9話 意外な一面
「と言うわけがあったんだよ。 そんで、マリーに話したらこの子はうちで預かるって言い出してな」
風呂から出た俺は、アトスたちが帰ってくるまでにあったことを夕飯を食べながら簡単に説明した。
「理由はわかったわ。 でも、意外ね」
全て聴き終わったアミはナナにスープのお代わりをよそってあげながらマリーを見てそう言う。
「僕もそう思います」
「何がだ?」
アミに、アトスも同調して頷くが、目線を向けられたマリーはなんのことだかわからないと首をかしげる。
そんなマリーにアミは躊躇なく言った。
「てっきりマリーなら『ここは保育所じゃないんだぞ!』とか言って追い出すと思ったから」
「はぁ…………。 アミラスが私にどんなイメージを抱いてるのかはともかく、私だって年端もいかない子を魔物だらけの森に捨てたりはしないさ。 それに彼女はどうやら孤児のようだし、このまま育てればうちのメイドとして役立ってくれるだろう」
そんなアミにマリーは言葉を失い、なんとも微妙な顔になり、大きくため息をつく。
「孤児………なんですか?」
「うん、そうみたい。 お父さんやお母さん、おうちのことも、なんで自分がここにいるのかもわからないみたいで、助かったと思ったらこんなとこなんて………」
「まぁ、全く身寄りがないんだからこのままマリーのとこに就職でも構わないんじゃないか? 雇い主はあれだが一生食いっぱぐれることはないしな」
「君たち…………、 私がその気になれば全員即座に実験動物にできることを忘れてないかね?」
俺とダルからの散々な言われようにマリーはそういい俺らを脅す。
その脅す顔には全く笑みはなかったのは俺もダルも流石にやばいと思った。
「さて、食事も終えたことだしナナは私の部屋に来てくれるかい?」
「うん、いいよ」
夕食を終えたマリーはナナを自分の部屋に誘う。
するとナナの方も頷いてトコトコマリーの後について部屋を出て行った。
そんな様子を見ていたアミが呟く。
「本当にあの2人仲いいの?」
「うーん、普通? 良くもなく悪くもなくみたいな?」
ダルも良くわかっていないようで曖昧な返事をする。
「マリーはマリーであの子のことなんでも珍しい検体だと言って詳しく調べたいらしくて、ナナはナナでマリーに協力すればお菓子がもらえるって喜んでついてってるから悪いってことはないんだろ」
お菓子をくれるからと言って知らない人について行ってはいけないと言うのは常識だが、ナナは平気でついて行ってしまった。
今度、そう言うことも教えたほうがいいのかな。
俺はそんなことを思いつつ、アトスが入れてくれた食後のお茶を口にする。
「結局あの子は何者なんでしょうか?」
全員にお茶を入れ、再び席に着いたアトスがそう投げかける。
だが、みんな何も知らない、これが事実なのだ。
「わからん。 とにかく普通とはちょっと違う女の子って位しか情報がない。 孤児と言っても戦争で親を失ったのか、はたまた棄てられたのか、いろいろわからんことだらけだ。 まぁ本人が今幸せならそれでいいんじゃねーか」
「そうね。 もし、マリーが酷いことしたら私があの子を知り合いの孤児院へ連れて言ってもいいし」
「そうだ、街の様子はどうだったの?」
俺は話題を変えてアミとアトスに街のことを聞くことにした。
2人は今日あったことを先ほどナナについて2人に説明した時のように話してくれる。
「なるほどねー」
ダルは顎を机につけイスをグラグラさせながら話を聞き、相槌を打つ。
「そういえばダルはなんで街に行かなかったんですか?」
そんなダルにアトスが質問する。
ダルも街に行きたがっていたメンバーの1人なのだが、突然いくのをやめたのだ。
俺を含めたほか2人は不自然に思ったが本人がいいならいいかとアミとアトスだけで街へ出発したのだ。
「え!? ああ、それは……ね?」
それを聞かれたダルは何やら慌てたように取り繕う。
実を言うと俺はダルが街へ行かなかった理由を知っている。
と言うより、マリーが彼女に話したことをマリーから聞いたと言うのが正しいが………
「せっかく二階級特進で三佐になったことが惜しいんだと」
「ち、違うよ!!」
俺がそれを言うとダルは動揺を隠せないではいるがそれを否定する。
「それに一時期であっても重要指名手配犯に関わってたなんて軍法会議もんだからな。 なんならここは名誉の戦死ってことにしといたほうがいいってことだろ?」
「違うって言ってるじゃん!! その、あれだよ、ほら! 重要指名手配されているマリーを監視しておくことでいた悪いことをしても通報できるように、そう! スパイだよ!!」
「軍もいろいろ大変なのね」
「偉くなるって大事ですもんね」
ダルは必死にごまかすが残念ながらその努力は無駄であり、アミとアトスの2人は事情を理解し、苦笑いで誤魔化す。
ナナと出会って次の日に復活する予定だったマリーのもう1人の人造人間のベガは、ナナの件のこともあり数日遅れて治療が終了、完全復帰したのである。実にカステルの街以来1週間ぶりである。
彼女が復活したことにより、今までピンチヒッターとして家事を担当していたアトスとアミの2人はようやくお役御免となった。
「遅くなりましたであります! みなさん、この度は誠にご迷惑をおかけしました!! このベガ、休んでいた分、身を粉にして精一杯働く所存であります!!」
「マリーって見た目によらず結構、元気系な子が好きなのかしら」
「自分にないところを求めるんじゃないんですか?」
「て言うか、ここにいる『勇者』はみんな命知らずか」
「それはポルタさんも大概だけどね〜」
「………君たちは本当に命を捨てるのが得意なのかな?」
ベガを見てヒソヒソと呟く俺たちにこめかみに青筋を浮かべ怨嗟のこもった声でマリーは俺たちに聞いてきた。
「あはは、これはまずいですね。 そ、それよりナナちゃんについて何か新しくわかったことはあるんですか?」
アトスはそんなマリーの様子に苦笑いしながら、話題を変えるべくマリーに聞いた。
「そういえば、ナナちゃんのことはこの数日かけても何もわからないままね」
「私はわかりますよ! ナナちゃんの好きな食べ物はスパゲッティです!」
アトスとアミが難しい顔をする中、元気に手を挙げてダルが答える。
脳みそが完全にナナと同じ年齢である。
「いや、その情報いるか?」
「自分たちから聞いておいて何を話を変な方向に持っていってるんだ、君たちは。 とはいえ、こちらでわかったことといえばナナは魔力量はないが魔力操作能力はとんでもないと言うところか」
マリーはそんな俺たちにツッコミを入れてから、ココ数日、彼女を調べていてわかったことを話してくれる。
すごい魔法使いというのには大きく2つの要素がある。 それが今話に出てきた魔力量と魔力操作能力だ。 これらの区別を簡単にいってしまえば、魔力量は魔法を発動し続ける体力、魔力操作能力はどれだけうまく魔法を発動できるかということで説明できる。
つまり、マリー曰くナナは魔法を使うような体力はないが、それを扱う技術力だけはピカイチというわけだ。 実際そんなことあるのかと思うが、マリーが調べてそうだというんだから、そうなんだろう。
「ナナに試しに私の魔力を使った魔術道具を使わせて見たのだよ。 そしたら彼女はいとも簡単に操って見せた、通常の人間ならうまく使いこなすのに軽く2〜3ヶ月はかかる魔術道具を、だ」
「へーすごいね!」
「うーん、なんと言う宝の持ち腐れというか……」
ちなみにナナが使ったという魔法道具は俺らも魔力操作能力の測定として使わせてもらったことはあるが誰1人として使いこなすことができず、唯一アミが惜しいとこまで行ったという程度である。
だから、俺らは素性もわからない謎の少女にそれができたということに素直に感心する。
「だからある予想を立てたんだ。 ナナは魔力がないんじゃなくて封じられてるんじゃないかとね」
とマリーは自分なりに分析したナナのことをそう結論づける。
「封じられて………… だったらマリーの力でどうにかできないのか?」
「確かに私にかかればほとんどの封印術式なんて見つけることができるし、時間はかかるだろうが解くこともできなくないだろう。 だが、ナナの場合、封印術式も見つからないんだ」
「なるほど、結局余計に疑問が増えちゃったのね」
「そういうことになるね。 まぁ、急ぐほどでもない。 ゆっくり調べていくよ」
そう言ってマリーは再び自分の研究室に戻ってしまった。
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