A.D.4020.銀河の嵐
セブンスとエイト、二人の究極のドールズが動き始めようとしたその時。
地上から、緊急通信が二人を別けた。メインコンソールに写った、ミネルバの高官の姿。
「この星のミネルバの代表である。双方、戦いを止めて頂きたい」
突然の自国の政治家の介入に、驚き憤るエイト。
「どうゆう事なの。今更政治家が割り込める状況でないわ」
エイトの言葉に構わず、話を進めるスクリーンに映る男。
「セブンスには自由を与えよう。仲間と共に。我々は包囲網を放く」
エイトが通信モニターを見て、再び叫んだ。
「何故? もう勝負はついているわ! この指を動かすだけで、セブンスを破壊できるのよ!」
コンソールのモニターの中で、星の代表者が首を振る。
「万が一だが君がセブンスを倒せなかった場合、エイトドールは破壊され、地上に落下する。直径2KMの硬質の隕石を、地上に衝突させる気か? 人が住める貴重なこの星が使い物にならなくなる」
エイトが首を振り自分の席に腰を落し、力なくセブンスを見る。
「姉さん……もう一つ明かすと、セブンスドールの移動方法も”ヒッグス粒子”を使っている。進む方向の粒子の濃度を薄くして、後ろを濃くする。その粘度違いにより移動が出来る。ほぼ光速で移動出来るわ。機動ブラスタなどの出力系が必要無く、音も振動も少ない……それに」
エイトは瞳を閉じて呟いた。
「……二千年前に組み込まれたコドクシステムによって、神への階段を姉さんは昇るの……だから」
二千年前。言いかけたエイトの唇に、モニターのミネルバの代表者に表情が変わった。
男の表情に唇を閉ざすエイト。
「セブンス、これで君たちは自由だ。早くこの星から出て行ってくれたまえ」
代表者の通信は終わった。
静かになったエイトドールの艦橋に、エイトが問う。
「これで……良かったの……セブンスを行かせて」
エイトの言葉にモニターの画像が歪み、ミネルバの代表の姿は別人に変わる。
褐色の肌に、強いカールが掛かった、黒い髪が胸元にかかる、神秘的な金色の瞳。エイトの問いに肯いたのは、ナンバーズドール、フィフス。
「そうよ、命令でしょ? エイト。もお! お父様、用事って、この子供の喧嘩の事なの? あ~~、なんでこんな事しなきゃいけないの。もっと、緊迫感がある楽しい事で呼んでよね」
エイトドールの艦橋が光り輝き、一人の男がテレポートしてきた。
テレポートしたのはドールマスター。セブンス達を造ったシルバだった。
「そう、くさるなフィフスよ。先におまえはクロムの兄を喰ったのだろう?」
シルバの言葉に「ああ、あれね」と思い出した褐色のドール。
「でも、一回で飽きちゃった。クロム・セカンド。やぱサードがいいな」
「まったく、おまえは……ところでだ」
シルバはエイトへ向かい、その小さなあごを掴み、嫌がるエイトの顔を力尽くで自分に向けた。
「エイト、筋書きと違う。なぜおまえはここまでやった? セブンスの力を引き出す必要など無かったのだ。適当に戦い、セブンスやアウローラの兵士に、疑問を持たせず、この星から出すだけで良かったのにな。もう少しで遠大な計画が台無しだ。二千年の計画だぞ!」
シルバの腕から逃れようとするエイト。
「私は姉様と戦いたくない」
エイトは抵抗を辞め、暗い表情で目を伏せた。
「セブンスはあのままでは、他の姉達とは戦えません。生まれた子供のような状態では、すぐに殺されてしまいます」
「その程度で殺されるならセブンスは、この銀河と人類を滅ぼす者としては、物足りないな」
「違います! 姉様は滅ぼす者になんてなりません!」
シルバが手を手を放すと、クリスタルの制御板に手をつきを振るエイト。
愉快そうに笑うシルバが、巨大なスクリーンに映る宇宙に向かって両手を挙げた。
「この時代、全てに行き詰まった人類には二つの選択肢が残された。一つは、この世界を破壊し踏み台にして、新たな次元へ進む道。一つは、この世界を守り粛々と滅びを待つ道。どちらを選ぶかは、おまえたちナンバーズドールに嫁せられた。私はシグナル受けた。神を造れとな。そして授かった蠱毒こどくプログラム。器の中に虫を選び入れて、共食いをさせる。そして最後に生き残った最も強い一匹を用いて望みを成就する」
「嫌です! そんな運命は嫌です!」
耳を塞いで首を振り続けるエイト。
その右目に微かに光が宿るのをシルバもエイト自身も、気づいていなかった。
エイトの微かな光を灯す右の瞳には、徐々に遠ざかるセブンスドールが映る。
紅き光を放ちながら、速度を上げるセブンスドールの姿。
漆黒の宇宙で銀河の光を帯びる星々。その輝きが一瞬だけ強くなり、巨大な銀河の嵐を予感させた。




