39話 チームワーク
「ともかく、森精種が協力してくれるのはわかった。 だが、勝算はあるのか? 前回ぼろ負けしただろ?」
俺は嫌な思い出を思い出しつつ、タネハルに尋ねる。
今回は犬猿の仲である森精種、そして同じく仲のあまりよろしくない獣人種の三大勢力揃っての対魔王軍との戦いになる。 実を言うとこの三者が協力して戦うと言うのは歴史上初めてのことである。
なので正直なところお互いがお互いの足を引っ張り、1+1が2になればいいのだが下手したらマイナスになりかねない危険性も孕んでいた。
さらにはカステルの街で見せた魔王軍の新たな攻撃手段、これもまだ未解決のままである。
「ああ、その辺はご安心を。 私たちもそう何度も虐殺されるほど無能じゃありませんよ。 ちゃんと考えはあります。 というよりも今回私たち帝国軍は一番槍で! ということはしませんし」
「えー? 突撃しないのー?」
笑いながら答えるタネハルにブゥーっと頰膨らますダル。
「そもそも突撃が帝国軍の華みたいな言い方やめてくださいよ、隊長。 どうやら魔王軍は人間の魔力に対抗しておそらく抗魔力の加工を施した武器や同じく強化した魔法を使ってきていることまでは分析できています。 まぁこの短期間にできたのはそれだけなんですが」
「ダメじゃん!」
「はい。 なので今回魔法関連に関することは全部森精種の方々に丸投げしてしまおうというわけです。 苦手なことは無理せず、森精種さんたちがどんぱちやってあらかた片付けてくれたところに屈強な肉体を持つ獣人種の方々や勇敢で歴戦の戦士である『勇者』の方々で追撃をかけてもらおうというのが今回の作戦、ですので先ほども言いましたが我々帝国軍は主にみなさんの後方支援と指揮系統を担当させてもらいます」
「なによ、結局他力本願じゃない。 それにしても、歴戦の、ね……。 それ私達はお呼びじゃないって事よね」
「まぁそもそも僕達はマリーに言われて無理矢理来させられてますからね。 それにたしかにアミと僕は歴戦の戦士とは程遠いです」
「心配なさらなくても皆さんも充分強いですよ。 何せあのカステルから生き残ったんですから」
毒を吐くアミとそれをなだめるアトスをタネハルが元気づけるように励ます。
と、その最中タネハルのインカムになにやら連絡が入り、それではご武運をお祈りいたしますと言って去ってしまった。
だが、いくら文句を垂れたところで戦いから逃げられるわけでもなく俺らにできることは深いため息をつくことだけであった。
「そうだよ! 私たちだってやれるってこと見せてやろうよ!!」
やる気に満ち溢れた1人を除いて。
タネハルと別れてしばらくしないうちにその時は訪れた。
夕陽が完全に水平線に沈もうとしているまさにその時、さらにまるでヒビが入ったように亀裂が入りドス黒い瘴気が溢れ出すのが遠目でもよくわかった。
そして、その亀裂から溢れ出す禍々しくおどろおどろしいうめき声は集まった人たちの緊張感を一気に高めた。
「お出ましだぞ? 夜襲とはまた考えたな」
「私は夜の方がテンション上がるからそっちの方が嬉しいよ!!」
「無理しないで行きましょう。 強い敵は強い勇者の方々に任せて僕らは自分のレベルにあった………」
『バカモノ、そんなんじゃ君達の強化訓練にならないじゃないか。 前線行ってこい』
「鬼めっ!!」
先手はこちらだった。
こちらへ向かって進軍してくる魔王軍に向かってあらかじめ用意していた森精種の魔法使いたちがバンバンと高威力の攻撃魔法を打ち込む。 もちろん、魔王軍は前回のカステル動揺なにやら防御結界のようなものを張ろうとするのだが、それもガラスのように簡単に破られ雨のように降り注ぐ炎や氷の柱、雷撃などを直撃させられてしまう。
『敵、第一陣多数被弾。 侵攻速度40%ダウン!』
『森精種魔導部隊、次攻撃までのインターバル142秒! それまで帝国魔道軍、『勇者』の遠距離魔法による支援攻撃で時間を稼げ』
タネハルからもらったインカムから次々と戦況が伝わる。 どうやら、初手の攻撃は成功し魔王軍の侵攻を遅らせることに成功したようだ。 魔王軍も人間種の国を攻めてまさか森精者の魔法が飛んでくるとは思っても見なかったのだろう。 見るからに大混乱に陥っているのが分かった。
だが、それも一時的なもので魔王軍は体勢を立て直し再び進軍を再開する。
『やはり、向こうにも有能な指揮官がいるみたいですね。 三佐出番ですよ! みなさんも三佐のことよろしくお願いします』
タネハルからの無線が入る。
海岸線には先ほどの攻撃魔法による絨毯爆撃を生き延びた魔物が押し寄せておりすでにランク上位の勇者たちによる戦闘が始まっていた。
「よし、私たちも行こう!」
タネハルの無線を聞くなり、愛銃を抜き飛び出して行ってしまったダル。
「なんでノリノリなんだよ! フォーメーションは話し合った通り、アトス、アミ、行くぞ!」
俺は慌ててダルを追いつつ2人に声をかける。 2人は頷き俺に続いて地獄へと飛び込んで行った。
俺らは話し合った通りダルを3人でサポートするフォーメーションで、こちらへ上陸して来た魔物と対峙する。 次々とこちらへ向かってくる魔物は誰も今まで戦って来た魔王幹部級や『骸シリーズ』とまではいかないまでもどいつもこいつも強敵だ。 しかし、今日のダルは今までにないくらい絶好調である。 はじめからエンジンフルスロットルで蹴散らしていく。
「へへーんっ! これで7体目、どんどんいくよーっ!」
「おい! お前、スタミナ切れおこすぞ! ペース配分ってものをなっ、 よっと! 考えて戦え!」
俺はダルの死角から仕掛けようとして来た小鬼のような魔物を切り捌きつつ、どんどんと敵に向かっているダルに叫ぶが耳に入ってるのか入っていないのか水を得た魚のように暴れまわっている。
実際のところ俺たちの連携はそこそこ上手くいっていた。 暴れ回るダルは結構無茶な戦い方をしてると思うのだが、アミによる森精種式の防御魔法で相手の妨害魔法を防ぎつつ、逆にアトスが相手に直接作用するものでない魔法を選び、的確に相手の動きを乱しダルをサポートする。 そのおかげで強敵も一人で相手するよりも十分戦いやすくなっている。 もちろんダルが捌き切れなかった魔物やアミ、アトスに襲いかかる魔物は俺が遊撃兵として臨機応変に対応した。 それにパーティとして機能してるのは俺たちだけではない。
『皆さん! 10時の方向より、強力な魔力反応あり! これと戦うのは危険です! 回避を進言するであります!!』
「了解! 次はどっちに行けばいい!?」
『はい! C-12地区での魔物の数が多いようで対応に追われてるのでそちらに! 魔物のレベルから言ってそこまで強いわけではないようでありますから、皆さんでも十分対応できるであります!!』
「わかりました! ありがとうございます、ベガ」
ベガもまた俺たちの戦況をモニターし、的確な情報を送ってくれる。 そのおかげで俺たちはここまでレベルの高い『勇者』たちとなんら変わらない撃破数を積み重ねていた。
俺たちが役に立ったのかどうかはともかくとして結果として森精種という予想外の戦力、そして高レベルの勇者たちの抵抗もあり魔王軍はその後増援も送ることなく撤退していき、帝国は見事カステルの雪辱を果たしたのであった。