A.D.4020.戦さの天才
強烈な閃光が王宮を走った。
割れたステンドグラスと壁は一瞬で蒸発し、玉座の前方にあった壁は消滅した。
突き抜けたブラスタ砲からのエネルギーは、大きな穴を空けて通りの向こう側、新築の高層ビルの一階にも被害を出す。
「射撃完了です。予想被害の範囲内で収まりました」
ラバーズの言葉通り王宮の床を削ったブラスタ砲の光弾は、室内には最小限の被害しか出していなかった。
「現状を確認し報告しろ」
パイロットの言葉にコクリと頷いた紫の髪の少女。
「王宮には、王以外の生命反応は有りません」
オープンされた回線により、ラバーズから、直接戦果を聞いた王は自慢の髭を撫で、いつもの落ち着きを見せていた。王の周りには、ヘルダイバの攻撃より舞い上がった、石片や、金属の破片が、まるで時間が止まったように空中に浮ぶ。
「これがM・G・F……ヒッグス粒子の濃度をたかめ、過大な重量を与えて全てのものを止めてしまう重力の盾か……実に良くできている」
王が見ていたのはブラスタ砲で飛び散った炎。M・G・Fにより、炎までが空中に止まっていた。
王は白いヘルダイバを見上げ、賛辞を送る。
「見事だ。シュティレ大佐」
自分の名前を呼ばれたヘルダイバのエースパイロットは、コクーン(操縦席)で戦闘スーツのまま頭を下げた。
「ただ、相手はフィフス、シルバが造ったドールの中でも、戦闘の天才と言われた者」
「はい、仰せのとおりです。王は直ちに脱出を。お急いそぎください」
「うむ。この場は頼んだぞ。大佐」
「かしこまりました」
会話が終わってスイッチが切られた、M・G・F。
展開が止まり、空中に止まっていた、石片、金属片、炎が床に落ちる。
王の座る玉座が微かに振動し、床に沈み込んでいく。
王宮の下は迷路で脱出口が張り巡らされている。
玉座のまま地下に降りた王は、脱出用の宇宙船へ移動。
王が完全見えなくなった、ブラスタ砲の高熱で焼かれた部屋は、まだくすぶっていた。
「ラバーズ、VTRを確認してくれ、シルバとフィフスが蒸発する瞬間を確認する」
「了解しました……サーチしました、ビームが届く瞬間です」
ディスプレイに、2分23秒前の画面が映った。
「スローで再生します」
閃光が徐々に伸びる先に居る二人、シルバとフィフスが映っている。
「いくら戦いの天才といえども、ヘルダイバのブラスタ砲をまともにくらっては……なんだ、あのゆがみは?」
ビームが二人に届く直前、フィフスの周囲の空間がゆがみ始め、直後、二人の姿が消えた。
「なんだと!? どういうことなんだ。瞬間移動でもしたというのか? あの空間のゆがみはなんだ!?」
即座に二人の姿をアップにして、VTRを超スローモードで再度、再生するラバーズ。流れる画面を見たシュティレは驚きを隠せなかった。
「そんな……バカな。こんなやり方で……我々の攻撃を回避したというのか。ありえない。フィフス。衝撃を操るドール……まさに戦いの天才」
「痛っ!」
瓦礫と化した王宮の正面に倒れる二人、シルバが身を起こした時にフィフスが呻いた。
「ここは? どうやって、王宮の外に出たんだフィフス?」
問われたフィフスは、身を起こしながら答えた。
「魔法を使った。ちょっと痛いやつ」
身を起こしたフィフスは、全身に火傷を負い、痣だらけだった。
しかしシルバが見たものは、思わず言葉を失うものだった。
「フィフス、おまえ……それ」
「あ、これ? 少し痛いけど、最善の方法だったよね? ブラスタ砲から逃げる魔法としてさ」
シルバに笑ったフィフスの左手は、肩から外れ、複雑に捻れ、辛うじて皮だけで身体に付いている状態。
「おまえ、衝撃のリングを密着モードで最大パワーで使ったな?」
シルバの問いに、笑みを浮かべたまま頷くフィフス。
「そう、普段は腕から浮かせて、身体からは離しているリング。攻撃時の衝撃を自身が受けない為。移動する時は身体に密着させる。当然、その時はリングの衝撃波は小さくする。それを今回は付けたままで全開で衝撃波を撃った」
「そうか。身に受けた衝撃破で、ビームに焼かれるより早く外に飛び出た、その時に壁に当たり体中に怪我を」
「こんなのたいした事無いよ。ちょっと痛むけど」
フィフスはヘルダイバが射撃体勢に入ったと同時に、左手のリングを暴走させ、最大の衝撃波を生み出した。ヘルダイバのVTRで、パイロットのシュティレ大佐が見た空間のゆがみは、フィフスが起こした衝撃波が空気を揺るがしたものだった。
「タイミングが難しかった。遅いと二人とも蒸発だし、早すぎると手の内がばれて、すぐに第二弾が来ただろうからさ」
何気なく答えるフィフスを見たシルバは、ドールの制作者でありながら、ヘルダイバのパイロットと同様の言葉を口にする。
「フィフス、衝撃を操るドール。まさに戦いの天才だな」
生みの親に褒められて、少し赤くなったフィフス。
「大した事ないって! それより……来るよ」
ブラスタ砲で穴を広げ身を起こし、二人の前に白きヘルダイバの巨体が現れた。
フィフスの目の前に立った巨体十六メートル、ヘルダイバの外部通信がオンになった。
「自分の左腕を壊して、私の攻撃を交わしたのか? 凄まじいなフィフス」
帝国騎士団のエースパイロットの感嘆に、フィフスは意外そうに答えた。
「ふ~~ん。護衛軍っていったから、無能ばっかりだと思ったけど、あんたかなりやりそうね。ちょっとそそられる。それにその子もいい子みたいだね」
なぜかフィフスから褒められたシュティレ大佐。戸惑いながらも作戦通りに行動を続ける。
「衝撃のドールに比べれば所詮は内勤のパイロットだよ。君の戦闘への才覚が羨ましいよ」
会話を続ける、フィフスとシュティレ大佐、目の前のヘルダイバは特に怪しい動きを見せず、立ったままで重火器も構えていない。
「センスねぇ……わたしがそそられる男達は、そんな、あやふやなものを頼りにはしない。センスは99%の努力と経験の上に築かれるもの。わたしが恐れるのは、あんたみたいに、常に戦いに身を置いてきた古強者かな」
まっすぐ、パイロットが騎乗する、ヘルダイバ胸の部分を見つめるフィフス。
「ラバーズ、どうだ? もう気がつかれている。さすがフィフスという事か」
外には聞こえない、ローカル通信でラバーズと会話するシュティレ大佐。
「既にチームの他のラバーズに、インフォメーションを、高速パケットで送信しました。作戦スタンバイまで二分三十秒」
ローカル通信で二人が確認した作戦開始、その間も続けて話すフィフス。
「あと2分くらいか? そうやって攻撃の意思を見せずに、ポケッと立っているのは、わたしにまだ右手が残っているからでしょ? あんたの単独攻撃では逃げられてしまう可能性があるから。市街地、人間のような小さな目標は、検索も攻撃もヘルダイバには向いていないからさ」
「さすがだなフィフス。だがもう遅い。私のチーム全機でラバーズのリンクは完了している。一機では確かにおまえを逃がす可能性があるが、全機の視点が協調して届くようになった今は、完全に把握出来ている。逃げられないぞ、フィフス」
追い込まれた状況、だがフィフスは笑みを浮かべる。
「フフ、そうか。でもわたしは逃げる気などない……と、いうより逃げられないんだけどな」
シュティレが騙されないと答える、チームの体制が整う時間稼ぎも含めて。
「さっき、右手が残っていると言っただろうフィフス? リングを暴走させ、衝撃波で瞬間移動出来ると」
「フッ、その子に聞いてみなよ。わたしの現状のサーチは終わったみたいだから」
ローカル通信でラバーズに確認する大佐。
「ラバーズ。フィフスは何を言っているのだ?」
「大佐、フィフスの右手は殆ど動きません。数カ所の骨折、靱帯の断裂が見られます。たぶん、辛うじて一、二本の指が動く程度と思われます。繊細な衝撃のリングの操作など、とても出来ません」
「やはり、よい子だ。そのラバーズは良く学んでいるよ」
フィフスの言葉に、シュティレ大佐が口を開く。
「フィフス、おまえはローカルで遮断した通信も聞けるのか?」
「いいえ。でも、大体予想はつくよ。さて、その子に聞いたと思うけど、わたしの右手は殆ど動かない。さっきのあんたの攻撃を回避した時、右手でお父様を抱えて飛んだ。あの速度、人を片手支えるなんてドールでも無理。だからこれは幸運の部類だけど、ここに飛ぶまで右手は。奇跡的にギリギリ持ってくれたわけ」
フィフスの行動に違和感を持った、シュティレ大佐が尋ねる。
「フィフス、おまえは分かっているはずだ。この場に止まり時間を過ごせば、私のチームの包囲が終わり、おまえは逃げられなくなる。私が単独で攻撃しない理由も、おまえの言う通りで、衝撃波を使い移動をするのを恐れる為だ。人間が市街地に混ざれば、ヘルダイバでの追跡は難しい。全てはおまえの読み通り。なのになぜ、逃げられないとここで宣言する?」
すっくと立ち斜めに構えたフィフスが、巨大な白いヘルダイバを睨む。
「わたしが逃げる必要がないからさ。ここからはわたしのターンが始まる。散らばっているあんたのチームが集まるなら、丁度いい……全員まとめて、ここで殺してやるよ」
舌で真っ赤なルージュの唇をぺろりと舐めたフィフス。




