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悪運の星の一般人《エキストラ》  作者: 島草 千絵
弍章
47/47

47話 幸せの園



ポルタたちが錆びた聖剣を拾ってから数日が経過した。しかし、その聖剣の招待についてはあれこれ予想を立ててみたものの分からずじまいであった。



「まさに八方塞がりだな。邪龍はどこへ行ったか分からない、復活するのかも分からない、仮に復活したとこで倒し方は分からない、そんでそれを倒すきっかけを持ってるかもしれない聖剣も能力どころかなんで制約を無視して存在してるのか分からない。謎多すぎたろ、これ」



「そうですね……。マリーの方も相当参ってるみたいですし」



「そもそもマリーは伝説の魔女なんでしょ? これくらいパパっとできないものなの?」



「無茶を言わないで欲しいな。そもそもこの聖剣だって1つ1つ手作業で調べてるんだからな。こんな化石みたいなやり方の解析なんて久々にやったんだから」



俺らがいつものようにメインルームでアトスの入れてくれたお茶を飲みつつ、だべっていると髪をいつも以上にぼさぼさにしたマリーが部屋に入ってくる。目元にも大きなくまを作っておりかなり不健康極まりない見た目だ。その様子からも分かるように例の聖剣の解析に相当手こずっているように見える。



「その化石みたいなやり方をやらされてるのは主に森精種や私なのでありますが………」



マリーの後に続いて部屋に入ってきたのは同じく疲労の色が濃いベガが入ってきた。人造人間(ホムンクルス)であるベガがそもそも人間のように疲れるものなのかという疑問は浮かぶが今のベガの話からおそらく彼女とフィーナたちは普通の人間よりも圧倒的に体力のある彼女らですら限界に追い込まれるまで馬車馬のようにこき使われたのだろう。まったく気の毒な話である。



「化石みたいってマリーは普段はどうやってるのさ?普段通りにやればいいんじゃないの?」



スコーンをほおばりながらダルが聞く。

ダルの質問にマリーは両手を挙げ降参のポーズで答える。



「やりたいとこだけどそうはいかなくてね。普段は君たちにわかりやすく言うのであればスパコンを使って作業を進めてるんだけど、ただそっちはナナの方の解析に使ってるから空いてないんだよ。なにぶん、伝説の勇者の遺産だからね。隅々まで調べるのにはこれくらいしないと」



「そっちはあくまでマリーの趣味の方だろ? 人類の存亡がかかってる瀬戸際かもしれないってんだからそっちは置いといて聖剣や邪龍の方を優先させればいいだろ」



そんな人類の存亡でも当たり前のように平常運転マリーに対して俺は何も考えずに軽い気持ちでそんなことを口にする。ただそれが致命的だった。俺は当たり前の、常識のあることをいったはずだ。だが、目の前にいる伝説の魔女にはありとあらゆる常識は通用しなかった。



「バカ者! 研究より優先させるべきことなんてあるわけないだろ!!!」



と、ものすごい剣幕で怒鳴られる。彼女にとって研究最優先、それより大事なものはない! これがここの常識らしい。いや、訂正しよう。それが『マリーの常識』である。現にマリーの最もそばにおり、生みの親である彼女を慕う『人造人間』であるベガはその発言にどん引きしている。文字通り彼女がルールブックなのだ。しかしこんな横暴な態度にこの屋敷のツッコミクイーンことアミが黙ってはいなかった。



「バカ者はどっちよっ!! 常識を考えなさい! どっちが大事なことかなんて五歳児でもわかるわよっ!」



「そもそも邪龍の方は帝国がなんとかするんじゃないか? 資料なんてよこすくらいなんだから情報集めはそこそこやってるだろ。それにもしかしすると例のインチキ宗教が関わってるかもしれないんだろ? それならば普段仲の悪い帝国の軍人と保安隊もここぞとばかりに協力するだろ」



しかしそんなアミの説教なんてマリーには馬の耳に念仏、完全に他人事のように聞き流す。人類滅亡がかかっているなど彼女にはどうでもいいのだ。自分のやりたいようにやる、それが魔女・マリーの生き様だといわんばかりで、さすがにこれには全員苦笑いだ。その俺らの様子を見たマリーは口をとがらせて文句を言う。



「何をそんな顔をしている。そもそも私はあくまで科学者なのだぞ? 例の頭の狂った教団の調査なんて完全に私の仕事じゃない」



「あのーマリー? 期限の悪いところ一つ聞いてもいいですか? 先ほどから邪龍に関わっているかもしれないとかいっている教団って何などですか?」



そんな本題から脱線しかけたところでアトスが話を戻す。



「何だ? 君は知らないのか? 『幸せの園』とかいううさんくさいやつらのことを」



「!!!!!」



「あ、それ聞いたことあるわ。確か理想の世界を作るとかいっていろいろおかしなことやってるやつらでしょ? 孤児院で働いてた私でも知ってるわ。どこかの町で大きな事件起こしてそれがきっかけで帝国につぶされたとか」



「はい。その通りなのでありますよ、アミどの。『幸せの園』と名乗る団体は帝国の第一級犯罪集団に登録されている犯罪集団なのでありますよ。そのきっかけとなったのが三年前に起きた町一つ巻き込んで帝国にクーデターを起こしたんであります。結局クーデターは軍によって鎮圧、しかし帝国はこの一見で多大な損害を負ったのであります。なので今回人為的なもので起こしたとするなら真っ先に疑われて当然なのであります」



「おおかたその通りだ。その事件で教祖はとらえられ処刑され組織はちりぢりになった。ただつぶされたとはいえ皆殺しにしたわけじゃない。で、今回その連中の残党がまた集まって妙なことをやらかしてるとこのバカ毛の上司が内密に情報を寄越してきた」



マリーはベガの解説に最後にそう付け加えダルのチャームポイントである触角を引っ張って遊ぶ。



「うがーっ! 髪をひっぱるなぁーっ!!」



「つまりはですね、もし『光の園』が邪龍の一件に関わっているのなら帝国だけじゃ相手できないので協力してくれ、ということみたいであります」



じゃれ合っている二人を尻目にベガが再び解説に戻る。



「無論私としては帝国の興廃なんてどっちでもいいからね。めんどくさそうなことにはなるべく関わりたくない」



「ということはマリーは今回邪龍に関しては手を出さないと?」



ダルとじゃれつつ無責任なことをいうマリーに対しアトスが問いかける。するとマリーはにやりと笑いアトスが予想していた答えとは全く違う答えを返す。



「ナナの件が片付け終わったらやるさ。間接的とはいえうちの戦闘機1台おしゃかにされたんだからね。そのツケは払ってもらうさ」



どうやら天才魔女は根に持つタイプらしい。


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