A.D.4020.待っていた罠
エイトと別れ、クロムとセブンスは街を目指していた。
二人がこの星から脱出する為に必要な、ある荷物を取りに行くためだった。
その街は貴族が住む美しい星の裏、国も主義も身分も無関係な、金だけが正義な場所。
店の扉が開くと、マスターが牢屋のような鉄格子の中から、クロムに声を掛ける。
「よう、あんたか。例の荷物、届いているぜ」
正面の鉄格子が開いた。背負った袋からズッシリ重い金塊を取り出し、店のカウンター置いて、代わりに大きめのケースを受け取るクロム。机の上にドッカとケースを置いて、鍵を外して蓋を開ける。
ぎっしりと詰まった品々。その中から携帯電話のような、黒い機械を取り出すクロム、素早く暗唱キーを押して、その機械を使って話を始める。
「レニウム、オレだ。どうやらこの辺にも手が廻ったらしい。セブンスの妹が待ち伏せしてた。すぐに向かえに来てくれ」
クロムの救助依頼を確認して、店の奥の二人が立ち上がっった。
二メートルを越える巨躯、そして青い瞳。戦闘用のサイボーグと一目で解る。
左右に分かれて、クロムとセブンスの前に素早く回り込む。
片方のサイボーグが、クロムの手を通信器ごと、上から強引に押えたこんだ。
「ククク、目の前で仲間を呼ぶとはな。この周波数は、おまえたち反乱軍のものだな、現行犯だ、クロム・サード!」
薄笑いを浮かべながら、強化された強靱な腕でクロムの手を握りつぶすサイボーグの男。
「おまえこそ、簡単に姿を表していいのか? 公安のサイボーグが」
抵抗を見せないクロムに、反乱軍のエースパイロットといえ、生身の人間では戦闘用のサイボーグの敵ではないと確信した男。
「くだらんなクロム。今はマシンに乗っていない、ただの人間のおまえごときに何を恐れる?」
首をほぐすように回したクロム。
「そうか物足りないわけだ……なら、こんなのはどうだ」
クロムは、自分の右腕をとる男の手を、上からさらに自分左手で押え込む。
「アハハ、クロム・サード、これはなんのつもりだ? 俺は凶悪犯の制圧が専門のサイボーグ。強化されたこの力は人間がどうなるものではない……な、なに?」
途中で男の笑いと声が詰まる。男の腕が嫌な音を立て始めた。
苦痛に歪む顔を見ながら、クロムはさらに左手に力を込めて、そのまま男の腕を握り潰した。
「よかったな俺が右利きで。左だから骨折で済んだぞ。さて立場は逆転だ。たかが人間の力でな」
歪んだ腕を押えて後ろに逃げる男の首を掴み、そのまま片手で持ち上げるクロム。空中で驚きの表情のサイボーグの男。
「馬鹿な、たかが人間が強化された、腕を砕くだと。それに百キロを越える俺を持ち上げるなんて」
片手で公安のサイボーグの二メートルの巨体を高く、そして軽々と持ち上げ続けるクロム、
「フッ、残念だな。俺はただの人間じゃない……自由連邦の戦士だ」
もう一人の男がブラスタガンをホルスターから引き抜き、即座に照準をクロムにトリガーを引く。
レーザーが撃ち込まれる寸前、セブンスがスッと走り込む。
視線をセブンスに移し狙いを変えた公安のサイボーグ、その肩筋にスラリと伸びた白い脚が半円を描き打ち出された。打ち込まれた衝撃で、後ろによろめく左の男は、倒れないように、グッと両足に力を込めて前に出る。その懐に飛び込んで一気に身体を回転。片腕をとって前方へ、男を投げ飛ばす。鈍い音を発して男が頭から床に落ちて、血を流し痙攣を始めた。
セブンスがもう一人の男を倒すのを見ていたクロムが、片手で吊るしているサイボーグに聞く。
「俺達の事はどこまでバレている? ここには軍の指示で来たのか?」
中吊りの男が苦しい息で答える。
「うっ、すでに、公安の機動部隊が動いた。オレ達がやられたら、それが合図。アハハ、逃げ場は無いぞ、クロム・サード」
目の前のサイボーグの男が、軍用の兵器の到着を宣言、笑い声を立てる。
店の入り口に金属製のボディを持つ、戦闘歩兵、マシンウォリアが二人立つ。
バシュン、そこまで話した男への、マシンウォリアの攻撃。頭蓋骨が蒸発した。
「喋り過ぎです、これだから人間ベースのアンドロイドは」
ニヤリと笑ったクロムは、吊るした男を放る。
キューンン、モーター音が店の中に響く。
「抵抗はやめてください。指示に従わない方は射殺しますね」
爽やかな青年の声で威嚇するマシンウォリア。
その姿は人間の形はしているが、銀色の肌、組み込まれた武器や、コード類が露出しており、その穏やかな、作り物の顔も合わせて、ひどく不気味なもの。
警告は無視して、素早くクロムがケースの中から、必要なもの探しながら、セブンスの戦い方に興味を示す。
「さっきの投げ技はなんだ。軍の格闘術とは違うな」
セブンスの瞳の中に輝く光が答えをセブンスに教える。。
「うん? たぶん”柔術”」
「聞いたことがないな」
「二千年以上前に”日本”って国にいた戦士”侍”が使った格闘術。私の目に宿る光が教えてくれるの」
「侍か……映画で見たことがあるな。それなら、これがいいか」
完全に無視されたマシンウォリアが、ブラスタガンの安全装置を外す。
「みなさん! 私を甘く見ているようですね、アハハ……即座に射殺に決定です!」
二台のウォリアーがそれぞれが狙いををつける。
セブンスとクロムにレーザー照準の赤い点が写った。
「クロム、その武器を頂戴。実弾系じゃないと、あいつらはシールド張るから」
ポイ、とクロムが鞄から剣を取り出してセブンスへ投げる。
チャリ、手にした剣は微妙なラインを伴って反り返る。
「何? この剣。不思議な形しているね」
クロムがニヤリと笑った。
「おまえが使う柔は侍の技、その剣は”侍”のメインウェポン”太刀”」
反った鍔がある武器である太刀を、珍しそうに見るセブンスにクロムが続けた。
「その太刀は”フォティーノ粒子”を鍛錬して”ハガネ”の状態にした。最高のスパイクソード(実剣)だ」
「もうお喋りは結構です! 死んで頂きます!」
ガ、ガガ、ガガガ、ガッガン、マシンウォリアの射撃が始まる。
左右に分かれ、大きく飛ぶセブンスとクロム。
クロムは腰のホルダーから抜いた、巨大な実弾を使用するガン”ビックイーグル”を構えた時、視線の先を一条の光りが走る。
セブンスが太刀を一気に抜き、居合いの速度を加え、手前のマシンウォリアの首を横に一閃。そのまま横を走り抜ける。頭を落とされたウォリアーは制御を無くし、手足をバタつかせる。
もう一台へ一瞬で間合いを詰め、肩口から一気に縦に太刀を振きるセブンス。ザッシュィィィーン、金属音と共に、柔らかい物を切るように、メタルボディは、きれいに切り裂かれた。
穏やかな冷静な口調で驚く、切られたマシンウォリア。
「我々の装甲を簡単に切り裂くなんて……ありえません……くっ」
腕についたブラスタガンの照準をセブンスに向けた。
衝撃で跳ね上がりながら、クロムのハンドガンが装甲弾を撃ち出す。
破裂するマシンウォリア。手足をバタつかし、黄色の循環液を撒き散らす。
「ありがとうクロム」
セブンスが振り返ってクロムに礼を、クロムは問題ないと手を上げた。
「助すける必要はなかったかもな。う、待てこの音と振動は」
クロムの言葉に耳を澄ますセブンス。
「これって高周波のモーター音。まさかヘルダイバを投入してきたの!?」
店全体が振動を伴って揺れ始めた。
街の上空に巨大な人型が写り、雲を抜け一気に接近してきた。
十六Mの巨体。三基の核融合炉を持ち、二億馬力を発生する破壊のマシン”ヘルダイバ”人型の近接用兵器で主装備はブラスタとミサイル。
資源を守る為に艦隊による殲滅戦は行われなくなり、太古に行われた決闘、戦士による一騎打ちで戦争の勝敗が決まる、西暦四千年の戦争。
”ヘルダイバ”衛星軌道から地上に一気に落下し、戦闘を行う為にこの名前がついた、機体に搭載された核融合炉の出力は、パワー変換プラグ”ブラスタ”を通して、直接エネルギーに変換され、戦闘・移動・防御に利用される。
マシンウォリアーが使用するエネルギーシールドは、接近戦で利用すると、自分の攻撃の障害になるために、現在はヘルダイバには搭載されない。
しかしヘルダイバの装甲は、ジィーノ:Z粒子(弱い相互作用のボソン)の超対象粒子で造られ、戦艦のブラスタ砲の攻撃でも、一撃で破壊出来ない強度を持つ。三基の核融合炉の巨大なパワーを得て、背中のラッパ型の六基の機動ブラスタから、イオンを高速で吹きだし、大気圏を4060KMで飛行が可能。
無論、宇宙でも戦闘が可能である。
「ヘルダイバを持ち出したのか。ちょっとピンチだな」
珍しく緊張感を見せたクロムにセブンスも強大な敵に身構えた。




