42話 持ち主は誰?
3人は首を傾げる。
視線は同じ一点に向けられる。
今日彼らが散々見てきた古代の戦士の遺骨。今、目の前にある亡骸もそれら有象無象と何ら変わらないのだが、その亡骸に握られた錆び付いた棒状のもの、それを見て彼らは首を傾げたのだ。
「あのーポルタ、アル、これって……」
「多分そうだと思う。 この感覚はそうとしか………」
「いやいや、間違いないぜ! そもそも俺はそれ用に作られた経緯もあるからな!!」
二人が唖然としているところアルが興奮したように遺骨からひったくるようにそれを手にした。 見た目は完全に錆び付いてて乱暴に振り回したらすぐに折れてしまいそうな見た目なのに、アルが持った程度では形が崩れることなく、むしろしっかりとした芯があるようにも見える。
アルは手に持つ錆びた棒をまるで剣のように振り、確信を持ってポルタとアトスに答える。
「これは間違いなく、『聖剣』だぜ! これは大発見だぜ!!!」
ポルタたち3人は屋敷に戻り、例の『聖剣』をマリーに報告した。 彼女も最初は信じられないという表情だったが、現役勇者二人とマリーがアルに付けた聖剣判定に反応したということで現在はフィーナたちと解析作業に取り掛かっている。
報告を終えた俺たちはメインルームへと移動した。 今日の仕事はこれで終了したのだが、解析作業にベガまで引っこ抜かれてしまったため夕食がいつもより遅くなるという。 なので時間つぶしでも、と思ったのだ。
メインルームにはすでにアミとポルタの2人とサラがいた。
「しかし、本当なのか? 『聖剣』というものは君たち勇者に与えられたものだろう。 それが遥か昔の時代にあったりするものなのか?」
どうやら彼女たちの間でも例の物の話になっていたようでサラが発見者である俺たちに確かめるように聞いてくる。
「知らねーよ。 なんせ俺らは専門家じゃないからな。 ただあの感じは間違いなく『聖剣』だった」
「確か君たちは聖剣の持ち主が近くにいるとわかるんだったな」
「はい。 勇者の間では『共鳴』と呼ばれているようですよ。 詳しいことは僕も勇者じゃなかった期間が長いのでわかりませんが」
サラの言うように俺たちは互いの存在を知る第六感のようなものがこの世界に送り込まれた時に自動に備わっていた。 勇者たちの間ではこれを『共鳴』と言うたいそうな名前をつけて呼んでいるのだが、別にそれが何かの役に立ったという例はない。 なにせ相手が勇者、つまり聖剣を持っているかどうかわかるだけで相手の強さだったり聖剣の能力だったりはわからない。 一説によれば勇者同士の無用な戦いを防ぐためとは言うがはっきりいってそれに役に立っているかどうかは甚だ疑問である。
そんな使い手がわからない謎の能力だからこそ妄想を膨らませる奴もいる。
「真実はどうあれ、実際にそれが聖剣だったら私たちの先輩ってことになるんだよね? どんな人かな!?」
「なにを楽しそうにしてるのよ。 その強くてかっこいい先輩は邪龍に殺されたんでしょ? だったらこの前出てきた邪龍が復活でもされたら大変なことになるじゃない」
「アミ……、誰もかっこいいとまではいってないですよ?」
「私の予想はこう、ゴツくて歴戦の傭兵っ!て感じの人です!!」
「それはそれでこえーよ。 つーか、そんなやつ勇者にいたらもう魔王なんてイチコロだろ」
「ポルタはわかってないなぁ。 そう言う感じの人は仲間の囮になって『ここは俺が食い止める。 世界救ってこい』ってタバコ咥えてニヤッと笑って大量の軍勢を一人で食い止める役じゃないですか! きっとその聖剣を持っていた先輩もそうして壮絶に散ったんだよ!」
「それはいくらなんでもマンガの読みすぎですよ……、ダル」
くそまじめに考え込むサラをよそ目に俺たちはあーだこーだ妄想を膨らませる。
こんな光景を目にしたらマリーもそして名も顔も知らない勇者だと思われる人もきっと哀れな目を俺たちに向けるに違いない。
そんなくだらない話で盛り上がっている中、いつのまにかこの部屋に来ていたナナがアトスの袖を引っ張る。
「ねぇねぇ」
「なんですか? ナナちゃん」
「そのゆうしゃはかわいー女の子だったってことはないの? せかいをすくうでんせつのまほうしょうじょ!」
しゃがんで目線を合わせて話を聞こうとしたアトスが絶句する。
「おい、誰だ! ナナにこんなこと仕込んだやつ」
「あのクソオタエルフね。 そろそろ制裁が必要かしら」