5話 寄せ集めの勇者たち
「はぁぁぁぁっっっっ!!!」
ギィィィンとという金属同士がぶつかる甲高い音が静かな森に響く。
俺はダルタニアンの短剣による連続攻撃をさばいていく。
「まだまだぁぁぁぁぁ!!!!」
短剣の攻撃を囮に俺の顔の目の前に手をかざす。
「『雷撃衝波』!!!」
そして短く詠唱し至近距離で攻撃魔法を放つ。
だが、ダルタニアンの掌から雷が放たれるその刹那、俺はその腕を上に払いのけ顔面に魔法を食らうのをなんとか避ける。
「甘い!!!」
腕を払われたことで大きく開いた、そのがら空きになったダルタニアンの鳩尾に剣の柄をたたき込む。
「くっ!!!」
鳩尾をもろに食らったダルタニアンは痛みと衝撃で怯み、彼女の武器である短剣を落とす。 俺はそれを見逃さず追い討ちをかける。 もちろん剣の刃裏返し峰打ちで振り下ろすのだが、今思えばその手加減も不要だったのかもしれない。彼女だって立派な軍人、戦士なのだ。 その程度のピンチで致命的なミスには繋がらない。
「甘いのはそっちですよっ!」
剣を振り上げた俺の胸先に彼女の愛銃である拳銃が突きつけられる。 その腿に収まっている銃を抜いて胸元に突き出されるまで早すぎて目で追えなかった。 俺が今まで見て来た早撃ちで最速は間違いないだろう。
「…………参った、降参だ」
俺は剣を落とし、両手をあげるポーズをとる。
俺もそこそこ実戦経験に自信があったのでいい線まだ戦えるかと思っていたが、やはり完全な戦闘職である軍人には敵わなかった。
「へへっ! やってやりましたよ? ポルタさん!」
彼女はドヤ顔で銃をクルクルと回しホルダーに収める。
「なにがやってやりましたよっ、だ。 あんなの反則じゃないか」
「誰も剣術勝負とは言ってないですよーだ。 ニヒヒっ!」
ダルタニアンは子供っぽくそう笑う。
その表情は先ほどまでの真剣な表情からは想像もできないような笑顔だった。
その無邪気さに怒るに怒れず、心の中の不満が不完全燃焼になってしまう。
今まで何をやっていたかといえば朝ごはんを食べた後、身体を動かしたいというダルタニアンの実戦式の訓練に付き合っていたのだ。
俺も身体を資本とする仕事をしているので鍛えておいて損はないのだが、まだ先日の疲れも抜けきっておらず結果はご覧の通りである。
とはいえ、さっきも言ったが彼女は軍人であるためそもそも俺とは実戦経験が違いすぎる。そうはいってもここまでボロ負けするとは思わなかった。
ちなみにアトスとアミラスの2人は俺たちとは別行動でアルタイルの道案内の元ここから一番近い街へ向かい、自分の安否としばらく帰れないことを伝えに行っていた。
「全く………。 それにその『ポルタ』ってのはなんだよ。 どこぞの真四角の白いロボットみたいな名前だな」
「だってポルトスって呼びにくいじゃないじゃん。 だから、日本人ぽく『ポルタ』さんで。 あ、別にN◯Kのロボットみたいにならなくてもいいよ?」
「いや、真似するほうがむずいだろ。 というかお前も日本人だったんだな」
「そうだよ。 聞いた話によるとあの2人も日本人なんだって。 珍しいよねー」
この世界における日本人というのはそこそこいるという話なのだが、俺はそれを見たことがない。 会うやつは大体外国の奴らばかりで、一時期日本人は俺だけなんじゃないかと疑いもした。 だが、よくよく考えてみるとこの世界に召喚された際、こちらの世界の人間の一般的な容姿に改変されてしまうので聞かなかっただけで実は俺があった『勇者』の中にも日本人がいたのかもしれない。
「数はいるって話だけどな。 少なくとも俺は今までお前たち以外にあったことがない。 たまたま戦場に居合わせた4人が同郷だなんて、まぁ運命というならそんなんだろうな」
「意外とロマンチストなんだね。 あ、そういえばなんでさっきは『聖剣』を使わなかったの? あの風がビューンってやつ」
ダルタニアンは身振り手振りで俺が持っていた『聖剣』を表現しようとする。
「ああ、『風切』か? あれは俺の『聖剣』じゃないしなー。 どうせあと数日で使えなくなるもんだし、あれはそもそもあの戦場で応急処置として使ってたもんだし」
そう言って俺はダルタニアンに飲み物の入ったボトルを放り投げる。
前にも少し話したかもしれないが、俺らの持つ『聖剣』は基本的には『勇者』それぞれに与えられた専用の武器だ。 だからと言って自分の以外の『聖剣』が使えないかと言われれば別にそういうわけではなく、本来の力を発揮できるかどうかがわからないというだけだ。 その点この『風切』は使用者を極端に選ばないため俺でもある程度使うことができた。 ただもう一つ、『聖剣』には弱点と呼べることがあった。 それは
「本来の所有者が死亡した場合、その『聖剣』は力を失う」
というものである。
能力を失うまでのタイムラグは大体1週間くらいだと言われているが実際はその剣によってまちまちである。
話は戻るが、この『風切』の本来の所有者は俺が依頼を受けたパーティのリーダーだ。 だが、彼は先の戦場で死亡しており、どれくらいの期間かわからないがおそらく数日もしないうちにその能力を失ってしまうだろう。
だから、俺にとって『風切』はもう使えない剣と同類なのだ。
まぁ普通の剣として使用するには問題ないのだが………。
「なるほど。 君の実力不足でそこの子犬に負けたわけではないのか」
いつからか、俺たちの様子を見てなにやらデータを取っていたマリーがそう言って俺たち2人に汗拭き用のタオルを投げて来る。
「ちょっと!! 子犬って誰のことですかぁ!?」
ダルタニアンは子犬扱いが気に食わなかったのかタオルを受け取りつ使うもマリーに食いつく。
「いーや、『聖剣』があったところで勝ってたかどうかはわからん。 色々あって辞めたが、俺だってこう見えて元保安官だ。 剣術については少し覚えがあるが、真っ当な軍人には敵わないさ」
「ククク、なにか君も訳ありみたいだね。 それはそうとポルトスに朗報だ。 君が気にしてる『聖剣』の制約なんだが、私ならなんとかできるぞ?」
俺とダルタニアンの会話を面白そうに聞いていたマリーは俺にそう提案する。
「そんなことできるのか!? 確か『聖剣』の改造や製造はこの世界では不可能って話じゃなかったか?」
俺は思わずマリーに詰め寄る。
確かにこの『風切』をここで捨てるのは惜しい。 だが、『聖剣』の制約のため使うことはできないと思っていたのにマリーはそれをどうにかできるというのだ。
『聖剣』はこの世界の、もちろん地球の技術でも作れない代物のため基本的に新しく作ったり、改造したりというのはできないものであるというのが常識だ。 それを彼女はにわかに信じがたい話だがそれを克服できるというのである。
驚きの表現を見せた俺にマリーは満足そうにニヤッと笑い自信ありげに俺に言った。
「私を誰だと思ってるんだ? まぁ任せてくれたまえ」
朝食の後、アルタイルの案内で街に来ていたアトス、アミラスの2人はそれぞれの用を終え、通りのカフェで一息ついていた。
「近くの街って言っても結構離れてるのね」
アミラスは出されたケーキを食べつつそう愚痴る。
比較的体力には自信のある彼女が愚痴るのは無理もなくマリーが住んでいる魔女の館からこの街までは歩いて2時間半もかかる。
もちろん途中までは転移魔法でだいぶ道を省略したのだが、それでも最後は徒歩で歩くこととなっていた。
「そりゃそうだぜ。 なんせマスターは大犯罪者だからな。 あの魔女の館の周りも当然結界を張って見えないようにしてあるしな!」
「あはは、でも万が一見つかってもマリーなら例え軍の精鋭部隊でも魔王でもなんとかしそうでしょうけどね。 それにしてもよかったですね。 孤児院の子たち無事で」
アトスはそれを苦笑いしながら見つつ、ケーキを頬張るアミラスにこの街に来た目的の話を振る。
そもそも彼女たちがわざわざこんな遠い街に来た理由はアミラスは孤児院に、アトスは自分が世話になっていたお屋敷に自分が生きていることを知らせるために来たのだ。
「ええ、孤児院時代に世話になっていた隣町のシスターさんに連絡したらそこで預かってくれてるって。 無事が確認できただけでもよかったわ」
アミラスは心底ホッとしたようにアトスに答える。
「今だから言えるんですけど僕はてっきりアミは街に来たらアルの監視の目をかいくぐって逃げるのかと思いました」
「そりゃ困るぜ。 ま、俺の完璧なる護衛から逃れるなんて不可能だけどな!」
「その自信はどこからくるのよ………。 確かにアトスの言う通り早くあの子たちの元へ行きたいのは山々なんだけど、あの戦災で施設も何もかも失って再建するにはまとまったお金が必要なのよ。 だから、そのお金が貯まるまではマリーに協力するつもり」
「なるほど。 尊い思慮に感服しました」
「そう言うあなたはいいの?」
今度はアミがアトスに話を振る。
彼もアミと同じで自分の生存を自分が世話になっているとある領を治める貴族に知らせに来たのだ。
「はい。 主人さまに助けてもらった恩返しをするためしばらくある人のところでお世話になることを話したら助けてもらった恩返しを気がすむまでやってこいとお許しをもらいました。 まぁ、お嬢さまには早く帰ってこい!ってガンガン言われましたが」
「あなたのところの領主さん、ヘンリーさんは噂通り随分心の広い人なのね」
「あはは、貴族らしくないって言うのは僕も前々から思っているとこなんですけど」
アトスはアミにそう笑って答える。
その後も3人は他愛もない雑談に話を咲かせるのであった。
「さぁ、休憩も終わり! そろそろ帰るぜ! 早くしないと夜の森を歩くはめになるからな」
1時間ほどは話し込んだ後、アルことアルタイルがそう切り出して席を立つ。
「わかりました。 それじゃあ行きましょうか」
2人は了解してお代を払い、店を出た。
屋敷までの道すがらアミはアルに気になったことを聞く。
「ふつうの夜の森には魔物がたくさん出るけど、そういえばあの森も夜になったら出るわけ?」
魔物はその多くが夜行性で特に森や洞窟など月明かりや星明かりが届きにくい薄暗いところに住む。 マリーの住む魔女の館は鬱蒼と茂る森の中に立っているため場所的には魔物が出やすいところに立地しているとも言える。
だが、少なくとも昨夜は一回も魔物に襲われなかった。
そんなアミの質問にあるは得意げに身振り手振りを加え答えてくれる。
「そりゃウジャウジャと出るぜ。そもそも魔女の館を覆う結界はマスターが追跡から逃れるためってのもあるけどそう言った野良の魔物が寄り付かないようにするって言う一面もあるしな」
「そうなんですか。 それじゃああの建物には全く魔物が寄り付かないと言うことですか」
「まぁ普通は寄り付かないけどごく稀に結界を破ってくる魔物もいるから万能じゃないんだけどな。 そんな時は俺がバババァーンっと!」
「じゃあいまこの瞬間そんな奴が来たら魔女の館を守る人が誰もいないじゃない」
「はっはっはっ!! そんなわけないぜ!! そんな魔物が来るのなんて一年に一回あるかどうかだからそんなタイミングよく来るわけがないぜ」
とアルは高笑いしながらそう答える。
一方の2人は呆れたような、なんともいえない表情になり立ち止まる。
そしてアトスがポツリと呟く。
「見事なまでのフラグですね」
「本人気づいてないけれどね。 でも、マリーならなんとかなるんじゃないかしら」
「はっはっはっ!」
そんな2人の話も全く耳に入っていないアルは高笑いしながら2人の先を歩いて行った。
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