A.D.4020.絶望の選択
シックスドールを倒したセブンスは、急ぎ基地に戻り、鈴々の病室を目指す。
「なにがあった? セブンス」
レニウムがセブンスドールのドックから出て走るセブンスに併走する。
普段ならセブンスの脚力についていくのは人間には無理だが、シックスドールとの戦いで大きく傷ついた今は別だった。
「分からないわ。でも鈴々とクロムに、なにかあったととしか考えられない」
あの時、止めを刺そうとしていたシックドールが混乱した、セブンスは主人の鈴々に何かあったと直感していた。
「おまえがセブンスドールを呼び出し、部屋を壊した事と関係あるのか。それとその大けがは」
片足を引きずり、精一杯走る血だらけの姿に、レニウムは心配と疑問を持っていた。
「うん、それは後で。今は二人が心配なの」
エレベーターで病室のある棟へたどり着く。
セブンスが部屋の前に立つと鈴々の病室のドアが自動で開いた。
「あ、そんな。こんなの。うそ……なんでなの」
ベッドに横たわる鈴々。その横に呆然と立ち尽くすクロム。
セブンスの姿を見てクロムがこちらを向いた。
「セブンスか。怪我は大丈夫か……」
力ないクロムの問いには答えず、ベッドに近づくセブンス。
「鈴々……ねえ、起きてよ。前は驚かされたけど、今度は洒落にならないよ。ねえ! 鈴々!」
横たわる安らかな表情の鈴々。
動かない鈴々に予感があたり、最悪な状況に言葉を失ったセブンス。
「鈴々は死んだ、さっきな」
クロムの淡々とした言葉。
「なぜ? どうして? クロム!? あなたがいながら」
セブンスがたまらず叫ぶ。
「おまえを助ける為だ。シックスドールのコントロールと言っていた」
「シックスドールは私が倒したわ!」
クロムは力のない目でセブンスを見た。
「動きがおかしくなかったか? あのマシンと戦って勝てるドールはいないと鈴々は言っていた。一度、殺戮モードが作動したら、もう止められないと」
セブンスの満身創痍を見たレニウムが鈴々に語りかける。
「そうか、それでショックを与えるために、セブンスに勝機を与えるために……そうなんだな鈴々」
セブンスがレニウムの言葉に強く反応する。
「ちがうわ! あいつは私が倒したの。確かに苦戦したけど……鈴々が死ぬことは無かったの! 一人で倒せたのよ!」
レニウムは言葉を続ける。
「もう戦いを止められない、鈴々はそう感じた。だから……少しでもセブンスが優位になるように」
クロムが頷いた。
「一瞬だけ、制御できると鈴々は言っていた。ただ、その為には自分が死ぬしかないとも。繋がっているシグナルが途切れれば、シックドールは一時制御不能になるとな」
自分を助けるために鈴々が命を落とした。その事を納得できないセブンス。
「なんで!? 私は鈴々の助けなんていらなかった。自分で倒せた。だって、私は……銀河一のドール……でしょ」
懸命に自分にいいわけをするセブンス。クロムが本当の答えを述べた。
「鈴々は言ってた。私の妹は本当は強い誰よりも。でも、まだ幼く、感情も経験もない幼い子供だから手助けすると。自分で歩けるように……セブンス、鈴々の助けは必要だったんだろう?」
セブンスは首を振って必死に否定する。
「私を助ける為に鈴々は死んだの? そんな、彼女は、彼女の死に方は、クロムと一緒にいる。そうだったじゃない、それなのに私を守る為なんて。ずっといがみあっていたのよ」
クロムは頷いた。
「そうだ、鈴々は愛に生きる死に方を選んだ。これまではな。新しい王女が自分の娘だとわかり、命令に逆らえず俺たちの抹殺を指示され、自分の愛を邪魔するおまえを憎む深層意識がシックスドールを起動してしまった。無意識だった、そして後悔した、本当に俺が幸せになるにはセブンスが必要だと」
新しい帝国の王女は事実を知らないまま、母親にこの基地全員の殺害を指示した。強制的に。愛する家族、クロムを殺すなんて鈴々には耐えられなかった。
娘の希望、アルモニアを叶えてあげたい。クロムと一生一緒にいたい。
そして二千年の愛を知る鈴々は、自由な死を捨てた。
死と生と愛、全ての願いを叶えるために。
娘の意思を聞き、仲間を守り、未熟なセブンスを育てる。
自分の死に方を選んだのだった。
セブンスの紅の瞳から涙があふれ出る。
「ごめん鈴々。素直になれなくて。私。もっと強くなる。みんなを守り、七海の思いも叶える。ごめんね、私なにも分かってなかった」
レニウムがクロムに重い口を開く。
「最後は……鈴々の最後は……どうだったんだ?」
「幸せそうだったぜ。娘の意志を叶え、妹を助けて、俺の幸せを考えて……くそ!」
途中でなぐさめを話すのを止め、壁を何度も叩くクロム。
「そんな理屈なんてどうでもいい。俺は鈴々を死なせてしまった。損得なんて無視する俺がひよった……自分が許せない」
セブンスは左目から深い悲しみを得た、愛する人の幸せを守る為の不自由な選択。左目は涙を流し続けた。




