.D.4020.重力を操るドール
コンソールに伏せて、泣き続けるセブンスを見たラバーズが首を傾げる。
「あの~~どうしますか? 戦意が無ければ自爆でもしてみます? 残り54秒ですが」
ラバーズのあまりに冷静な態度に、苛つき大きな声を出すセブンス。
「うるさい黙れ! おまえは機械だから、プログラムだから、死ぬのは怖くないんでしょ!」
「ふぅ」小さくため息をついたラバーズ。
「こんなに情けないパートナーは初めてですね。私は破壊されるとフライトレコーダーに記憶を残します。再生された私はまた戦い、そして破壊されます。あなたは何百回も死んだ事はありますか? 大事なパートナーを亡くした事はありますか?」
セブンスは顔を上げてラバーズを見た。
ラバーズは高度な擬人化プログラム……感情が有ると言われている。
もし感情が有るなら、自分の愛するパートナーと一緒に、何度も何度も死を感じている事になる。
セブンスがラバーズをすがるように見た。
「ねぇ私は……私は……どうしたらいい?」
「さあ? 私に聞きます?……残り30秒です。どうしたらいいのか? そんな事は、あなたにはもう解っている筈です」
セブンスの左目の微かな星が光を放つ。
「人形だった私に左目が教えてくれた。死に方を見つけろと。そうすれば生き方を変えられるって。助けて……ちがう……助けたいみんなを。そしてクロムに……逢いたい」
スクリーンに写るクロムのヘルダイバに手を伸ばすセブンス。
伸ばした指先は、固いスクリーン画面に当たるが、クロムの機体を指でなぞる。
「行くの……クロムの元へ。それは誰にも邪魔させない」
手のひらをギュッと握り、迫ってくる攻撃衛星を睨み付ける。
生まれて初めて、願うセブンス。
「力が欲しい。希望を頂戴! みんなを守る為に。死に方を選ぶために!」
微笑み、ラバーズが高らかに宣言する!
「セブンスのリクエストにより、セブンスドールを再起動します。重力解放後に機体を再構築。メインエンジン、M・B・Eマイクロ・ブラックホール・エンジンスタート!」
攻撃衛星に砕かれた鈴々の機体を抱く、クロムの黒きヘルダイバ。
「セブンスおまえまで同じ目に。くっそ。俺には見てるしかないのか」
クロムは弾薬もエネルギーも切れ、目の前で行われる攻撃衛星からの攻撃、ダメージを受け続けるセブンスドールが徐々に壊れていく、美しい姿を黙って見ているしかなかった。
「鈴々からの無線も無くなった。セブンスも応答しない」
クロムが抱える青いヘルダイバ、静かになったまま。心が焦る。
「何か方法があるはず……なに? そんなばかな!」
セブンスドールが一瞬大きく輝き、氷が砕けるように粉々になった。
砕かれた紅色の破片は粉末のように、漆黒の宇宙に飛散していく。
散り散りに細かい破片になったセブンスドール。
永久凍土に吹く氷の嵐のように、細かく広く漆黒の宇宙へと散らばっていく。
「セブンス!」
さらさらと、流れて消えていくセブンスの姿を追い、絶望の中で名を叫ぶクロム。
「終わった。これで全てが終わったんだ……」
クロムが顔を伏せた、その目にほんの小さな黒い点が写る。
スクリーンに映った小さな黒い点。セブンスドールが消滅した地点に現れ、だんだん大きくなる。
球体は漆黒で、何の光も色も発していなかった。
徐々に大きくなった球体は、一定の大きさになると成長を止め、その場で回転を始める。
球体の辺りが歪み始め近くの空間が揺れ始める。
「この力は……なんだ。何が起ころうとしている?」
クロムがセンサーを確認すると、驚きべき値を表示していた。
「重力が発生している!? しかもこれは木星レベルの巨大惑星クラス」
宇宙に巨大な重力の嵐が吹き荒れる。
激しく揺れるクロムのヘルダイバ。鈴々の機体をギュッと抱きしめてそれに耐える。
数十秒間の激しい宇宙の嵐は突然止んだ。
……瞬間、まるで逆回しのVTRの様に、砕けた粉々の欠片が一点に集まり始める。
漆黒の球体を中心に、キラキラと瞬く欠片は、その形を再び銀河に再現する。
真紅の機体セブンスドールが再びその姿を現した。
”セブンスドール”M・B・Eマイクロ・ブラックホール・エンジンを搭載する銀河唯一のヘルダイバ。他のヘルダイバと違い、装甲を持たない非常に美しい姿を持つスマートな機体。人間が造ったものでは唯一“重力”でボディ結合している。重力結合は、本来は惑星レベルの質量がないとできないが、再構築された時に新たに起動されたM・B・Eの超重力により実現。目的、性能、全てが未知なマシン。
「重力による機体の再結合を完了しました。M・B・E状態グリーン。ラバーズはFタイプに換装完了。コントロールが復帰しました。セブンス、いつでもどうぞ」
真っ赤なジャンプスーツに着替えた、ラバーズFタイプ(ファルコン)セブンスドール専用のOSが可憐な姿で、全システムの正常起動を伝えた。
「了解ファルコン。あと3分で脳へのマニュアルインプットが終わる」
ファルコンに答えたセブンスの姿は、銀河一の美しきドール。
その瞳は紅く輝き落ち着きと自信に溢れていた。
再生したセブンスドールは、後付けされた移動用の機動ブラスタ、武器、盾、など全てが外れていた。
そのデザインは女神の彫刻ように硬質な美しい姿を見せた。
「……やっと本当の姿を見せたわね。セブンスドール」
巨大な浮遊要塞のコントロール室から、セブンスドールを見たエイト。
エイトの細い指が攻撃衛星の制御パネルに触れた。
「もう、準備はいいのかなセブンス姉さん。試験させてもらうわよ」
セブンスドールと対峙していた攻撃衛星が再び光に包まれる。
セブンスが目を開けてコンソールを見た、瞬間、ブラスタ砲がフルパワーで、一斉に撃ち出された。
光の束が、セブンスドールを直撃。
しかし光の束は、セブンスドールに着弾する直前に止まり力を失う。
「セブンスドールにビームが届かなった。エネルギーシールドを展開した? だが反射しなかった。それに機体の周りに見える……あれはなんだ?」
ブラスタ砲を途中で消し去った、セブンスドールに驚き、見つめるクロムに、黒い球体が薄く機体を包んでいるように見えた。
セブンスの目の前、円形のメータが幾つも現れ大量の情報を表示していく。
脳に直接インプットされた、セブンスドールの操作方法が溢れ出す。
両手を前に出しコンソールに触れると、セブンスの手の形に合わせて、光の制御パットが現れた。
パットに“戦いの意志”を伝えるセブンス。
「セブンスドール。宇宙に希望を見せる力を与えて!」
セブンスドールの姿が揺らめき、光の軌道を描き、一瞬で攻撃衛星の前に出る。
その速さ紅い残像を宇宙に残す。
腰に手をかけるセブンスドール。その手に剣の柄が現れ一気に引き抜く。
黒い光の粒子が、剣の形に放出され鈍く輝く。
「ビームソード? そんな旧世代の武器は役に立たないぞ!」
クロムがセブンスドールの武器を見て呟く。強力なブラスタ砲を防ぐ、エネルギーシールドやヘルダイバの装甲は、エネルギーを弾く仕様になっている。
「目の前の攻撃衛星はその両方を備えている、切り裂くにはスパイク系(実剣)でなくては無理だろ?」
クロム言葉通り、旧世代の武器であるビームソードでは、ビームが装甲やシールドに弾かれる。
セブンスドールは剣を振り上げ、攻撃衛星へ真一文字に振り下ろした。
剣の黒い光の粒子が、攻撃衛星の機体に吸い込まれていく。
瞬時に十字に切り裂かれ、押しつぶされる攻撃衛星。
「なぜだエネルギーシールドを通過した……そんな光学兵器は見た事が無い」
再び驚くクロム。その刹那、紅い残像を残し、再び光速で移動するセブンスドール、衛星を次々と切り裂いていく真っ黒な粒子を放つ光剣。セブンスドールが移動を止めて、光の残像から実体に戻った時、五機の衛星は十字に切り裂かれ、歪みながら収縮していく。
「ふふ……重力ね」
エイトが呟いた。
「あれは光学兵器ではない。超重力の剣が空間ごと、敵を切り裂く”次元刀”セブンスドールは“重力を操る”ドール」
攻撃衛星は切り裂かれ収縮し、完全に消滅した。
「次元刀で切られた物質は、超重力で押しつぶされ、異次元へ送られる。準備は出来たみたいねセブンス姉さん」
輝くセブンスの左目が紅に光り、騎乗するセブンスドールの瞳と連なり、数十万キロ先のエイトを捕らえる。
刀を横に払ったセブンスドールの左目が紅く瞬いた。
「この先にエイトドールに乗る、妹のエイトが待っている。さあ、ファルコン行くわよ。待っている……私の妹が」




