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「おはよう、が言えなくて」小鳩子鈴
蝉の声を浴びながら着いた昇降口で
いきなり会えるなんて思わなかった
靴を履き替える後ろ姿で分かってしまうなんて
自分で思っているよりよっぽど
こっちを見て
私に気付いて
後ろからかけられた声
振り返る彼の視界から
慌てて逃れて隠れる靴箱
汗で乱れた前髪が
火照った頬が
意気地のない私を引き止める
クラスメイトと小突き合いながら遠ざかる
日差しの外から薄暗い廊下へ
少し伸びた背の白いシャツだけがやけに眩しい
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連作、スタートです。