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悪運の星の一般人《エキストラ》  作者: 島草 千絵
弍章
46/47

46話 邪龍の対応をめぐって


「はぁ。 魔王も大変ね」



まるでフランス人形のような可憐な少女はそう言ってお気に入りのマグに口をつけ、慌ただしく行き交う者達を興味のなさそうな目で眺める少女がいた。



「そうは言ってもプーパ様、仮にあれが復活したら我々とてただ事じゃないのですよ?」



彼女の補佐をするイラクニャーダはそんな呑気な彼女に耳打ちする。

彼女たちは今魔王城へと来ていた。 というよりも呼び出されたという方が正しい。

実は人間たちよりもひと足早く魔鳥族の長であるアドレアルフから『邪龍』復活の可能性の情報を手に入れていた彼らは先手を打つため無理やり準備を急がせて人間界に侵攻、しかし人間種に対していつもいがみ合ってる森精種、獣人種がこの時ばかりはと、共闘し、あえなく撃退されてしまったのだ。魔王軍としても自らの恐怖になる対象であり、また膠着した人間種たちとの戦いに決着を付けれるかもしれない戦力になりうる邪龍を何としてでも手に入れたかった。だが、現れた邪龍の心臓はアドレアルフが勇者たちと戦っているあいだに忽然と姿を消し未だどこにいるのかも掴めていない有様であった。

そこで魔王はあちこちに散らばる幹部たちを集め現在任されている任務を中断し全力で邪竜を見つけることを指示したのだ。亡霊族の長であるプーパも例外ではなく『勇者の遺産』探しから邪龍探索へと目的を変えるように言われたところだ。



「それにしてもあれね。ほんとに邪龍とかいうのは復活するの?アドレアルフが見た時には心臓だけだったんでしょ?」



一息ついたプーパは魔王城の長い廊下を歩きながら自分の根城としている断崖に建つ屋敷への帰り道へ向かう。その横に彼女の腹心であるイラクニャーダがつづく。



「はい…。しかし、アドレアルフ様の話によるとどうやらその心臓とやらは何者かの転移魔法によって移動させられた可能性が高いとか。実際心臓近くで人間種と戦っていた魔鳥族の何名かがそういった魔力を観測したとか。なにぶん、戦闘中であったので確かなものかどうかは言えないということですが」




「ふーん。転移魔法ねぇ。またあの魔女が関わってるのかしら?」



報告を聞いたプーパの顔が曇る。彼女が言う『あの魔女』とはもちろん『天災の魔女』のことであり、彼女だけではなく魔王軍全体として魔女には多大な被害を被ったのであった。なので、魔族の中に魔女に好意的なものなど誰一人としておらず、イラクニャーダに至ってはついこの前の『聖輪』奪取計画で殺されかけたのだ。

そんなフーパの問いにイラクニャーダは忌々しい魔女の顔を思い浮かべつつそれを否定する。



「恐らくそれはないかと。アドレアルフ様の前に現れた勇者はトップランカーの勇者たち、そして帝国軍の兵士数名とのことです」



「それじゃあ帝国はこのことに気づいてるの?」



「可能性は高いように思われます」



「ならあの魔女が気づくのも時間の問題ね。……………私はこの件からは降りるわ」



「しかし!」



上司のその発言にイラクニャーダは意義を唱え、声を荒らげるのだが、プーパは涼しい顔で続ける。



「だってめんどくさそうだもの。恐らく他の幹部たちの中にもそういう考えの人はいるわ。私たちは最低限の仕事でいいでしょ。下手につっこんであなたまで死なれたら私が困るわ」



「……わかりました」



そこまで言われたイラクニャーダは否定をせずそれを了解する。



「まぁでも一応魔王には義理を立てて何名かは捜索隊に送ってあげて」



「そのように手配します」

































魔族たちが慌ただしくやってる頃、秘密裏に動いていたのは何も彼らだけの話ではなかった。

舞台は中立港湾都市イカサ。

ここは位置としては帝国領に位置するが自治権を持ちどこの国にも属さない都市国家として存在していた。その特性を活かして三種族の商人達の貿易交流の場として機能しており、この国を敵に回したとしたら全ての商人を敵に回すことに等しくどこの国にも痛手になるので誰も手を出しはしない。ゆえに、国際問題などの揉め事はごめんなこの街は表に出せない秘密裏の会談、特に種族間を超えた密談を邪魔されずにするにはもってこいの場所であった。

町の中心にある商館の一室でその会合は開かれていた。



「今日はお集まりいただき人間種を代表して感謝します」



そう言ってぺこりと頭を下げる青年。

見た目十代後半から二十代前半といった見た目の青年はこの異様な場に全くもって不釣り合い、違和感の塊であるのだがそんなのお構いなしに場の進行に務める。



「何をかしこまってるのじゃ、小僧。さっさと本題に入らぬか。貴様のその口調は聞いてて虫唾が走る」



しかし、その青年の慇懃無礼な態度に苦言を呈するものがいた。曲がった腰やその足取りから相当な歳を経ていることが分かる猫族の老婆。しかし、その一言はこの想定外の密談に動揺を隠せない各種族の空気をピシャリと締める。そして小僧と呼んだ青年、人間種最大の国である帝国の長オリバーに対して殺さんばかりの鋭い眼光を向ける。




「いやー、長老は厳しいなぁ。人間種には何事にも一通りの手順というものがあってこれだってそのひとつだってのに」



その歳をも感じさせない威圧感にオリバーはポリポリと頭をかき困ったような表情を見せる。彼は軽い感じで返してはいるものの場には重い空気が流れ誰も発言できるような状態ではなかった。そんな中はぁ、と溜息をつき森精種の女王であるエリーナは話を進めるためピリついた長老と呼ばれる老猫とオリバーの間にに口を出す。



「私もジール様には賛成です。回りくどい男性は私は好みではありませんよ? それより私は大切な話があるというからここにいるのです。戦争をやるために呼ばれたなら帰らせていただきますよ?」



「ははは、みんな叶わないなぁ。人の甲より年の甲とは言うもんだ。僕みたいな新米のペーペーじゃなくてほかの人も連れてくるんだった」



こうしてエリーナが何とか場を収め宿敵同士の本来ならありえることのなかった会合が開かれた。






















「にしても帝国の小僧。よく砦のお姫様を引っ張り出してきたものだ。ワシらはまだ己が利益のためなら貴様らと組むのもやぶさかではないのじゃが、そこの姫様は違うじゃろうて」



ジールはそう言って先程この場を収めたエリーナの方を向いてニヤニヤと笑う。

明らかにからかうような言い方であり挑発してるようにしか聞こえないのだが、こんなことでエリーナは怒りはせずサラリとそれを返す。



「そんなことありませんよ。私はオリバー殿下に求婚された挙句大切なものまで彼に取られてしまいもうここまで来たら運命を共にするしかないと思っただけです。ですから彼が助けを求めるなら私たちは力を貸しますよ」



「フッハッハッハッハッ!見直したぞ?小僧。貴様もやる時はやるではないか」



「ほんと誰かに押し付けて来れば良かった。この二人を相手にするなら1人で魔王軍の大部隊に突っ込む方がマシだ」



完全に巻き込まれた形のオリバーは随伴している部下にそう呟く。 彼としてもそれに苦笑いでしか答えることができず、それを見たオリバーはさらに大きなため息をつき、この会議が早く終わってくれないかなーっと心の底から思うのであった。







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