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誰も悪くない

祐介さんには俺のアドバイスなんていらないんだろう。ただ話を聞いてあげるだけでいいんだと俺は思っている。

少しスッキリした表情になった祐介さんと店を後にして『シャドウ』の最寄駅まで送ってもらった。

「祐介さん、真一さんの側にいてあげて。俺は一人でも大丈夫だから。」

「ありがとう、弘樹も我慢し過ぎないで。」

お互い励まし合い笑顔で別れた。

きっと祐介さんは、俺なんかより真一さんとずっと一緒にいたいのだと思う。

なのに、病院側は完全看護だからって面会時間が迫ってくるとサッサと帰れみたいな態度をしてくるから悲しくなるよな。

繁華街を歩きながら、もし亮さんが入院でもしたら、きっと俺はこっそり病院に忍び込み側にいたいと思うだろう、でも、亮さんには俺は必要ないかもしれないけどなんてバカな事を考えていて、前からフラフラと歩いて来た人とぶつかってしまった。

「すみません。」

謝った俺にどさりと凭れる様に体重をかけてくる。

「祐介さんは僕の大切な人なの。取らないでお願いだから。」

えっ!言われた事にもビックリしたけど、それよりじんわりと脇腹が熱く感じる事に不味いと感じる。

「真一さんなのかな?今は俺の言う通りにしてね。」

俺に凭れてくる震える真一さんを抱え、路地に逃げ込む。

「真一さん、手の力を抜いてナイフから手を離して、そっとでいいから。」

ガタガタと震える真一さんの手からナイフを離させ、何とか俺の体から少し距離を取らせる。

「ちょっと待っていて。これを何とかしないと。」

真一さんを路地の壁に凭れる様に座らせ、俺は自分の脇腹に刺さったままのナイフをゆっくりと抜く。

思ったより小さめのナイフで良かった。傷も脇腹から外に外れているから大した怪我でもないが、取り敢えず着替用に持って来ていたシャツを重ねてベルトで縛って止血をしておく。上着で隠せば誰にも気付かれないだろう。

「真一さん、立てるかな?」

膝を抱えて蹲る真一さんの隣に座り、刺激を与えないように俺にしてはかなり優しく話しかける。

「ごめんなさい。僕はダメなんだ、いつも後悔ばかり。」

「大丈夫だから。誰も気づいてないから。でも、いつまでもここにはいられないだろ。だから、祐介さんの所に行こう。」

「ダメだよ。僕、とんでもない事してしまった。ごめんなさい、こんな僕だから嫌われて当然なんだ。もう、祐介に会えない。」

泣きながら首を振る真一さんをどうやったら祐介さんの所に連れて行けるか考える。

それに早くここから離れないと亮さんの知り合いに見つかりそうで怖い。

膝を抱えて念仏を唱えるみたいにぶつぶつ言い始めて動きそうもない。

それでも何とか言いくるめてここから逃げないといけない。

取り敢えず近くの公園でも連れて行くしかないか。

「わかったから、祐介さんの所には行かないから、先ずは近くの公園で休もう。俺もちょっと傷がこれ以上開くといけないし、疲れたから。」

俺が疲れたと言うとバッと勢いよく顔を上げた真一さんは僕の真っ赤になっ脇腹を見て益々狼狽えどうしようと言い続けている。

「真一さん、落ち着いてお願いだから。俺も早く治療したいからさ。立って歩いてくれるかな?悪いけど俺の事支えてくれる?」

俺の言葉に少し落ち着いた真一さんは頷き、俺の腕を首に回して俺を支えてくれる。

二人して酔っ払いを介抱しているように見せかけて繁華街をゆっくり後にする。

やっと公園まで辿り着いたはいいが、この後の事を考えると眩暈がしてくる。

「真一さん、そこのベンチで一休みしよう。悪いけど、入り口の側の自販機で水を買って来て貰えないかな。」

俺が傷口を洗いたいと言うと慌てて行ってくると言い走って行った。

入院している筈の彼が慌てて走って行く後ろ姿に心配が募る。

今のうちに祐介さんに連絡を取ろう。呼び出し音が途切れ祐介さんの返事が聞こえる。

「祐介さん、もう家かな?」

『弘樹?どうしたの?もう少しで家だけど。』

「祐介さん助けてほしい。繁華街を抜けた公園にいるから迎えに来て。出来るだけ早くお願い出来るかな。」

『何があったの?直ぐに引き返すから待っていて。』

「俺と真一さんが一緒にいるから。」

『えっ!なんで真一が?』

「詳しい事は会ってから話すから、早くお願い。」

『もう、引き返しているから。』

「ありがとう。西側入り口から入って少し歩いた所のベンチで休んでるから。」

『わかった、後10分ぐらいかな。待ってて。』

「わかった、一旦電話切るから。」

電話を切って直ぐに真一さんがペットボトルを抱えて走ってくるのが見えた。

数本抱えて走ってくる姿がとても可愛くて微笑ましく思える。

あんなに走って体は大丈夫なんだろうか?今日祐介さんから余命とか聞いたところなので心配になる。

「お待たせしました。これだけあれば大丈夫ですか?僕が刺したのにごめんなさい、僕、どうしたらいいですか?」

パニックになってアワアワする姿が愛らしくて笑ってしまった。

「大丈夫だから、そんなに慌てないで。可愛いいな。」

思わず慌てる真一さんの頭を撫ぜていた。

「僕、僕、なんて事してんだろう。祐介さんに迷惑かけてばかりだ。弘樹さんごめんなさい、僕、祐介さんを取られると思って。」

ぼろぼろと涙を流して謝る姿に俺は刺されたのに怒りなんてこれっぽっちも湧いてこない。

ただ、この怪我を亮さんにバレないようにどう処理するかが大問題だと思う。

祐介さんの力も借りて何とかしなければ、取り敢えず今日はバイトを休む事を連絡しないといけない。

「真一さん、悪いけど少し静かにしてほしい。今からバイト先に休みの連絡するから、今の現状がバレると不味いんだ、お願い。」

「はい!静かにします。」

ほんとに可愛い人だ。病人には全然見えないんだけど、まぁ祐介さんが来れば真一さんの事は何とかなるだろう。

じっと俺を凝視する真一さんを微笑ましく思いながらも亮さんにこれから電話をかけなければいけない俺は顔が緊張で強張っていた。

呼び出し音が地獄の扉のノック音に聞こえる。

『弘樹、どうした?』

「亮さん、今日店休んでもいいかな?」

『急にどうした?具合でも悪いのか?食べる物あるのか?店が終わったら行くから休んでいろ。』

「亮さん、違うから。俺は元気だから、心配いらない。友達がちょっと怪我をしたから付き添いで病院行く事になって、休んでもいいかな?」

『弘樹、また巻き込まれていないだろうな!危ない事してないよな!』

鋭い指摘にドキッとするが、声が震えない様に気をつけながら明るめの声で笑い飛ばす。

「亮さん、心配のし過ぎだって。友達が階段から落ちて少し怪我しただけだから。治療が済んだら帰るし、大丈夫だから。」

『何処の病院か連絡しろ!迎えに行く。』

どうすればいい、誤魔化しきれないでいると

真一さんが横から携帯を掴み、

「すみません、僕のせいで弘樹さんに迷惑かけてしまって。みんな仕事で連絡つかなくてごめんなさい。」

泣き声で謝りながら携帯に話しかける真一さんの迫真の演技が功を奏したのか、やっと亮さんは信じてくれ、休みをゲットした。

「真一さんのおかげで何とかなりました。ありがとう。」

「とんでもないです。僕の所為なんですから。ホントに僕はこんな事をしてしまうなんて弘樹さんには申し訳なくて。」

「それより、なんで俺の事知っているの?」

俺が不思議に思い尋ねたら、知っていて当然ですって表情で話す内容に呆れてしまった。

「祐介さんがいつも話してくれますから。弘樹君はまだ子供なのに落ち着いていて、なんでも熟す凄い子なんだって言ってますよ。料理も習い始めたばかりなのにプロ並みの腕前で、今度ご馳走してくれるのだと嬉しそうに話してましたから。」

ちょっと寂しそうに話す真一さんに申し訳ない気持ちになる。

祐介さんは何を考えているのやら呆れてしまう。

「真一さん、祐介さんに料理をご馳走するって言ったのは、俺の好きな人に食べさせる前の味見的な予行練習みたいな感じで、深い意味はないんだ。」

「弘樹さん、好きな人いるんですか?」

「はい、います。いつも祐介さんは真一さんの事ばかり話してますよ。歳が離れているからどうしたら喜んでくれるかって俺にアドバイスしろって煩いぐらいだから。」

「えっ!そんな僕は勘違いヤキモチで弘樹さんに怪我をさせたの?」

「これは、祐介さんが悪いですね。真一さんをこんなに落ち込ませる事して、俺が叱ってあげるよ。だから、泣かないで。」

「ごめんなさい。」

汗だくで走って来た祐介さんが、俺の腕の中で大泣きしている真一さんを見て俺にヤキモチを妬き不貞腐れている姿に呆れるしかない。

俺は、早く病院に行きたくてズキズキと痛む腹を押さえ二人が落ち着くのを待つしかないと自然と溜息が溢れた。

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