A.D.4020.紫と紅
「シックスドールがセブンスを殺すのを止められないのか鈴々!」
思わず鈴々の肩を掴んだクロム。
「心の中にあるセブンスがいなければクロムが自分のものに……その気持ちが、イドの怪物がシックスドールを動かしている。普段は人間に紛れている彼女は、私からの起動指示で殺戮マシンとなる。でもなかったの。先の戦いで私に死が迫った時も。だからもう私に起動する力はないと思っていた」
クロムが納得できずに掴んだ鈴の肩を揺らした。
「じゃあ、なぜだ。なぜ殺戮モードが起動した?」
鈴々は自室のディスプレイを見る。
「王女のせいだと思う。娘が言ったアルモニア、その言葉が私の非常用ロック解除のキーワードだった。強制的にシックスドールを起動する為の……」
馬鹿な! 大きく首を振るクロム。
「自分の母親に人殺しをさせるだと!?」
微かに笑った鈴々。
「あの子は私が母親だとは知らされていない。壊れたドールが王女の生みの親なんてあり得ないでしょう? 他のナンバーズドールと同様、帝国を守る兵器だと私のことは認識しているでしょう。反乱軍の殺戮命令はあたりまえの行為」
微かな笑みは消え、悲しみが溢れる鈴々。
「だからクロム、シックスドールを止めるの。私を殺して。彼女は自立型、自己の判断で行動する。停止を命じても反応がない。急いでクロム」
自分でクロムの手をとり、自分の首を掴ませる。
「あなたの力なら一瞬。さあ力を込めて!」
どんなに戦闘で追い込まれても、笑って敵へつっこむクロムが、弱々しい口調になった。
「なんでだよ。ずっと一緒だったじゃないか。今までシックスドールは動かなかった。なんで今なんだよ。ナンバーズドールは最強で冷酷で強いんだろう? 俺に簡単に殺されるわけない。フィフスも小生意気なエイトも、味方のセブンスさえ、驚異的な……こんなのおかしい」
クロムが弱々しく呟いた時、セブンスは窮地に陥っていた。
「さて、もう少し遊ぼうかな」
シックスドールはドールの壊し方を心得ていた。その気になればセブンスは既に破壊されたいた。対ドール用兵器は冷酷で強靱だった。圧倒的な速度とパワーで敵を圧倒、ただ強い拳と脚だけで、絶望と恐怖を浮かべる相手をなぶり殺すのが流儀だった。
「ふふ、ちゃんと殺さないと、私にやられるわよ」
精一杯の強がり、だがセブンスは腕、肋骨、膝を骨折し、端正な顔も切り傷が多く見られる。
「そうだな。とどめといくか。最後のあがきを期待しているよセブンス」
軽ステップで身体を一回させて、背中から回転して蹴りをセブンスの頭部へ。
砕かれた足、折れた腕も使って回避するセブンスの頭上を、レッドソールの円が描かれ、部屋の壁をガリガリ削る。
横に転がり距離を取るセブンスに、続けてかかと落とし。壁の傷が十字に刻まれる。
「おしゃれな靴ね、黒い外側に赤いソール。しかもジィーノZ粒子製か。その紫の化粧も個性的ね」
とどめから逃れた、思っていたより動けるセブンスに関心したシックスドール。
「よく動く……ああ、私専用の特注品だ。これで数百のドールを切り刻んできた。それにしてもさすがというか、こんなに長い間、私と戦えた者はいない。いいねセブンス」
余裕を見せ続けるシックスドール。セブンスの攻撃は当たってもダメージを与えられない。既に回避する力も残ってなかった。
「太刀でもあれば」
思うセブンス、しかし自室に武器は持ち込んでいない。
フン、シックスドールの左右の回転蹴り、かわしたセブンスに高速の拳の連打。
ガードの上から肉を削られ血が肉が部屋中に飛び散る。
「だめ……もう耐えられない」
動きを止めたセブンスにシックスドールがとどめの手刀を差し込む。
胸に食い込んだ手刀を、楽しみながら少しずつ深く差し込んでいく、シックスドールが血を吐き出すセブンスを見てサヨナラを言う。
「じゃあねセブンス、あとは任せて。全員無残に殺してあげる……うっ、何、何してるの鈴々!?」
シックスドールの動きが止まった、その瞬間、セブンスの左目に強い光が輝く。
「来い! 紅のマシン、セブンスドール!」
部屋が振動して巨大な物体が急接近した事を教える。
ガシャン、巨大な赤い拳がセブンスの部屋の窓を外側から破壊した。
「く、ばかな、部屋ごと破壊だと!? これは……七海の力か?」
呟くシックスドールとセブンスが真空の宇宙空間に排出された。
回転するセブンスを巨大な手が捕まえ、操縦席へと導く。
「大丈夫ですかセブンス」
紅の破壊マシン、セブンスドールのOSであるラバーズが心配する中、素早く操縦桿を握ったセブンス。
「逃がさない! シックスドール!」
飛び散った部屋の破片を蹴り、軌道を変えて逃げようとするシックスドールを捕まえる、セブンス。
「降伏しなさい、姉のパートナーを壊したくはない」
「まったくタイマンにこんな玩具持ち出して。それにしても鈴々は……まあ、いいか。フフ、愛に生きたわけね」
巨大な手に握られたシックスドールが笑った。
「さあ、握りつぶしなさいセブンス。でも忘れない事ね。心の中にある欲望は怪物。無意識な小さな存在でも怖いものだとな」
シックスドールの覚悟を見たセブンスは操縦桿に力を込めた。
真空の音のしない空間で散らばっていく、シックスドールは、キラキラと美しく輝いた。




