A.D.4020.自由の渇望
空中に二筋の光が現れ、そして一瞬で、その光はバルコニーへ達した。
戦闘歩兵”マシンウォリア”
ダークマター技術で造られた、アキシオン粒子バッテリーを搭載。
二千万馬力を発生し、地上を400KM、空中を2000KMで移動。
武器は高出力ブラスタガンをメインに搭載する。
マシンウォリアが本気で動き出せば、この広い邸宅も数秒で、完全に焼き尽くされるだろう。シルバはその高い地位と莫大な資産で、最新型の軍用マシンウォリアを護衛として二機、自宅に配備していた。
「警告。十秒以内に、自分の足を折り、その場に伏せなさい!」
マシンウォリア一号が、セブンスに警告した。その音声は、爽やかな青年のものがモニタリングされ使用されている。
戦闘だけを目的に造られたマシンウォリア、声は優しいものだが、その目はからは感情はまったく感じられない。
セブンスは「降参」とお手上げポーズ。だがある一点を見ていた。
背中のブラスタガンを抜き、見ていた一点、シルバに躊躇なくフル連射を初めた。
即座に、マシンウォリア二機が、シルバの前に移動して光弾の攻撃を阻む。
最高出力で打ち出されるブラスタの光弾。だが、軍用であるマシンウォリアの装甲は、宇宙戦艦と同じ、Zジィーノ粒子で造られており、小径のブラスタでは、破壊する事は出来ない。マシンウォリア一号がシルバの安全を確保し二号が前に出る。
まさかのシルバへの急襲で、フォーメーションを変えた、二機のマシンウォリア、その隙をつき射程距離外へ身を逃がしたセブンス。
「私を攻撃するとは……殺せ……ただし、頭だけは壊すな!」
シルバの言葉に、二号はブラスタガンのパワーを再設定し、セブンスへの攻撃を開始。オレンジの光が、セブンスのいる手摺りに淡く写ったその瞬間、バルコニーごと、手すりが砕かれる。
スカートの裾をひるがえし、手すりの上を回転しながら、攻撃を避け続ける。
それを追い、連続で光弾を撃ち出すマシンウォリア。追い詰められていくセブンス。バルコニーの端で、手摺りは終わっている。セブンスの動きが止まった。
マシンウォリアが再び、セブンスへ警告を発する。
「そこで止まれ。そして手足を撃ち抜かれなさい」
その爽やかな青年の音声で発せられる、強い警告を聞きながら、セブンスは大きな溜息をつき、スラリと伸びた両足に力を込めた。
マシンウォリアがセブンスの脚を狙って、ブラスタガンを連続で打ち込んでいく。身体を回転させながら回避するセブンス。次々に粉々に砕かれていく白亜のベランダ。最後に残った手摺りの上で止まったセブンスに、マシンウォリアのレーザーサイト、紅い点が写り込む。
「これが最後。抵抗は止めなさい」
直後にセブンスの脚を狙った射撃が始まった時、セブンスは両足の力を解放し、空中へ飛び出した。空中で猫のように身体をまるめ、何度も回転して落下していく。高さは二十メートル近い。
着地時に地上に叩きつけられるタイミングで、転がりながら両手両足で着地の衝撃を分散する。低く肉食獣が獲物を狙う格好になったセブンスは、高いバルコニーを見上げた。マシンウォリアの二機が、シルバの命令を待つ。
「追え! 絶対に逃がすな! セブンスの首を、私の所へ持ってこい!」
二機のマシンウォリアが、機動ブラスタを点火、空中に浮かびあがる。
マシンウォリアは、背中に装備したブラスタを加熱し、イオンを高速で吹き出し空中を飛ぶ。
はるか上のシルバを、見上げたセブンスが呟く。
「あれ……本気で怒っている感じだね」
マシンウォリアが空中からが近づく。それに気がつき、低く構えた姿勢から、前方のガレージに一気に飛び込む。
オレンジ色の光が煌めき、地面に幾つもの穴が開く。
「ふぅ」
ため息をついたセブンスは、飛び込んだシルバのガレージの中を見渡す。
「さて……どれに乗って、逃げようかな……」
自動で灯りが点灯し、巨大なガレージに置かれた、シルバの壮大なコレクションが現れる。それは人類が造ってきた、乗り物の一大展示会。
セブンスの左目に宿る星が瞬いた。
「つぅ……え? これがいいの? 凄い骨董品だよ。しかもこれ……はい、はい、解りましたよ」
セブンスの左目に宿る微かな星。それは誰かの”記憶と意思”が込められていた。セブンスの耳に、マシンウォリアが急接近する音が聞こえる。
左目の星が囁いたマシンに乗り込む。マシンには“GS2400ハヤブサ”と描かれていた。
二十一世紀に造られたモータサイクル。S社が最後に作った内燃焼機関”ガソリン”エンジンを搭載する。白いフルカウルに青い風がペイントされている。
V型6気筒2.4リッター、500馬力、最高速度404KM。
二十一世紀のモンスターマシンのセルを回し、アクセルを廻すと咆哮を上げ、二千年前に”走る為だけ”に作られたマシンが、再び目を覚ます。
サングラスを胸の谷間から出し、掛けてから呟くセブンス。
「シルバ……回顧主義もここまで来ると立派だね。内燃機関、しかもガソリンエンジンって……うん? この臭いは?」
ガレージの中が、ハヤブサの出す排気ガスで満たされる。その独特なガスの匂いが、嫌いではない事に気づくセブンスが、フッと笑った。
(これも左目に宿る人のせい?)
クィイイイイインン、ガレージにマシンウォリアが進入、同時に攻撃を開始。
吹き飛ぶガレージのシャッター。クラッチを繋ぎ、ギアをローに入れ、セブンスがアクセルを一気に開く。
ギュルル、ハヤブサの後輪がその巨大なパワーで、簡単にグリップを無くして、空回りする。黒いタイヤのパターンを地面に残し、グリップが回復した瞬間、ハヤブサは前輪をふわりと上げて、一気に加速を始める。
セブンスの前に二機のマシンウォリアが立ちはだかる。
膝を地面につくまで落として、後輪を滑らせて一回転。マシンウォリアをハヤブサの後輪で外へ弾きだし、一回転したハヤブサを素早くコントロールし、アクセルを再度開け放つ。
爆発的なサウンドとパワーを得て、強烈な加速を開始するハヤブサ。この邸宅の入口へ向かい、閉まり始めた門をギリギリで駆け抜ける。
前方に長い下りの坂道が続く。その細いうねった道を一気に下る。
セブンスの瞳に、青く輝く、海が近づいてくる。
青く輝く乱反射、その海へ飛び込むように、一気に道を駆け降りていくハヤブサとセブンス。青い海しか写っていなかった風景に、一本の銀色の横に走るラインが現れた。
迫る銀色のラインに数秒でたどり着き、その銀色のライン、海辺を走るシーサイドロードを左に曲がり、ハヤブサの全パワーを解放し、再び加速を開始する。
数秒で300KMに達しセブンスのサングラスに貼られた、フイルム式の小型ディスプレイに二つの赤い点が写る。
空中を飛ぶ銀色の機体、マシンウォリア一号と二号。セブンスとの間を一瞬で詰めて来た。
風が幾筋も舞い上がり、その風と光を纏い、海岸線の道路を一気に駆け抜けていくセブンス。後を追うマシンウォリア。セブンスのサングラスの色が、光を押さえる濃いものに変わり、トンネルが間近に近づいた事がディスプレイされる。300KMで進むセブンスの視界の先に、小さな黒い点が現れ、その大きさが急速に拡大する、スピードを維持して、真っ暗なトンネルに飛び込む。
地上に降り、両足のローラーブレイドで、地上を滑り出すマシンウォリア。
数KMのトンネルの終わり、輝く光が見えてきた。
セブンスはブレーキをロックさせて、ハヤブサを半回転させて、道路の真ん中で止まった。埃とタイヤの焼ける臭い、視界が狭まったトンネルの出口付近。背中からブラスタガンを二丁取り出して、急速に接近してくる、マシンウォリアに狙いをつける。
二つのブラスタガンが、高速で光弾を打ち出した。
吸い込まれるように、光弾は光を引いて、マシンウォリアへ命中し、姿勢を崩したマシンウォリア一号が、トンネルの支柱に激突する。
「移動機器に障害が発生した。修理する、先に行け二号」
相変わらず、爽やかな青年の声で、一号が二号へ伝える。
一号を抜き去り、近づく二号へブラスタガンを打ちこむセブンス、その時、二号の前にオレンジ色の円が現れた。セブンスが思わず呟く。
「エネルギーシールド!?」
(エネルギーシールド)
自分の前に高出力の磁力の壁をつくり、敵の攻撃を防ぐ。 原理は電子レンジと同じであり、シールドは高エネルギーを蓄える。
その為、近くに生身の人間がいる場合は、人間を焼いてしまうので、使用できない。さっきシルバを守るために、マシンウォリアが、シールドを使わなかったのはその為だ。
セブンスの撃ち出した、ブラスタガンの光弾は、高出力の電子の壁に遮られて、左右に弾かれる。二丁のブラスタガンを背中にしまい、再びアクセルに手を掛けるセブンス。
そこへ、マシンウォリアから誘導弾が、セブンスめがけて打ち出された。
アクセルを一気に開け、半回転して方向を変え、全開で再び加速を始めたハヤブサ。
ハヤブサを左右に振るたびに、セブンスのフレアスカートがひるがえる、ジグザグに進むその横に、次々と着弾する誘導弾。最後の一発が、セブンスの大きなリボンを付けた長い髪に吸い込まれた時、視界が一気に広がった。
暗きトンネルを抜けた先、強烈な ダウンヒルを、急速に落ちていくハヤブサ。
セブンスの瞳に写る……緑の森……青い海……ダウンヒルの銀色の道、それはセブンスが求める自由への道。
「わ!」
小さく声にならない叫び。
ダウンヒルでさらに加速して、時速400KMのトップスピードに乗る。
ハヤブサの、横をかすめて立木に着弾する、最後の誘導弾。
身体を縮めて空気の抵抗を減らし、急なダウンヒルをスピードメーターが振り切るまでなお加速させる、セブンスを追い、トンネルを抜けたマシンウォリア二号。背中の機動ブラスタを点火して、再び空中へ飛び上がる。
その時速は1000KM、先行するセブンスの姿を簡単に捉える。
腕に装備された、ブラスタガンが瞬く。オレンジの光の筋が着弾し、道路が弾け飛び土煙が上がる。その後方から、地上を400KMで、追ってくる一号。
その時、セブンスのサングラスのフレームが振動した。
「……その先を……左に来い!」
送り主のアドレスはunknown。
「誰?」知らない男からのパーソナル通信。
一瞬ためらった、セブンスに迫るマシンウォリア。
意を決めて、身体をハヤブサの左側に落とし、一気に左へ方向を変えた。




