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恋愛なんかじゃない、ただの束縛

翌朝、俺は龍也が朔也さんから何か聞き出してないか、朔也さんがポロリと俺がやってた事を溢してないかとか、ありえないだろう事が気になり、学校に行く気にもなれず掃除洗濯と家事に勤しんでいた。

そして、今は買い物をして久々に料理をする為にキッチンに立っている。

朝食はシリアルで簡単に済ませてしまったからか、かなり空腹を感じている。

限られた出来る料理の中から、やはり一番簡単なパスタに思考は落ち着き、いざ始めようとした時、リビングのテーブルに置きっぱなしになっていたマナーモードにしたままの携帯が賑やかに踊っていた。

 電話の相手は、夜の街で知り合ったジムで働く、高科邦明だった。

「ヒロか?」

「ああ・・・」

「今日もサボりか?」

「あなたには関係ない!」

「そうだな・・・。今日、俺、休みなんだが出てこないか?」

「解った・・・家に行けばいいか?」

「ああ!外で食事でもどうだ?もうすぐ昼だし」

「すぐ出るよ」

「待ってるよ」

俺は、何も言わず電話を切り、キッチンに広げた材料を冷蔵庫に戻し、財布と携帯をGパンのポケットに突っ込み家をでた。

 高科の家は、俺のマンションから自転車で10分ぐらいと割と近いところにあった。一戸建てのなかなか洒落た家だ。

ドアホンに、着いた事を告げると、中から足音がしてドアが開いた。

「いらっしゃい!上着を取ってくるから、先に車に乗っていてくれ」

と言って、俺にカギだけを渡し、部屋の奥に消えていった。

俺は、ガレージに自転車を止めて、車の助手席でぼんやりと空腹感に作って食べる筈だったパスタの事を考えていた。

ドアの開く音に横を向くと、高科が乗り込んできていた。

「パスタでも食べに行こうと思うんだが、それでいいか?」

「ああ・・・」

食べる筈だったパスタが食べれる事に少し気分が良くなったが、いつも通りの返事ですませる。

俺の短い返事に慣れっこの高科は、気にする事なく車を発進させ目的地に向かった。

車に乗ってる間も、話しかけるのは高科だけで、俺はそれに短く返事を返すだけだった。

 連れて行かれた店は、昼時で空いているわけでもなさそうなのに、予約でもしていたのか個室感のある奥のテーブルに通された。

お互いランチコースを頼み、無言のまま食事は終わっていた。

ポツリポツリと高科が食後のコーヒーを飲みながら話しをしているが、窓の外をボーと眺めているだけの俺には、一人で話をしている高科が他の者がいればさぞや滑稽に見えただろうと思う。

だから、高科のコーヒーを飲み干したのを確認して、話しかけた。

「高科さん、悪いんだが今日から俺、バイトが入ってるんだよ。この後、するんだったら・・・」

「ああ、そうだな、出ようか」

俺達は、無言のまま彼の家に向かった。

最近は、道で声をかけられついて行ったり、クラブで知り合った常連達より、この高科に呼び出されることが多くなっていたかもしれない。

だからと言って、この男にしても俺だから抱くんじゃない。心なんて必要ではなくただ、自分と変わらない体格の男を組み敷いて、自由にできる優越感を感じたいだけなんだ。

俺は、行き場のない燻る不快な気持ちを履き捨てるために利用するだけでお互い様の関係、ただそれだけの関係でしかない。

 さっきまで余裕の表情だった男が、玄関のドアを閉めた途端、待ちきれない様子で俺を押さえつけ、唇を深く求めてきた。

あまりの苦しさに肩を強めに押すと、高科はハッとしたように、腕の力を緩め、

「すまない」

と俯き加減に謝った。

だが、俺には高科が何を誤ったのか解らなかった。

服を脱がされ、肌に触れる手の感触に、俺は昂ぶって行く自分を感じた。

「ヒロ・・・」

高科は俺の顔を上向かせ口づけながら、感じるままに動く筋肉を背筋を撫で上げる手で楽しんでいる。

そしていつもより早急な高科の求めに、俺は絶え間なく艶かしい吐息をついてしまい、益々高科を興奮させてしまったようだ。

二人して、今はただ、身体の中で荒れ狂う熱を追うことに夢中だ。

互いの呼吸がシンクロし、体温も鼓動も溶け合うような錯覚に襲われる。

速くなる高科の動きに翻弄されるように、俺の身体は揺さぶられる。

何も考えず、ただ与えられる快楽だけを求め、貪りシーツの波に新たな波を作る。

熱が静まってしまえば、気だるさと空しさだけが残るとしてもだ。

そんな俺の耳に少しずつ覚醒するように部屋の奥から聞こえる水音が現実の世界に俺を引き戻す。

「おい、シャワー使うだろ?」

 腰にタオルを巻き、濡れた髪をタオルで拭きながら、高科はベットに横たわる俺に話しかける。

「ああ」

 短く返事を返したが動く気配のない俺に

「な~、俺の物になれよ。俺だけ見ることは出来ないのか?俺では、お前を」

高科の言葉を遮る。

「やめてくれないか、中坊相手に何マジになってんだよ。冗談じゃないぜ。」

 睨みあげた俺の視線にあたふたとしり込みする大人。腹立たしく舌打ちし、勢いよく身体を起こしバスルームに向かう。

肌の上を流れる熱い湯は、どんどんと凍えていく心までは温めてはくれない。

 服を着て部屋に戻ると、タバコを燻らせるバスローブを羽織った高科が俺に背を向けたまま、「どうしても駄目なのか?」と問う。

「マジで言ってんだったら、今日で終わりだな。あんたの代わりならいくらでもいる。俺にはあんたの心なんていらないんだよ。」

 じゃ~なと後ろ向きのまま手を振って部屋を出る。

俺を呼ぶ彼の声も、辛そうな表情も俺には必要なかった。

 エレベーターの壁にもたれしゃがみ込む俺は闇に沈みゆく自分の悲鳴に耳を塞ぐ。


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