンス、桜色の唇をギュッと結んで我慢しようとしている。
本当にこれがドール? 姿は人間離れして美しいが……この弱さ)
クロムが思案する。そして戸惑いを口にする。
「困ったものだ。その整った顔や身体、そして今日の戦闘能力。間違いない銀河に名高いナンバーズドール、だがセブンス、おまえのそんな、子供のような表情を見せられたら……うーん、うまく言えないな」
頭をガリガリと掻き困った表情をした、大柄な反乱軍の戦士は、横に座るセブンスの背中に自分が掛けていた毛布を広げた。
セブンスの背中に暖かい感触が広がる。そしてその感触は心にも広がった。
セブンスは、立ち去ろうとする、クロムの手を無意識に握る、それは怖さ、初めて覚えた感覚と、今まで誰かに付き従う事しかなかったから、一人ではどうしていいか分からない気持ちも表していた。クロムの手はゴツゴツして大きく、無骨でそして暖かった。
セブンスが初めて感じた”人のぬくもり”
自分を見たセブンスの左の目の奥に輝く、不思議な光がクロムを引き込む。
(戦いに疲れたのかクロム……それかセブンスに惚れた? バカバカしい)
くだらん、クロムは立ち上がった。
「オレが外で寝るよ……ベッドは使っていいぜ」
セブンスは、クロムの手を握ったまま、微かに笑って首を振った。
「ううん、いい。一緒でいい……傍にいてクロム」




