8話 箱の中のネコは
時はゴーレムとの戦いを終えたポルトスとダルタニアンが謎の不審者を調べにいったところまで遡る。
「おい、マリー! 侵入者なんてどこにもいないぞ!」
俺は通信機越しにマリーに文句を言う。
マリーの言う通り場所まで来たが侵入者の姿がどこにもない。
その文句にマリーはらしくもなく煮え切らない口調で答える。
『そのことなんだがなー。 今調べなおしているんだが屋敷内に反応がないんだよ』
「え? じゃあ侵入者ってのはマリーの勘違いなの?」
『そう思ってもう一度エントランスの映像を確認したらちゃんといたんだよ』
「監視カメラに映ってたってことか? なら、やっぱシステムの故障なんじゃねーの?」
『ゴーレムの時はちゃんと作動したから、故障ないはずなんだが可能性はゼロじゃない。 改めて調べて見るとする。 君らは君らでその侵入者を探してくれ。 途中の監視カメラの映像では確かにこちらの方へ来ていたことは確かだ。 多分君らがいるあたりのどこかの部屋に隠れたんだろう』
マリーは俺らにその辺を探せという。
この辺りはちょうど俺たちがいた2階の部屋(あのリビングみたいな部屋はメインルームというらしい)とエントランスのちょうど真ん中あたりで、付近を探せといえど、上の階にも下の階にもいけるこの場所から一つ一つ調べるのはなかなかの重労働だ。
それに仮にシステムが故障していたら問題がある。
「待ってよ! もしその侵入者が入って来たことを知らせたり、見つけたりする装置が故障してたなら魔力がないっていうのも誤報なんじゃないの!? そしたら私達ろくな装備してないよ!?」
ダルのいう通り俺らはマリーに言われるがままろくな装備をしていない。
もし、その侵入者が強敵だった場合その装備で戦わなければならないのだ。
だが、マリーは大丈夫だといい、
『それなら安心しろ。 仮に故障だったとしてもカメラの映像から見た目は人間の女の子だとわかってる。 それでは健闘を祈る。 あ、それと侵入者はくれぐれも捕らえること、以上だ』
俺たちにそういうと侵入者の見た目だけ伝えて通信を一方的に切ってしまう。
「女の子がこんな森に? 逆にそっちの方が怪しいよ」
ダルはブツブツと文句を言いながらもマリーの言う通りにその辺の部屋から調べようとする。
俺はそんなダルを止める。
先ほどのマリーの不自然な態度といい、最後にわざわざ言った言葉といい、自分の中で改めて考えた結果、侵入者の正体についてある予測ができたからだ。
「なぁ、ダル。 その女の子って人間の女の子って言ってたよな?」
「うん、それが?」
「知ってるか? 魔力の正体はこの世界ではイコール生命エネルギーだってもうわかってるんだと」
「それくらい私だって知ってるよ。 だから体を鍛えた方が強い魔法を使えるんでしょ? あ! また私のことをバカにして!!」
ダルは何を今更、と俺にまたつっかかって来ようとしたのだが、俺はそれを止めて落ち着くように言う。
「まてよ、話を最後まで聞け。 いいか? じゃあ今俺たちが追っているマリーの言ってた『魔力の探知できない女の子』ってなんだ?」
「へ? それは魔力がないって…………………………あ、」
どうやらダルも俺の言わんとしようとしてることがわかったらしい。
そして彼女はいどうやらこっち系の話にはかなり弱いらしく。
みるからにガタガタと震えだした。
「な、何を言ってるの? そそそそ、そんなわけないじゃん!」
明らかにビビっているダルが引きつった顔で笑いながらそれを否定する。
「いやいや、死霊系の魔物がいる世界だぞ? いてもおかしくはないだろ? それに俺のいた保安隊でもそういうの見たっていう隊員もいたからな」
「そ、そうやって脅かそうとしたって無駄なんだから!!」
「じゃあここからは二手に分かれて探そうか。 範囲も広いし、それじゃあ俺は上の階を調べるからダルは下の階をよろしく…………なんだよ、袖なんて握ったりして」
俺がそう提案して先を行こうとするとダルはシャツの袖をギュッと握ってくる。
目が泳ぎ、完全にビビってることが丸わかりなのだが、彼女はそれでもなんとか強がってみせようと必死な口調で俺に言う。
「て、提案があるんだけど? そそそそそ、そのここは敵の正体も、わ、わからないし? 2人一緒の方がいいと思うんだけど??」
「なんだ、やっぱ怖いんじゃないか。 なら初めからそういえよ」
「は、はぁ?? 別に? 怖くなんか、ないし??」
「じゃあ二手に分かれてでいいだろ。 武器なら今からマリーにでも言って取りに帰ればいいんだしな」
「怖くないって言ってるじゃん!!!」
ダルが怖がってるのを面白がってからかっていたがついにキレ、俺に思いっきり肩パンをする。
「………我、良からぬことを企むものなり。 黒き霧よ、我の姿を覆い隠せ『夜霧の衣』」
俺は保安官時代に覚えた姿を消す魔法で姿を消す。
するとダルは堰が切れたかのようにパニックになり慌てて俺のことを探し始める。
「ちょっと!? どこに言ったの!? ねぇ!! ねぇってば!!」
「………」
俺は静かに潜みながらパニックになっているダルの様子を伺う。
この魔法は姿を消すと言ってもあくまで目の錯覚を利用するものであり、やろうとすれば音や匂い、あと魔力検知の魔法なんかで簡単に見つけ出すこともできる。
だが、パニックになったダルはそこまで頭が回らない。
散々俺を罵倒しつつも必死に探していたのだが、ついに見つからずベソをかきはじめてしまう。
「ごめんなさい、ごめんなさい!! 謝りますから出て来て、1人にしないで〜」
ここいらでさすがに可哀想になったので魔法を解除し姿を現してやる。
もちろん突然、やるとまた殴られそうなのでちゃんとダルにわかるようにしてからだ。
『君たち、ようやく侵入者の現在の居場所がわかったぞ。 侵入者は君たちの部屋がある居住区にいることがわかった。 どこの部屋に入ったかはわからんがとにかくその辺にいる』
しばらく辺りを探索していると再びマリーから通信が入る。
居住区とは今俺らがいる位置から少し先に行ったまだ調べてないエリアだ。
「なぁ、マリー。 その侵入者について一つ聞いてもいいか?」
『なんだ?』
「その侵入者ってのは生きてるんだよな?」
俺はマリーに例のことを聞く。
『わからん』
マリーからはさっぱりとした答えが短く帰ってくる。
「はぁ、やっぱそうか」
『わからんっと言ってるだろ? もしそうだった場合いい研究対象になるかもしれんから捕まえてこいと言ってるんだ。 調べて倒せるようならその時は教えよう』
俺はため息をつき、その侵入者の正体が自分の思っていた通りだと確信する。
そんな雰囲気を読み取ったのかなんなのか、マリーは勝手に決めつけるなと心外そうに言う。
「それじゃおせーよ」
『ともかくだ、 なんとしてでも連れてくるだ。 生きてるにせよ、そうじゃないにせよ。 魔力の全く感じられない人間なんて珍しい。 これは是非とも調べたい。 それじゃ任せたぞ』
またも自分の話したいことを伝えると一方的に切ってしまった。
侵入者探索の相棒であるはずのダルは完全に怖気付いてマリーとの通信では一言も喋らなかった。
「よし、早速調べていくか。 誰の部屋からいくか」
居住区へ着いた俺たちは早速部屋を調べていくことにする。
最初は一番近くにあるダルの部屋からにしようと扉に手をかけた時、ダルが俺の腕を掴み部屋に入るのを止める。
「なんのためらいもなく、ドアノブに手をかけないでよ!!」
「ためらいもなくって、調べなきゃいけないんだから仕方ないだろ」
「私だって乙女なんだよ!? 部屋の片付けとかいろいろあるんだから、勝手に開けないでよ!!」
「乙女?」
俺が彼女を見てそう疑問を投げかけると、
「ふんっ!」
「うがっ!!」
問答無用で殴られてしまった。
「それならさっさと部屋を片付けてこいよ」
俺は殴られた顔をさすりながらダルに言う。
だが、ダルは、
「1人で入るなんて怖いじゃない! 無理だよ!!」
と言って入るのを拒否する。
「俺が入らない、お前も入らない、じゃあどうするんだよ」
「ぽ、ポルタの部屋から!」
と言うことで俺の部屋から調べることとなった。
部屋の前まで移動して扉に手をかける。
「よし、いくぞ」
ダルはゴクリと生唾を飲みこみ、袖を握る力を強める。
俺は静かに扉を開け、自分の部屋に入る。
見た所、何か変わったところはなく今朝部屋を出た時と全く変わらないように見えた。
だが、一点だけ、俺のベッドで寝ている女の子を除いては………
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