A.D.4020.死を操るドール
自室に戻ったセブンスは自分の感情を整理しようとしていた。
レニウムのチームで自分の生みの親と姉妹と戦い、結果、鈴々に大けがをさせた。
そして国レベルの戦いは一方的に終わり、数万の兵士が殺された。
自由を得るのに、感情を獲得するのに、今度は何を傷つけ、何をなくすのか。
帝国でつくられたナンバーズドール。その強大な力と、迷いのない意思。
自分にはないもの。セブンスは自分がとても弱く思えて、心細くなった。
「ふぅ。クロムの部屋でも行ってみようかな」
鈴々が瀕死の重傷になった後、クロムは彼女の所へ足げなく通っていて、セブンスとの接触は少なくなっていた。クロムが好きだと、強く認識させられた前の戦い。でも、自分の想いなど遥かに越える鈴々の死にざまと愛。
セブンスはクロムに近づくのが心苦しかった。せめて鈴々が回復するまでは待とうと思っていた。クロムの部屋に行くのは諦めてベッドに座った時に、来客を伝えるベルの音がした。
「はーーい。どうぞ入って。コンピュータ扉を開けて」
セブンスの言葉で部屋の扉が開き、一人の女が入ってきた。
「あなたは誰? 見たことないけど」
白いブラウスに彩度の低い赤茶のミニスカート。この基地で見かけたことはなかった、うつむいたまま無言の女。
セブンスが再び要件を聞くと、整った人形のような顔をあげて口を開いた女。
「望みは……アルモニア」
「え!?」
さっきの放送で女王が口にした言葉を発した女は、同時に大きく踏み込みセブンスの顔をめがけて右拳を撃ち込む。瞬時に回避するセブンス。人間を遥かに超える反射神経のドール、その頬をかすめた拳は壁にひびを入れた。
「残念。さすがにセブンス。出来損ないでもナンバーズドールか……クク」
見知らぬ女は薄笑いを浮かべて、次の攻撃に入ろうとモーションを起こす、その姿は人間の女だが、表情がない美麗な顔に均整な体系、ドールであることが分かる。
ベッドから左に回転しながら立ち上がったセブンス、頬の傷から出た血を拭いながら呟く。
「あなた、人間じゃないのね……ドール。でもその力……何者なの?」
特別なドールであるセブンスに傷をつけた女は、紫に塗られた口紅、青いシャドウの目をセブンスに向けた。
「はじめまして。セブンス。私の名前はシックスドール」
え!? その名に驚くセブンスに追撃態勢に入るシックスドール。
素早く蹴りこんだ右足の黒いハイヒール。
レッドソールの色が空中に赤い円を描く。
ハイヒールを左手で受けながら、その破壊力を察知したセブンスは自らはじかれ、威力をころした。
「ふむふむ。戦い方もなかなかだな。対人戦は慣れてないと思ったが。やはり七海の左目の力が働いているとみえる」
セブンスの動きに満足そうに頷いたシックスドール。
「つぅ、このパワーとスピード。私を凌駕している」
距離を取って立ち上がったセブンスの言葉にシックスドールが頷く。
「ああ、私はドールではない。あなたが持つ究極破壊兵器セブンスドールと同様の破壊兵器。死を操るドール。シックスドール」
「人間型の破壊兵器? では本体のシックスはどこにいるの?」
クク、冷笑したシックスドール。話し方も冷たく変わる。
「そんなの、おまえが知る必要はないんだ。ここで死ぬのだからさ。私に破壊されるのだから」
ふん、気合を込めてさらに速度をあげたシックスドール。
右、左と拳をセブンスにめがけて撃ち込む。
その速さと破壊力を察して、防御はせずに回避に集中するセブンス。
長い儀色の髪が宙を舞い、死を纏った拳をギリギリでかわし続ける。
「本当に素晴らしい。これで感情のコントロールができていれば……なあ、セブンス!」
シックスドールの攻撃速度はどんどん速くなっていく。
ついに驚異の速度にかわす事ができずに、顔を守った両手に拳を受け。損傷を受けるセブンス。
「手の甲にひびが入ったみたい。これでは柔は使えない。この相手は強すぎる。さすがシックスの破壊兵器ね。戦うのは無理……外へ連絡をとらないと」
セブンスが被害を確認していた時、紫の唇が動く。
「セブンス。究極なドール、でもパートナーの紅のマシンがなければ、私にはかなわない。対ドール用に作られた私にはな」
「べらべら、よくしゃべる破壊兵器だこと」
言い返しながらセブンスは壁を蹴って、勢いをつけて右ひざを叩きこむ。
だが、シックスドールは右手で簡単に受け止めて、そのまま力を込めセブンスの膝を砕く。
「ぐっ」
思わず声を出したセブンスを勢いよく壁に叩きつけたシックスドール。
「損傷が激しいなセブンス。さて、これで逃げる事もできなくなった。まずはおまえを壊してから、この基地に残る反乱軍を一人ずつ殺していく。勿論おまえの愛するクロムもな」
血の海に沈むセブンスの目に戦いの意思が現れた。
「く、そんな事はさせない!」
血みどろでよろめきながら立ち上がったセブンス。入口に目をやる。
(あそこから出るしか)セブンスの行動を呼んだシックスドールが首を振る。
「むだだセブンス。この部屋は私がハッキングしてロックした。おまえが壊れるまで誰も入ってこないし、カメラは眠っているおまえを映している……ああ、すごくドキドキする……銀河一のドールを破壊するなんて……嬉しい」
紫の唇はこれから起こる破壊行為の興奮を伝えていた。




