優しさに包まれて
最近は目を開けるのも疲れてしまう。亮さんは心配してくれてるかな?それとも怒ってるかな?無断で学校もバイトも休んで、もう何日経ったのかわからない。
珍しく高科が来なくなった。旅行にでも行っていたりしたら、俺どうなるかな?
高科は、あまり食べなくなった俺に少しでもとスープとか粥とか持って来ていたのに、飽きられたかなと思ったら何だか笑えて来た。
珍しく空腹感がする様な変な感じだし、眠いし、怠い。このまま誰も来なくなったら俺は死んでしまうのかな。
家族が迎えに来てくれたら道に迷う事もない様な気がするからそれまでちょっとだけ寝よう。
眠いのに煩い。俺がここに閉じ込められてから来客は一度もなかったのに人の声がするなんてやっと俺は助かるのか?足音が近づいて来てるのか、助けを呼んで良いのか?
「誰かいるのか?高科か?」
少し掠れた声になったけど、いつもより大きな声が出たと思う。
「弘樹、やっと見つけた。」
ドアが開き少し明かりが漏れる。聞こえて来た懐かしい好きな声。違うな、好きな人の声だ。
「亮さん?」
「そうだ。もう、大丈夫だから。」
暖かく大きな腕の中、安心できる場所。
そんな事を思ったのは覚えているけど、また意識をなくしていたみたいで、次に目を覚ましたのは病院のベッドでだった。
学校を休んだ俺に龍也が電話したけど通じない、そして、バイトにも来ない。
これは変だとなって朔也さんが俺のマンションに行ったけどいない。
管理人に聞いたら、マンション前にカバンが落ちていて学生証で俺だと解ったけど本人がいなくて渡せなかったと。
カバンには財布も携帯も入っているしで、何か事件に巻き込まれたかもと、知り合いの刑事さんに調べてもらっていたらしい。
聞き込みをしていた刑事さんをたまたま高科が見て、怖くなって逃げたから、俺はほったらかしになったみたいだ。
情けないやつだよ、監禁するなら最後まで面倒みろよと言いたくなる。
念の為一週間程入院している。何度か薬を使われて、後遺症が残る様な薬ではなかったが、検査はしておこうとなった。
この病院にも亮の知り合いがいるらしい。刑事に医者とくればもしかしたら弁護士とかもいたりして、顔の広い亮さんはやっぱり俺なんかとは違う、子供の俺なんか相手にしてもらえないのは仕方のない事なんだろう。
それでも、一番最初に俺を見つけ抱きしめてくれた事は凄く嬉しかった。小さな子供にでもなった様に泣き叫びたかった。結構精神的に危なかったのかもしれない。
高科は、一応誘拐、監禁なんだけど、俺は許してしまった。合意の上だと言って犯罪性はないと言い張った。
大分と体も元に戻りつつあるから、早く退院してバイトに亮さんに会いたい。
お見舞いに一度来ただけ、それも俺が寝てる間に。起こせよと言いたくなる。亮さんと初めて会った時に気をつけろよと、言われていたのに空手が強かろうが油断していては簡単に捕まってしまう。
でも、今回は俺が進んで監禁された様なもんだけど、それは内緒にしてるから高科にも口止めしておこう。
退屈だから個室という事もあり、腕立て伏せとか腹筋とかしてたら看護師さんに大声で怒られた。
母さんに怒られたみたいで嬉しくて笑ってしまって、また怒られた。
学校は病欠扱いで誰にも知られていなかったが、セフレたちには高科がした事は知られてはいないけど、亮さんが俺の恋人だとデマが広まっている。
高科の家からお姫様抱っこで亮さんに運ばれる俺を高科の友達で俺の元セフレが目撃して亮さんと高科が俺を取り合ったとか変な風に噂が広まってしまった。
亮さんにファーストキスを取られただけで抱かれた事もないのに恋人とは笑えるが、俺は必死で否定してるのに面白がっているのか亮さんが否定しないのも悪い。
だから、必然的に肯定的な噂が広まっていったわけだ。俺より亮さんの恋人は誰だってなったけど、俺は知ってるんだ、亮さんには特別な人がいる事。
少し体重が落ちたぐらいで検査も異常なしと言われ、体力も戻った事でやっと今日退院となりました。
「看護師の皆様、お世話になりました。」
挨拶は大切な事だと思うので、詰所に寄り挨拶をして病院を出た。
最寄りの駅までタクシーを利用して電車で帰ってきた。
久々の満員電車に疲れた俺はみんなに連絡するのも忘れて寝てしまっていた。
床に脱ぎ捨てた上着から着メロが聞こえるがどうせ龍也だろうと覚醒しきれていない意識は直ぐに途切れ、寝息だけが静かになった部屋を満たしていた。
ピンポンと何度も鳴らされるドアホンに流石に目覚めた俺は、不怪訝を隠す事もせず玄関のドアを開けた。
「煩いんだよ。新聞やら宗教の勧誘ならお断りだから帰ってくれ。」
「弘樹、退院したなら連絡しろ!」
俯いていた視線を上げた先には、心配顔の亮さんがいた。
「ごめんなさい。」
「部屋に入れろ!話はそれからだ。」
明らかに怒った声に俺は慌てて亮さんをリビングに案内した。
「電話に出ないのは何故だ?何をしてたんだ?」
リビングで向き合った俺に矢継ぎ早に質問をぶつけて来る亮さんの怒った様な焦った物言いに戸惑う。
「ごめんなさい、寝ていて。ごめんなさい。」
こんな余裕のない亮さんを知らない俺はただ謝るしかなかった。
「寝てたのか?それならいいんだ。心配したんだ。また何かあったんじゃないかと。そっか寝てたのか。」
安堵したのかドサリとソファに座る亮さんの肩が少し弾んでいた。
「すみません。コーヒー淹れます。」
「あぁ、すまん。煙草はダメだよな。」
「すみません、ベランダなら大丈夫です。」
「いや、それならいいや。」
沈み込む様にソファに座る亮さんは大きな
溜息をついていた。
「弘樹、今日のバイトは休みだ。来るなよ。」
少し落ち着いた様子で話す亮さんはいつもの様子に戻っていた。俺の為に焦った姿が嬉しくて俺は不機嫌だったことなんか忘れていた。
「俺なら平気だけど。よく寝たし、これからする事もないし仕事してる方がいい。」
「勉強でもしてろ。」
立ちかけた亮さんを俺は無意識に遮っていた。
もう少しだけいてほしい。一人にしないでほしい。
「どうした?」
向き合って立つ亮さんの肩に乗せた額が熱い。縋るように掴んだ亮さんの腕、震える俺の手をそっと外され俺は拒まれた事に息をのむ。
「どうした?珍しく甘えたりして。」
優しく囁く声、拒まれたと思った腕は俺を抱きしめてくれた。背に回されている手が背中を優しく撫ぜ、そして俯く俺の顎を捉え指は唇の輪郭をなぞっていく。目を伏せた俺はその感覚に熱い吐息が溢れ、いつの間にか唇は重なり舌を絡め合い亮さんの愛撫に吐息だけでなく声を溢し、ソファでいい様に弄ばれ半裸状態でイカされていた。