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永遠に勝てないと感じた相手

 高科の俺を呼ぶ声に振り向きもせず出てきた俺は、自転車だけ置きに帰りバイト先に向かう電車に乗った。

約束の5時には時間がありすぎるが、仕方ない。行く当てもなくぶらぶらと町を歩くのも、酷使した行為の後では体が重く辛いものがある。

「シャドウ」の近くまで来たものの、時計を覗けばまだ3時過ぎを示してる。

いい加減座りたい気分で辺りを見渡し、一軒のオープンカフェに目がとまる。コーヒーをと思い日陰の席に着く。

行き交う人の群れの中、ここだけが異質な程、静謐な空気に包まれている様な安心感が俺には感じられた。

微かに聞こえる話し声さえも子守唄の様に優しく聞こえる不思議さ。ヤドリギとはこんな感じだろうか?結界の中にいる様だ。疲れた時はまた、来よう。

いつの間にか優しい面差しの男性が、オーダーを取りにテーブルの側に立っていた。

「いらっしゃいませ!何になさいますか?」

「ホットをお願いします。」

「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」

しかし、刺激物はダメだなと思い当たり、去りかけた男を呼びとめ、

「あっ!悪いけど、ホットミルクに変更してもらえますか。」

「ホットミルクですね。かしこまりました」

急なオーダー変更にも嫌な顔をする事もなく笑みさえも浮かべ軽く頭を下げ去っていく大人の男の態度や落ち着いた話し方に安心感を覚えた。

結界という透明のカーテンの外は、夜の風景とはまるで違う整然とした冷めた風景が広がっている。

媚を売る女や男はいない代わりに、先を急ぐ疲れた表情の人の群れ。

ボーと眺める俺の耳に「カタン」と音が入ってくる。テーブルには湯気がゆらゆらと揺れるミルクの入ったカップ。

俺の物思いを邪魔しない様にか頭を下げただけで立ち去っていく男。

温かいミルクの仄かに香る優しい香り、冷えた体を内側からゆっくりと温め、ほんの少し俺の気分を慰めてくれる。

いつの間にか椅子の背に乗せた肘に顔をうずめるように眠っていた。

 かすかな陶器の当たる音に顔を上げた寝惚けた俺の視界に揶揄う瞳の木島が何故かいた。

「学校をサボってこんなところで昼寝か?」

無視をして冷たくなったミルクを飲み干す。

「することないんだったら、店に来るか?ん?」

「17時出勤のはずですが。時間外手当てでも出るのですか?」

俺は、向かいの席でテーブルに肘を付き俺を眺める木島を睨み挑発したつもりだったが。

「手当てね、いいぜ!」

というと、俺の顎を捕らえキスを掠めていく。

「手当と言うより、俺のほうがご馳走様かな?」

「!!!!!!」

勢いよく立ち上がった拍子に椅子が倒れるのも無視し、俺は男の顔めがけて右の拳を出していた。

だが、確実に入ったと思った拳は、男の手のひらに吸い込まれていた。

腕を引こうとしても、男に握られた拳はビクとも動かない。

「みんな見てるぜ!!行くか?」

顔に微かにかかる吐息。

「行く・・・・」

喉から絞り出すように出た声は悔しさで掠れ言葉が続かない。

面白そうに口元を緩める木島の余裕のある態度。握られた手の力が緩み自由になったのに、緊張した体が自由を取り戻した時には、木島はさっさと支払いを済ませ俺を置いて店の外に向かっていた。

ただ唖然と見送っていた俺だけが周囲からの視線に晒される事になった。俺は、恥ずかしさに顔を伏せ、この怒りをぶつけてやると木島の後を追いかけた。

図らずも木島の思い通りに店に早い時間から出勤する事になってしまった。


木島が店に入って行ったのを追いかけた俺の耳に聞き慣れた声が入ってきた。

ステージには、サックス片手に俺に手を振る龍也がいた。

「ヒロ~、待ってたよ!」

何で龍也がいるんだよ!なんで、龍也までここでバイトしてんだよ?

朔也さん、木島、俺たち中学生だって解ってるのだろうか?俺は仕方ないとして、龍也はなんで?まさか、俺がやってたこと龍也にばれた・・・?疑心暗鬼の闇が広がっていく。今の俺には全てを知る人、闇を祓う光、縋る様に俺の視線は木島を追いかけた。

木島は俺の内心を読み取り、哀れな者を見る眼差しを俺に向けたかと思えば、今度は面白いおもちゃを見つけたとばかりに嬉しそうに、ニヤリと笑みを浮かべている。

「何ぐずぐずしてんだ!見習いは早く店の掃除に取り掛かれ!今日は、ライブがある。ボーとしてる暇ないぞ!」

龍也の表情からはバレていない様だが、朔也さんは大丈夫だと思えるのに、木島だけには、弱味を握られている様で悔しく感じるのは何故だ?

(くそっ!!偉そうに言いやがって!!!)

「掃除道具は何処ですか?木島がサポートしてくれるのですか?」

「生意気だな!見習い。呼び捨てとは、度胸があるな。」

「木島さんと言えば良いですか?それとも店長ですか?」

「オーナーでいい。」

「何がオーナーだよ。偉そうにしやがって!」

小さな声で愚痴ったのに木島には聞こえていた様だ。

「偉そうではなくて偉いんだよ。お前のような口ばかりのガキと違って、金も肩書きも、お前に命令できる立場でもある。」

俺の側に近づきながら余裕の笑みを浮かべ言ってのける。

そして、すれ違いに腰を屈め俺の耳元で

「ベットでお前を気持ちよく支配できるだけの経験とテク、そして力もあるぞ。試してみるか?」

俺は、木島の言葉に動揺し、振り上げた拳がまたもや阻止され、その姿をステージから見ていた龍也に見られていた二重の屈辱。

いつか必ず倒してやると怒りの眼差しでカウンターに入る木島を俺の視線は追いかける。

「龍也、開店前の支度を弘樹に教えてやれ。今日はライブの準備もあるから、弘樹にも手伝わせろ。」

「はい、ヒロ、こっち!」

龍也は、サックスを椅子の上に置き、奥のドアに俺を手招く。

龍也がドアの向こうに消えるのを待って、

「年寄りにはテクがあるだろうが、俺には体力があるからな!俺相手じゃ、腰立たなくなるぜ!」

カウンターの木島に顔を近づけ囁いた。そんな強気の俺の言葉に少し驚いた顔をしたが、直ぐに余裕の笑みを浮かべた木島の目は獲物を狙う肉食獣の目だった。

俺は、肉食獣に睨まれた草食獣になった恐怖に包まれ、咄嗟に身を引いて龍也が消えたドアに飛び込んだ。

ドアの向こうで木島の高笑いが聞こえて、悔しいと思うのに俺は自分の体を抱きしめ蹲っていた。

初めて強気で挑んでも、対等に立とうと意気込んでも勝てない相手というものを知った。

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