4話 新たな名のもとに
「よし、決まった。 そこの右の不幸そうな男、メガネ男女、ちっこいアホ毛、影が薄いリボンの順にダルタニアン、アトス、ポルトス、アミラスだ」
次の朝俺たちはマリーにリビングのような部屋に集められ、そう宣言された。
リビングのようなという言い方になってしまうのは、なんというかこの部屋をいい例えが思いつかなかったからである。 絨毯敷きの高価そうなソファーと机、そして暖炉があるのはいいのだが、なぜか部屋のには大きなモニターがあり、さらにその下には何やらディスプレイがセットされている。 そしておそらく本来はそういう目的ではないだろう高価そうな棚にはお菓子やジュースが所狭しと並んでいる。 まぁ魔女風のリビングだと言われてしまえばそれまでなのだが………。
そんな部屋に朝一番で呼ばれた俺たちは理不尽にもそんな風に名付けられてしまう。
「呼び方が気にくわないし、なんで三銃士なの?」
マリーにジト目を向けながらリボンの子改め、アミラスがいう。
まぁあんな戦いの後、朝早く起こされ変なあだ名をつけられたら誰だってそういう反応になるだろう。
「最近読んだ君たちの世界の話に感化されてな? なんとなくかっこよそうだったからそういうコードネームにした。 それにほら、 ちゃんと気に入ってくれてるじゃないか」
そういってマリーはアミラスの後ろを指差す。
「あー! ずるいっ!! なんでちゃっかり主人公の名前もらってんの!? 私がダルタニアンがいい!!」
そういってユイが俺に迫って来た。
「いや、近い近い! 別に名前はどうでもいいんだが、お前はそれでいいのか?」
俺は顔がつきそうなくらい近くに寄って来たユイを制しつつ、彼女に聞いた。
確かユイはマリーの観察対象になることに対しては反対していたはずなのだが、一晩経って一転、マリーのつけてくれた名前の取り合いをしている。
というか、身長小さいくせに色々とでかい彼女にこれ以上近づかれたら色々と目のやり場に困るから離れてほしい。
「やった! この施設での主人公は誰か決定ねっ!!」
俺が動揺する心を悟られないようにそういうと、彼女は飛び跳ねて喜ぶ。
「ねぇ、あの子確か昨日マリーには絶対屈しないみたいなこと言ってたわよね?」
「きっと彼女は過去にはとらわれない人なんですよ、あはは」
アミラスの耳打ちにアトスは苦し紛れのフォローを入れるが、
「アホなのは髪型だけじゃなかったか」
「あはは………」
マリーの発言でそのフォローは完全に無駄になってしまった。
そんなこんなで俺たちのこの屋敷での名前が決定し、納得したわけではないがとりあえずマリーの元にいるときはこの名前でいくこととなった。
だが、今の俺にはそんなのどうでもよかった。
昨日はあんなことがあった後のためシャワーを浴びたら疲れからすぐに眠りに落ちてしまった。なので、当然夕飯は抜き、朝目が覚めると強烈な空腹に襲われた。
考えてみれば、魔王軍との戦いで昼食もろくに取れず、またあれだけ動いた後夕食抜きで実質昨日の朝から丸一日何も食べていないのである。
だから、名前の件やそのほかは正直どうでもいいから早く朝食にありつきたいというのが本音である。
だが、そんな俺の願いも名前を付け終わり満足し部屋を出て行こうとするマリーの残酷な宣告によりことごとく打ち砕かれてしまう。
「ああ、そうだ。 言い忘れていた。 君たちの朝食だが、ベガがあの調子だから用意していないから各自でなんとかしてくれ。 食材は厨房にある程度あるから」
「そんなっ!! 私お腹が減りすぎて死にそうなのに!!」
「それでは頑張りたまえ」
ダルタニアンの悲痛な訴えを華麗にスルーして部屋を出て言ってしまったマリー。
残ったのはダルタニアンの虚しい嗚咽だけ。
「はぁ、こんなに広い施設だったらすごい料理の一つや二つ出てくると思って楽しみにしてたのに……、残念ね」
「仕方ない各自で自分の分作って食べるしかないな。 そろそろ空腹も限界だ」
ダルタニアンほどではないがこの仕打ちにがっかりしているのは俺もアミラスも同じであった。
とはいえ、嘆いていても空腹は満たされないので各々で作ることとなった。
だが、一人だけ、ダルタニアンだけが駄々をこねる。
「ええ!! 私まともなの作れないよ!! 美味しいご飯が食ーべーたーいー!」
「あなたね………女子なら料理の一つや二つできるようにしなさいよ………」
アミラスが呆れつつも床に座り込むダルタニアンを説得しようと試みているがダルタニアンも意固地になって動かない。
まぁこのまま彼女を捨てて、厨房に向かってもいいのだが、あとあと何か言われるのも厄介だ。
そんな、まるで子供のように駄々をこねるダルタニアンにアトスの方から提案をした。
「あのー、僕が作りましょうか? よければ皆さんの分も」
「アトスが? いいのか?」
「はい。 僕のこちらの世界に来てからの本職はとある貴族のお屋敷のコックなので。 お口に合うかどうかはわかりませんが30分ほど待っていただけたらお作りできますよ」
彼はニコッと笑い俺らに言う。
一応それにダルタニアンも納得したようでここはアトスに任せることとなった。
30分後、食堂に並べられたのはどこぞの高級ホテルのビッフェを思わせる輝かしい皿の料理の数々が湯気を立て、空きっ腹を刺激する匂いを放っている。
この世界に来て地球の朝食からは遠ざかっていたが久々に玉子焼きや煮物などを見た気がする。 さらには和食だけではなく洋食も用意されており、朝食としてはまさに理想のラインナップである。 もちろん見ただけで美味いことは一目瞭然なのだが、これを30分ほどで作ってしまうアトスの腕にも驚きだ。
「アトスさんは救いの女神ですっ!!」
まず、この楽園に突っ込んで言ったのは他の誰でもないダルタニアンであった。
彼女は皿をとるや否や盛り付けなど全く考えず小学生のようにどんどんと料理を取っていく。 そして取った料理を片っ端から口の中に入れ惚悦の表情を浮かべる。
俺とアミラスもダルタニアンに続き(全部盛りなんて小学生みたいなことはしていない)料理を取り、口へ運ぶ。
その味はこちらの世界で食べた料理のどれよりも美味いものであった。
「めちゃくちゃ美味いな。 いい嫁になるのは間違いないってやつだな」
「女子力なかなか高いわね」
「あはは、あのー皆さん、料理のことを褒めていただけるのは嬉しいんですけど、女神とか嫁とか女子力とか、一応僕男なんですけど……」
そんな俺らに苦笑いしながら答えるアトスのところまで行き、彼の肩を俺はポンっと叩きながら言う。
「もう男だって偽る必要はない。 お屋敷で辛い目にあったんだろ?」
「そうよ。 ここでは女の子として生きていいの。 あなたに酷いことをする人なんていないわ」
それに続きアミラスもアトスを抱き寄せ慰め始める。
「僕は正真正銘の男ですから!! それに僕の仕えているとこの主人さまはそんなことしてませんし、お屋敷の職場環境もブラックじゃなくてホワイトですよっ!!」
アトスは必死になって俺たちに抗議するが、それもきっと強がりなのだろう。 お屋敷のご主人さまに外ではそう言うように調教されたに違いない。全てを理解していた俺とアミラスは慈しみの目で彼の言い分を聞き、彼を労わる。
「もー!! 信じてくださいよ!!!」
「信じらない。 こんな美味しいご飯を作れるのが男の子だなんて、モゴモゴ………」
アトスの悲痛な叫びが食堂にこだまし、そんな騒動我知らずとダルタニアンはひたすら目の前の食事をお腹へ納めている。
こうして俺たちの空腹問題は解決、それに加えお互いの仲もそこそこに深まったのであった。
「そういえば私らお互いのことちょっとしか知らないままだよね」
食事を終え、唐突にダルタニアンがそう切り出した。 確かに言われてみればそうかも知れない。
今後協力する上で互いを知ることは大事であろう。
だが、それをよりにもよってダルタニアンから言われるのはなんか納得できない。
「まぁ、俺らはお前のことある程度どんなやつかわかったけどな」
「何? その含みがある言い方! それに私のことだけ一方的に知られてるなんて不公平だ!」
俺は悔し紛れにダルタニアンに言うと狙った通りの反応が返って来る。
「不公平ってあなたから先に名乗ったじゃない」
騒ぐダルタニアンに呆れながらアミラスがツッコむ。
「いいの! ここはお互いに自己紹介から!!」
と言うわけで俺らは順番に自己紹介をしていくことになった。
しかし、いざ自分のことを話そうと思ってもあまり話すことがないのに気づいた。
とはいっても小学校でやるような好きな食べ物は〜とかやってもしょうがないだろう。 そうなって来ると話すことは限られる。
「はぁ、わかったよ。 俺の名前は………………って、ここでは名前はもういいか、マリーのつけた変な名前使わなきゃいけないんだし。 えーっと、ここに来る前は皇都を拠点に何でも屋をしてた。 『聖剣』は訳あって使えない」
「それ、ほとんど自己紹介になってないじゃない」
アミラスは俺の自己紹介に対してそういう。
だが、これくらいしか話すことがないのも事実である。
なんともつまらない人間だ。
「そういえば、ポルトスは色々と裏情報っていうかなんというかそういうのに詳しいですよね。 それもお仕事の関係ですか?」
「まぁそれもあるが、俺はこう見えても元保安官なんだ。 ちょっとやらかしてクビになっちまったが、今でも情報はちょこちょこ分けてもらっててな。 だから詳しいのもそれがあるからだな」
「なるほど、そうだったんですね」
「それじゃあ次はアトスだ」
話を振られたアトスは少し考え込んでから自分の紹介を始める。
「僕ですか? はい、わかりました。 僕はエリスロ領、領主であるクローウェル家にお仕えしているコックです。 とはいえ、他のことも色々とやっていたので家事全般は得意で、執事といったほうが近いかも知れませんね。 カステルの街にはたまたま食材の買い出しに来ていたのですが運悪く巻き込まれてしまって…………。 僕の『聖剣』は『安全装置』で、能力は相手に殺さない剣です」
彼がどこかの屋敷に仕えているとは聞いていたが、なるほど、と納得する。
クローウェル家というのは帝国の家族の中でも比較的まともな部類の貴族であることは保安官時代に知っていた。
領主のヘンリーは名主としてまた帝国内でも皇帝の古くからの重鎮として有名な人だ。
彼は俺たち『異世界』から来た人間に対しても寛容でこちらの世界で困っていたらヘンリーさんのところへ行け!、と勇者たちの間で言われるほど懐の深い人である。 だからこそ、アトスが働くなら彼の元以外なかっただろう。
「ヘンリーさんは私も聞いたことあるわ。 あなた、いいとこにいたのね」
「だからそういってるじゃないですか」
先ほど屋敷で酷い扱いを受けていたことを疑った俺たちの疑いが晴れアトスはホッとしたような顔をする。
だが、1人だけなぜか微妙な顔をするダルタニアン。
「それにしてもなんという縛りプレイ」
ダルタニアンはアトスの剣を見つめつつ、そう呟く。
確かに魔王を倒すことを使命としている勇者に与えられた剣が殺さない剣というのはなんとも酷いものである。
「あはは、お屋敷にした頃は賊を成敗して保安隊に渡すときにとっても便利だったんですよ」
だが、アトスはそのことを全く気にしていないようで笑顔で俺たちにそう答えた。
まぁ本人がいいのなら、それでもいいのだろう。
「じゃあ最後はアミラスだな」
「私はあの街の孤児院で働いていたわ。 戦うのは得意じゃないけど私も家事全般は得意よ。 聖剣は『十人一色』。 能力はこの通り、魔力を消費してこの剣をコピーをする能力よ。 ちなみにオリジナルの剣は私の身体の中」
話を振られたアミラスは自分のことを話しつつ、自分の手のひらに魔力を集中させる。 すると光の粒子が集まり始め、それはやがて剣の形になりアミラスの腰に下がる彼女の剣と同じ形のものを作って見せた。
「へぇ。 うまくいけば商売できそうな能力だな」
俺は感心しつつ、アミラスから作った剣を貸してもらい色々な角度から眺める。
「増やせるのは『聖剣』だから売るにしても勇者にしか売れないじゃない。 しかも、コピーの剣には複製能力ないただの剣だし」
といって彼女はダルタニアンにもせがまれて、新たな剣を作る。
「はわぁ〜! いいな〜この能力。 かっこいいです!!」
「それより4人も勇者が集まって戦闘系の『聖剣』持ってるのはダルタニアンだけなんて…………僕ら大丈夫なんですかね?」
「まぁなんとかなるだろ」
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