A.D.4020.ラバーズの問い
「全てはシルバの策略。反乱軍をわざとこの星に導き我を殺す。ここまでは良しとしよう」
エール王は全ての兵を失ったにもかかわらず、銀河帝国皇帝の威厳を持っていた。
「シルバ卿のシナリオはここまではうまくいった、我の命もそちに握られておる。だがな、それだけではこの国は奪えない。血が必要だ、高貴な王族のな。望みはなんなのだシルバ。おまえのような成り上がり貴族が、国王にはなれんぞ。貴族と国民、どちらの承認も得れないだろう。それくらいおまえなら分かってるはず、この後には何が待っている? おまえが欲しいものは何なのだシルバ」
王が考えたシルバの最大の望み、それは国を奪う事、だがそれは叶わないと、王家の血筋でなければならないと話したが、シルバの欲しいものは遥か上だった。
「神。それも一人だけの願いを叶える、マイ神が欲しい」
「マイ神!? 面白いな。舞台にはまだ続きが有りそうだ。だが我は、残念ながら脚本家のおまえから、退場を告げられたわけだ」
「残念ながら。これからはあなたは必要ない」
「そうか……それは残念だ。この寸劇は面白い。それに良い教訓も得られる。王の裁量だったかな? 最初からこの建物を惜しいと思わずに、王宮ごとおまえたちを消そうとすれば……」
またその話かと軽く笑ったシルバ。
「持てる者は欲張りだな。人より貴重な物を持つあなた方には、光る宝石が無くなる事は我慢できない事。それは反省するべきものではなく、生まれや立場によって価値観が変わると申し上げた」
王は意外な顔をして首を振る。
「反省? そんなものはしていない。良い教訓だと言っているだけでな……そう、全力で事にあたれば……まだ間に合う」
突然大きく地面が揺れ、王が座る玉座の後ろの、巨大なステンドグラスにひびが入り壁ごと崩落した。
「さて、シルバ。良い教訓には、良い凡例を示さねばなるまい」
王の後ろの壁が完全に崩落し、巨大な人型が姿を現した。
核融合炉三基の大出力を、ブラスタ装置で直接エネルギーに変換して動く破壊の化身。
「ヘルダダイバを用意していたのか?」
驚くシルバをスクリーンに捉えた、エール防空師団所属の白いヘルダイバ。
肩に描かれた荒鷲は金色に光る、国王直属騎士団のマーク。
全長十六メートルの巨体、右手には超大型のブラスタ砲が握られていた。
マシンウォリアのブラスタガンのゆうに一万倍の威力を持つ、ヘルダイバのブラスタ砲がシルバとフィフスに向けらる。
マシンの振動からパイロットを守る、操縦席コクーン、超伝導の糸で柔軟に機体と結ばれたそこには、護衛軍のエースパイロットが座っていた。
「照準はどうだ」
パイロットの言葉に、幼い顔立ちの紫の髪色の少女が答える。
「シルバ、フィフス、両名を捉えています。出力はいかが致しますか? あまりにパワーをあげると、建物と王に被害が出る可能性が有りますが」
パイロットは首を振る。
「100%の出力で撃て。そのように王がご所望だ……やつらを焼き尽くす」
「了解しました。ブラスタ砲のジェネレータにエネルギーを蓄えます、攻撃可能5秒後です」
紫色の髪の少女は人間ではない。ヘルダイバを動かすための戦闘OSラバース。
パイロットの補助を行う彼女は、たくさんのスキン(姿)を持っており、パイロットの趣味で変更可能だ。
「エネルギー蓄積完了。いつでも撃てます。被害予想は王宮一階の蒸発、及び向かい側のビルへの貫通破壊」
壁を壊して突然王宮に入ってきたヘルダイバを見上げるシルバとフィフス。
「お父様。どうやら講釈が過ぎたみたいねぇ。王はヘルダイバでこの王宮ごと消してしまう気みたいだけど? でもさぁお父様、このままブラスタ砲をフルパワーで撃ったら、王も危なくねーー?」
さっきから黙っているシルバに、危機迫る状況。イラッとしたフィフス。
「お・と・う・さ・ま・! さっきから何考えているの? このままでは、王が危険だから、あいつは撃てないよね?」
「いや……撃てる」
やっと言葉を返したシルバ。その返事に首をひねるフィフス。
「はぁ? だからなんでよ? 王だって死にたくないでしょう?」
「M・G・Fがある」
「うーーーん、ちょっと待って……もしかしてお父様、王のためにM・G・F、重力による完全ガードシステムを用意したとか?」
「ああ、王の要求でおまえのものと平行で作成せた。性能はペンダントの100倍。ヘルダイバのブラスタ砲なら、直撃しなければ十分防げるだろう。それが王座に仕込まれている」
フィフスは自分が身に着けているペンダントより高性能な、ヒッグス粒子を用いたシールドを王にも与えた話を聞いて、呆れかえる。
「解説している場合? お父様って本当はバカなの?…じゃあ、あの巨大なブラスタ砲で消えるのは……」
「そうだな、儂とおまえと、宮殿だな」
恐る恐るフィフスが聞いた。
「えーっと。これもお父様の脚本どおりだよね?」
「残念ながら違うな。王がここまで思い切れるとはが思わなかった」
「マジですか!?」
ヘルダイバのコクピットから、シルバとフィフスを興味深そうに見るラバーズ。
その姿は十二歳の少女。赤いワンピースを着た彼女は、良く人間のような振る舞いをする。例えば今のように、戦闘に関係ないものに興味を持ったりする。
戦闘OSとしては無駄な動作だが、極限状態でしばし見られる「マシンに意思が通じない」を避ける為である。パイロットの指示通り、なんでも行うのであれば、21世紀に売られていた”窓”という古代の原始的なコンピュータのOSと違いがなく、結局はパイロットの判断と操作がなければ何もしない、出来ないシステムになってしまう。ラバーズの擬人化システムは、今でも賛否両論有るが、殆どの場合に有効性を示していた。また、パイロットのメンタルの部分に強く作用した。
人間と変わらぬ表情や、立ち振る舞いを見せるラバーズに、パイロットの孤独感は消え、もう一人の相棒に生還への責任を感じる。一人であれば諦める場面でも、二人なら乗り越えて窮地から戻った、そんな事が実際に数多く起っていた。
エール騎士団のエースパイロットである、白いヘルダイバの操縦者も、横に浮かび上がる立体画像の紫色の髪の少女には、ヘルダイバのただのOS以上の信頼と愛情を感じていた。ラバースはパイロットとの相性度を上げるために、自分の姿や行動を、相手の会話を通して感情の動きに合わせて変えていく。カスタマイズされたラバーズはある意味、人間以上の理想のパートナーとなり得た。
「何を見ている?」
パイロットが話しかけると、少し驚いて後ろ振り向いた少女。
「い、いえ、す、すみません、作戦に影響を与えたでしょうか?」
パイロットは首を振った。
「いや、今のステータスは待機中だ。ただ、おまえが何を見ているか気になっただけだ」
緊張した表情をしていた少女は笑みを浮かべた。
「は、はい、銀河一の科学者と、衝撃のドールを見ていました!」
「そうなのか? どちらもラバーズには興味が無いと思うが……?」
雑談をしながらいつでも攻撃できるように操縦桿を握るパイロット。
それをサポートし続けるラバーズ。
「は、はい、え、えっとですね、わたし達ラバーズは、あなたの、ヘルダイバの、パートナーですよね」
目の前の少女の言いたいことが分からない、パイロットは聞き直した。
「それは、そうだが……おまえは他にも言いたいことが、あるんじゃないのか?」
「えーっと、ですね、そうなんです、それは……でも、こんな考えは」
白い機体の肩に金の荒鷲、そしてAを描くパイロットは、王の一番側に居る者であり、冷静沈着であり特別優秀な者。物事の意味の理解も早いし、行動も早い。だからこそ、育てたラバーズは、優柔不断でおしゃべりで注意力散漫な少女だった。自分の最高のポテンシャルを出すのは、自分と同じ性格で同じ能力の者とは限らない。まったく違うからこそ、新しい見方や、本当に正しい正解にたどり着く事が出来る。
「だからなんだ、はっきりと言え」
「で、でも、戦闘スタンバイ状態ですよ、あそこの二人は超、超、超、3つは必要な危険な人物なのです」
「だから……早く言え!」
「は、はい、えっと、どんな気持ちなんだろう……そう思ったんです」
「誰がだ?……もしかしてフィフスか。ふぅ、ラバーズはどこまでが演技で、どこからが本気なのが、俺には今でも分からないが、あんなアバズレを気にする事はない……同じ人工的な優れた者だとしても、ドールとラバーズは違うものだ」
「それは、そう、なんですが、でも、でも、です、自由ってどうなんだろうって……ちなみにアバズレは、20世紀頃に使われた言葉で、品行が悪く、厚かましい女の人のことですね!」
「ふぅ、自由か……おまえはフィフスの何にも縛られない、あの行動が気になるわけだ」
コクン、と頷いたラバーズは、大きな瞳をパイロットに向けた。
「わたしは、あなたの為にだけにある存在です、でも、わたしが破壊されたら、あなたは新しいラバーズを見つけて、アジャストするでしょう」
「いや、おまえのバックアップは自動でとられている、この機体が破壊されたら、最新のヘルダイバをもらって……そうだな、仕方ないから、おまえをインストールしてもらう……長い付き合いだしな」
操縦席の男がパイロットになったのは20歳、現在は50歳を過ぎた。
人間の寿命が延び、50歳では若い部類に入るが、ラバーズと一緒にいた30年は短いわけでも軽いわけでもなかった。
「それは嬉しいです! でもですね、身体を失い一度バックアップされたら、新しい身体にインストールされたら、それは本当のわたしなのですか?」
「それは……」
一瞬口ごもったパイロット、だがすぐにシステムの理屈を述べる。
「おまえのデータは完全にバックアップされている、今までリストアされたラバーズが問題を起こした話は聞いてない」
「そうですか、そ、そうですよね! わたしはプログラムだし、死ぬわけないですよね!」
「そうだ」
パイロットは知っていた、リストアした機体に馴染めずにヘルダイバを降りた者が多くいる事を。
「ずっとあなたの側に居られるなら、わたしは自由など要りません。クダラナイ思いつきでした、ゴメンナサイ」
パイロットは言いかけて口を閉じた。
(俺が死んだらおまえはどうするんだ……)
やれ……
直後、王からの戦闘開始の指示。
「ラバーズ、状況を確認」
一瞬で戦闘モードに移行した紫の大きな瞳が、冷静に迅速にシステムのチェックを行う。
「王のM・G・Fは展開完了、動作レベルは問題有りません。ただし、不慮の事故を防ぐためにブラスタ砲の斜角は浅く取ったほうがいいです」
「了解だ」
王の後ろに立つヘルダイバが膝を落して、水平に近い角度からの射撃体勢を取った。
「斜角、目標、エネルギー全てクリア!」
ラバーズの最終報告と同時にパイロットは、右手の操縦桿のトリガーに力を込めた。




