40話 戦争で得をしたのは
「だぁ〜っ! 疲れたぁ〜」
帰るなり女子力のかけらもない声音でダルが早々にソファーに身を投げる。
「お疲れ様であります! お湯はもう張ってあるのでいつでも入れるでありますよ」
俺らを笑顔でそう言って迎えてくれたのはベガ。 しかし、そこにマリーの姿はない。
結局俺たちは今回の防衛戦である程度の収穫を得ることが出来た。 4人でしっかりと分担を決めて戦うことによってそれこそトップランクの勇者たちが戦っている魔物達と渡り合うことが出来たのだ。 それにいつもならボロボロになって帰ってくるのが当たり前になっていたのだが、今回は動けなくなるほどのダメージはなく魔力をムダ使いして毎度毎度ガス欠になるアルでさえ今回はほんの少しであるが魔力が残っている状態だ。
「ありがとう、ベガ。 早く汗流したいところだけどダルがこの調子だし、ポルタたち先いいわよ」
アミはベガにそう言うとソファー顔を埋めて寝転がるダルを呆れたように見て俺とアトスに一番風呂を譲ってくれる。
「それじゃあ遠慮なくいかせてもらうわ。 にしてもマリーはどこ言ったんだ?」
「マスターは今日のデータ集計のため部屋にこもってるでありますよ。 みなさんにはしばらく休んでもらうとも言ってたでありますし」
「ふぅ、それじゃあぼくたちしばらくは無茶しなくていいんですね」
それを聞くとアトスは安心したようにため息をつく。 まぁ何度も死線に送り込まれなくて済まずに安心というのは全くの同意である。
「にしても、今回は急だったな。 魔王軍も本格的にこっちを滅ぼしにかかって来てるのか?」
場所は移動して大浴場。
俺はふぅと大きくため息をつき湯船に肩まで浸かる。
疲れた身体に染み込む温かさで、疲れも傷も消えてくような感覚だ。 まぁこの魔女の館の風呂はマリーお手製の薬草が入れられており、ちょっとした傷ならこの湯船にしばらく使って入れば本当に無くなってしまうのだが。
俺は気を利かせて湯船にお湯を貯めてくれたベガに感謝しつつ、肩を揉みながらそう呟く。
「さぁ? 僕はそういうの詳しくはないので分からないのですが、そうなのですか?」
身体を洗い終わり、湯船に入ってきたアトスは何故か俺らが入る前からいたアルに俺の疑問を流す。
「俺もそのへんは分からないぜ? ただマスターはあの『邪龍』が関係してるんじゃないかって疑ってはいたが」
「『邪龍』ね。 あれはおとぎ話の存在じゃないのか?」
「だと俺も思ってたぜ。 と言うより俺は人造人間なんだから教えられたデータ以外はなんとも言えないぞ」
「うーん、そのへんもきっとマリーが今調べてるんでしょうけど僕的にはこれ以上厄介事はゴメンですねー」
「それには同意するわ」
「はっはっは! それはマスターの前じゃ絵に描いた餅だぜ!!」
大声で笑うアルに俺とアトスは湯船につかったときとは違う意味の大きなため息が漏れた。
「ふふふ、またアホのように殺し合いをしてくれましたね。 これで『この子』の復活に着実に近づきました」
赤いローブに身を包んだ怪しげな女性は満足そうに脈動を刻む大きな塊を見上げながら呟く。 ここは遠い昔存在した王国の城跡。 しかし、今はかつてのような賑わいを失い、草木の一本も生えぬ荒れた荒野にぽつんと佇むその古城のみを残し完全に風化してしまっていた。 そんな忘れ去られた古城の大広間に女性と『邪龍』の姿はあった。 そんな彼女の元へ同じく真っ赤なローブに身を包んだ男がどこからともなく現れ膝をつく。
「『マザー』少しお耳に入れたいことが」
「ふふ、なにかしら?」
「先日の『邪龍』の暴走により起きた自己転送によって勘付いた帝国、森精種、そしてこの二勢力から情報を盗んだ獣人種が動き始めたようです。 これで魔王軍に続いて有力な巨大勢力全てが我々に干渉してくる可能性が」
報告を聞いた女性は心底楽しそうな表情になる。
「そう。 理想通りのシナリオだわ。 今回の魔王軍の侵攻も『邪龍』目的でしょ? カステルの件から日も空いてなし、彼にしたらちょっとお粗末すぎるわ」
「では、3勢力についてはこのまま泳がすということでよろしいですか?」
「そうね。 ただ、『勇者』たちの動きには注意しなさい。 不安要素があるとしたら彼らの存在だわ」
「分かりました。 それともう一つご報告が…」
「何かしら?」
「はい。 つい数日前からダミーも含めて我々のデータに何度も干渉があるのです。 既にダミーのいくつかは侵入された形跡があります」
男のその報告に先程まで楽しそうに話を聞いていた女性の表情が曇る。
「ダミーのセキュリティ、手を抜いていたの?」
「いえ! 全ての我々のデータには堅牢なセキュリティを施しているのですがどうやら相手も相当な手練のようで干渉している相手の場所や人物の特定もままならず……」
「そこまで分かってればだいたい想像つくから大丈夫よ」
「は?」
「こんなことに興味を持って硬いセキュリティを突破してくるなんて『天災の魔女』しかいないわ」
「マリー・レイですか!?」
「そうなれば厄介ね。 何か策を考える必要があるわ。 そちらもなるべく急ぎで計画を進めてちょうだい」
「御意に!」
そう言って頭を下げると男はゲートを使いまたどこかへ言ってしまう。
マザーと呼ばれた女性は再び『邪龍』へと目を移し薄く笑う。
「私たちの計画は誰にも邪魔はさせないわ。 私たちの理想の世界のために」