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悪運の星の一般人《エキストラ》  作者: 島草 千絵
弍章
36/47

36話 防衛戦前夜


次の日俺たち4人は各々防衛戦への準備に取り掛かっていた。 ダルとアトスは朝からアルと模擬戦をアミは同じく早くからフィーナたちのところへ行っていた。

そして、俺はベガとマリーの研究室に来ていた。




「ポルタ殿、『風切』の再調整終わったであります!! オーダー通り耐久力をそのままに重さを27%カット、魔法伝導率を12%アップしてあります! しかし、軽さを出すためにダメージ量と魔法放出威力がどちらも10%〜12%下がってしまいましたが大丈夫でありますか?」



「大丈夫、いい出来きだ。 ありがとうな」



そう心配そうな顔をするベガの前で剣を鞘から出し数回振った後再び鞘に剣を納めてから俺はベガに笑顔で答え礼を言う。 そんな俺の様子を見ていたマリーがそう疑問を投げかける。



「『風切』には確かにそのカスタマイズの方が合いそうだがいささか威力不足じゃないか? それでは堅い装甲をもつ魔族……特に機械族なんかに歯が立たないと思うのだが」



「まぁそれもそうだが、今回は『風切』の特性を最大限に活かすようにしたかったからな」



「つまりは本来の『風切』が持っていた『扱いやすさ』と『攻撃速度』を活かすということでありますか? しかし、今の『風切』はオリジナルに『扱いやすさ』と『攻撃速度』を近づけた分、大幅に威力の方が劣ってしまっていますが………」



2人の言いたいことはわかる。

本来の『風切』の扱いやすさはおそらく『聖剣』のなかではトップクラス、魔力が剣を伝わる速度や降った時の速度もそこそこいい部類に入り、威力も申し分ないというものであった。 しかし、今のは所詮模造品、どう工夫しても本来の性能には届くわけもなくなにかを近づけるにはなにかを犠牲にしなくてはいけなかった。

今までは俺も保安官や傭兵の経験があったことから少しは『扱いやすさ』や『速度』を犠牲に『威力』優先できたのだが、その『威力』優先の状態でもあの惨敗だ。 つまりはまだまだ俺の力不足ということだ。 そこで考えたのが俺は挑まない(・・・・・・)ということだ。




「まぁ確かにそうだが、俺としては今回の戦いは前衛でいくつもりはないからな」



「ほう」



そう言い切る俺にマリーは興味を示したように眉をあげる。



「ぶっちゃけなことを言うと俺らの弱さなんて一朝一夕でどうにかなる問題じゃないしな。 なら、どうするかって考えたらお互いの弱さをカバーしながら戦っていけばいい。 個より集団、これこそ大和魂の真髄というやつだ。 それに俺らはある程度それに対応できることくらいサトゥルヌスや『骸の舞姫』で経験済みだからな」



つまりは俺たち4人で正式にパーティを組んで戦おうというものだ。 もちろん、個人で戦うよりチームで戦う方が勝率がいいなどメリットもあるが、逆に連携など難しいなどデメリットもある。 だが、俺たちは幸いなことに連携に関しては初めからある程度形にはなっていた。 俺も保安隊という職業柄連携して戦うことにも慣れてるし、おそらく軍にいたダルも同じだろう。 アトスやアミも、もともとサポートに回ることを得意としているようだしそれに何より同郷出身ということもあって考え方にあまりズレがないのもデカい。 そもそも集団戦は日本人の得意とする分野である。 そんなこともあり俺たちは昨日話し合い勝つためというより生き残るためにそうすることに決めたのだ。



「なるほどね。 それが君らなりの考えというものかい?」



「ああ、だからアトスが珍しくダルの自主練に付き合ってるのも、アミがフィーナたちのところに行ってるのも自分たちにできることを探して準備してるんだろ? まぁダルはいつも通りだが。 あ、そうだマリー1つ頼みがあるんだが………」




































ポルタが剣の調整をやっているその頃、訓練場ではちょうど模擬戦が終わり、とったデータを見ながら反省会の真っ最中であった。



「すごいぜ! ダルの姉御! アトスの姉御! こんなスコア今まで出てなかったのに!」



アルが興奮したように声を上げる。

データから言うまでもなくアルから見て2人の連携はうまくいるのは一目瞭然であった。 だが、客観的に見てもどうやらアトスがダルのサポートに回ることで彼女の力を十二分に引き出せていたことがわかった。



「はぁ、はぁ、だから、僕は男ですって……っ」



玉のような汗をかき、膝に手をつき息を切らしながらツッコむアトスに対しダルは、



「ふぅ、いい汗かいた!! でも、なかなかだね! アトス! やっぱ持つべきは仲間だよね!」



とまだまだ余裕を見せている。

彼女としてもアトスがサポートしてくれることによって攻撃することだけに集中できて気持ちよかったのだろう。



「はは、お役に立てて嬉しいですよ」



「早くほかの2人とも連携試してみたいなー!」



「ぼ、僕は結構限界が………。 せめて午後からにしてくれませんかね」



「なによりも驚きなのが1発目でここまで完璧にできることだぜ! こっちも割と手を抜かずに攻めたつもりだったんだが、2人にほとんどダメージを与えられなかったぜ! 特にダルの姉御に向かうダメージはほとんどアトスの姉御が受けちまうし!」



「そうなんだよ! お陰で自分の攻撃に集中できて!!」



「ダルは単じゅ…………、素直なので何か1つに専念させてあげたほうが力が出ると思ったんですよ。 実際その通りでしたね」



「ねぇ? いまさらっと私のことディスらなかった?」



「安心してください。 気のせいだと思いますよ」






















一方で他の三人とは別行動をとっていたアミはフィーナたち森精種のところへ来ていた。

といっても彼女たちに与えられている部屋はアミたちに与えられている部屋の一階下なので当然のように同室のナナも一緒にくっついてきていた。



「お話はマリーから聞いていますよ。 でもすみません、今私たちの手持ちでアミが使えそうなものはこれくらいしか……」



「ありがとう。 要は使い方よ。 大丈夫、これだけあれば役に立つわ」



しゅんとするフィーナをアミはそう言って気遣い、それらをまとめて受け取る。



「お力になれたなら良かったです。 ですが、なぜ私たちなのですか? それならマリーを頼った方が良かったのではないですか?」



フィーナの言う通り、同じ魔法なら非戦闘員であるフィーナたちより伝説級の『魔女』であるマリーの方が魔法を教わるには適任だと思われる。

しかし、フィーナの疑問にアミは首を振る。



「マリーのはどちらかというと攻撃用のばかりだし、私の今回の目的には合わないわ」




実はここに来る前、アミはフィーナたちより先にマリーの元を訪れていたのだ。 しかし、彼女の魔法はアミが得意とする回復系、サポート系の魔法ではなく相手を殲滅するための攻撃魔法ばかりで今回ばかりはあまり役に立ちそうもなかったのだ。 なのでマリーから補助系の魔法なら森精種の連中が得意だ、という話を聞いてフィーナにその話をして協力してもらったのだ。

しかし、『森精種』と『人間種』の魔法は似ているようで異なる。




「ところでなんで人間種である君が私たちの魔法が使えるんだ?」



腕組みをしてその様子を見ていたサラが当然のように湧いた疑問を聞く。

それに答えたのはアミではなく、フィーナだった。



「それは私が解説しましょう! 私たち森精種とアミたち人間種の遺伝子は極めて近いのです。 ですから、私たちの間容姿や生活の仕方が似通っていますし混血ができます。 ですから、私たちが使える魔法も理論的には人間種も使えるはずというのですよ」



「しかし、私たちは人間でいう魔力に加えて『精霊の加護』が、」



「それなんですよ! 人間種が我々の魔法を使えないのはそもそもの魔力量が違うだけではなく『精霊の加護』を受け取れないからなんですよ! でも、人間種にもごく稀に『精霊の加護』を受容できる人が生まれることがあるんです」



「なに? あれは聖天王様を信仰してないと受けれないものじゃないのか!?」



「森精種ではそれが常識ですけど科学的な観点からいえば我々森精種は聖天王様のお力を受け取りやすい体質の持ち主で人間種はそうじゃない、遺伝上の種差であると説明できます。 なので、人間種にもごく稀に使える人間がいてもおかしくないのですよ」




フィーナは得意げにサラの質問に答えていく。

彼女の言う通り森精種の魔法は人間種のものと少し違う。 それは森精種だけが使える『精霊の加護』という特殊な力を元にして魔法を使うのだ。 それはまるで空気のようにごくあふれているのだが、それを使えるのはなぜか森精種のみで、聖天王という森精種が信仰する神からの授かりものだというのが常識として知られていた。 もちろんこれがなぜそうなるか、そもそも『精霊の加護』とはなんなのかというのは謎のままだが、 最近の研究ではあくまでその力を受け取る感受性がたまたま森精種が高いだけで人間種や獣人種にも稀に扱える者が産まれるというのがわかってきたのだ。




そんな特殊な力をアミは使えるのか?

答えはアミが目をやった先にあった。



「まぁ私の場合、マリーに貸してもらったこれのおかげなんだけどね」



そう言ってアミはつけている翡翠色のブレスレットを撫でる。




「なんなのだ? これは?」



「その『精霊の加護』を普通の人間種でも使えるようにするものらしいわ。 まだ試作段階らしいけど、マリーいわく、これが『精霊の加護』を受け取る受容器になって使える、だそうよ。 でも、まだまだ改良の余地がある、みたいなこと言ってたけどね」



「あの魔女、聖天王様を汚すようなものをっ!!」



それを聞いたサラは見るからに機嫌が悪くなるのだが、それとは対照的にフィーナはマリーが作ったという『精霊の加護』受容器を舐めるように見る。



「ほぉ。 これがマリーが言っていた………。 でも、これがあるなら他のお三方もこれをつけたほうがいいのではないのですか?」



「どうやら人間種が『精霊の加護』を使うには相当な魔法センスが必要みたいでね、ダルと私がなんとか使えたっていうのが現状なのよ。 まぁ『精霊の加護』を使う場合は人間の作った兵器の類を外さなきゃいけないみたいで結局私しか使える人はいなかったってわけ」



それを聞いたナナの相手をしていたゴーシュが得意げに柏手を打つ。



「ということはアミさんは特殊な魔法が使える選ばれた少女、つまり魔法少女というわけですね!」



「なんでそうなるのよ………。 というかゴーシュは一体地球のなにについて調べてるの?」



アミはそんなゴーシュに呆れながら、ナナを彼に預けていても大丈夫なのかと不安に駆られたのであった。














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