表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

「腹黒政治家を粛清する」

 日本最大の小説投稿サイト「小説家になろう」にとある小説がアップされた。


 投稿日は2017年12月3日。


 作品名は「異世界転移で日本社会をよくします」。

 ユーザー名は「世直し転移者」。


 作品は連載小説で,「世直し転移者」というユーザーにとって初めての投稿だった。



 内容は以下のとおりである。




………


第1部目「腹黒政治家を粛清する」



 2017年12月5日,永田町の議員会館内にある自らのオフィスの面談室において,大野喜三郎(おおのきさぶろう)は,国内最大の電力会社の社員と面談していた。



「先生,いつもお世話になっております」


 電力会社の社員がうやうやしく挨拶する様子を,大野は,顔に刻まれたしわを少しも動かすことなく,無表情のまま見ていた。



「用件は?」


 大野が朴訥ぼくとつな声を出すと,電力会社の社員はカバンの中から紙のたばを取り出した。



「先生,今日はこちらの件でご相談があります。まず,こちらの資料をご覧ください」


 大野は渡された紙の束をパラパラめくると,それをすぐに机の上に置いた。



「つまり,どういうことだ? 会期外かいきがいとはいえ,政治家は忙しいんだ。用事を端的に言ってくれ」


「先生,失礼いたしました。今日は,小型モジュールの新設についてお話に参りました」


「小型モジュール炉?」


「新世代の原発です。今,フランスのメーカーと日本のメーカーで共同で開発を進めているもので,設計をシンプルにすることによって事故への耐性を強くしております。先生,先ほどお渡しした資料の112ページをご覧下さい。そこに圧力制御室の簡単な図がありまして…」


「そんな話はどうでもいい。俺が生きているうちに,あんな大きな地震や津波がまた起きるわけないからな」


 大野のあまりにも割り切った発言に,電力会社の社員は苦笑いをした。



「無論,安全対策をやってくれることは大いに結構だ。馬鹿な国民の気休めにはなるからな」


 大野は足を組むと,ソファー地の椅子にふんぞり返った。



「で,その小型なんとかのために,俺に何を頼みたいんだ?」


「先生は,現役の経済産業大臣であられます。しかも,原子力規制委員会の委員の一部とも個人的な親交があり…」


「もっとハッキリと言え」


「分かりました。先生には,原発の設置基準を緩めて欲しいんです」


「…なるほどな」


 今からおよそ6年半前,この国は大震災に襲われた。震災,それに続く津波による被害もさることながら,大震災は震源地付近の原発の炉心融解ろしんゆうかいを招き,この国の国土に大量の放射能をまき散らした。

 その反省から,現在この国の原発には,世界でもっとも厳しい設置基準が用いられ,これに適合しない原発の稼働や新設は許されていない。



「先生の所属する政党は,原発の再稼働を政策に掲げておられます。さらに今年出された原子力白書では新設についても言及があり…」


「党は党,俺は俺だ」


「そうですね。失礼いたしました」


 電力会社の社員は,今度はカバンから封筒を取り出した。それを見て,大野の仏頂面がようやく崩れる。



「先生,年末は忘年会等々で色々とご入用いりようだと思いますので」


 大野はそでの下を受け取ると,封筒の感触で中身の金額を確かめた。



「君たちの誠意には勝てないねえ」


 大野が豪快に笑う。



「先生のお力に期待いたします」


 電力会社の社員は再び大きく頭を下げた。



「君たちにとって来年は飛躍の年になるよう,俺からもお祈りしておくよ」





 面談を終えた電力会社の社員が部屋を出ると,大野は,封筒の中身を目視で確認した。お札が200枚程度入っている。言うまでもなく,全て福沢諭吉である。


 ニヤリと笑う大野の背後に,突然人影が現れた。



「たしか年明けに党内のエネルギー部会での会合があったな。あれっていつだっけ?」


 大野がそのように質問したのは,人影の正体が自らの秘書であると考えたからだった。

 しかし,返事は来なかった。


 不審に思った大野が振り返ると,そこには全身ローブ姿の見知らぬ男が立っていた。



「…き,君,一体誰かね!?」


「僕は異世界転移者いせかいてんいしゃです。この国を良くするためにやってきました」


「ど…どこから入ってきたんだ!?」


「どこって,ここですよ。ここに直接ワープしてきたんですから」


 ローブ姿の男の言っていることが,大野には一切理解ができなかった。

 身の危険を感じた大野は,隣の部屋にいる秘書に助けを求めるため,大声を出そうとした。しかし,声が出ない。



「助けを呼ぼうったって無駄ですよ。今,魔法であなたの声を封じましたから。あなたみたいな口先だけの政治家にとって,言葉を発せられないことは何よりも辛いとは思いますが」


 直接ドアを開けて秘書を呼ぶしかない,と考えた大野だったが,まるで金縛りにでもあったかのように身体を動かすことができなかった。



「魔法で身体の動きも封じさせてもらいました。ただし,痛覚つうかくだけはちゃんと残してあります。悲鳴をあげることものたうちまわることもできませんが,苦しみを味わうことだけはできます」


 ローブ姿の男は右手を天井に向かって上げた。すると,どこからか棍棒こんぼうが現れ,男の右手に収まった。



「世直しのためなんです。どうかご勘弁を」


 ニヤリと笑うと,ローブ姿の男は棍棒を大野の頭に向かって振り下ろした。



………

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ