「在りし日の君に寄せて」デリリウム・トレメンス
彼の母、父視点
夏がくるたびに セミの抜け殻を 目を輝かせて集めていた子どもは もういない
体をかたむけて つないだ手は 今、ほかの誰かとつながっている
脱皮を重ね ときには 繭に閉じこもり
雨にぬれ ときには 太陽に責められて
新しい夏を重ねるたびに 息子は 新しいたからものを 見つけるのだろう
願わくは その恋が 羽化せむことを
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息子が 恋をしているの
電話の向こうで 妻は そう言った
試合には 来ないでくれですって 失礼しちゃうわ
笑う声の後ろに ヒグラシの声が聞こえる
妻は 人が 走る姿を 見ることが 好きだ
事故にあって 走ることができなくなった 妻は スポーツを ことさら サッカーを
観るようになった
なぜ、サッカー?
だって、あなた していたじゃない
彼女の答えに 思い出した
夕立の中 走る 自分
ゴール裏で 旗を振る 彼女
正月は 二人で 埼スタへ 行かないか?
言いかけたことばを ぐっと 飲み込む
冬は まだ 遠い
そして 巣立ちの ときも
注意:埼スタ(埼玉スタジアム)
浦和レッドダイアモンズ(浦和レッズ)のホームスタジアム
国内最大の球技専用スタジアムで、傾斜などが非常に見やすく、うらやましい。
第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会の決勝戦はココで、2018年1月1日に開催される
チケット販売は、多分12月。まだまだ先。
※(母視点)四行目、(父視点)十四行目 : 作者指示にて、初出時より語句修正しております。