35話 勇者4人の現状
「さて、昨日の今日で君たちに集まってもらったのは他でもない。 君たちに再びやってもらうことができた」
「「「「……………」」」」
同様に言葉を失い、唖然とする俺たちを見てキョトンした顔をするマリー。
俺たちはあの後マリーの魔力が回復するまで数日、村でお世話になりゲートを使って戻ってきた。
そして次の日の朝、マリーに俺たちは唐突にそう告げられたのだ。
村でお世話になったというものの、傷の本格的な治療は帰ってからということで応急処置だけしていたので病み上がりも病み上がり、疲れなど全く抜けていない状態だった。
「なにかね? その何か言いたそうな顔は」
「………正気か?」
「私はいつでも正気だぞ?」
俺の疑うような発言にもマリーは真面目に答える。 どうやら先ほどのは聞き間違いではないようだ。 その答えを聞いたダルとアミがたまらず彼女に向かって叫ぶ。
「この悪魔っ! 人でなしっ! 冷血女っ!」
「ちょっと待ってよ! 私たちつい何日か前まで死にかけて今日ここに戻って来たばかりなのよ!?」
文句こそなにも言わなかったが普段愛想笑いでなんだかんだ文句をいう俺たちをなだめるアトスもこれにはさすがに表情を曇らせる。 そんなブーブーと抗議する俺たちにマリーはめんどくさそうに反論する。
「そんなことわかってはいるが私の為ではなく君たちの為でもあるんだぞ?」
「僕たちのため……ですか?」
「ああ、これを見てほしい」
そう言ってマリーはモニターをつける。
そこには俺たちの名前となにやら大量の数字が表やグラフになって映し出されている。
「なにこれ?」
ダルはそれを見て首をかしげる。
「カステルの町からの君たちの戦闘データだよ。 君たちには頑張ってもらっているのは見ての通りだ。 しかし、問題も浮き彫りだ」
「何か問題でもあるの?」
アミがマリーにきく。
それを彼女が答える前にアトスが気づき指摘する。
「僕たちだけで戦った時のデータですか」
「え? あ!」
ダルが思わず声をあげてモニターを凝視する。
俺も言われて気づいたが確かに俺たちだけで戦った時の数字が著しく悪いのが見て取れた。 確かに思い返してみれば俺らだけで倒した強敵といえばカステルの街のサトゥルヌスくらいで『骸の舞姫』はサラの手を借りて、イラクニャーダ、アドレアルフはそれぞれアル、マリーそしてラッキー・ホーネットの手を借りてやっと倒せた相手であり魔王軍の主力である2人には正確にいえば俺たちの手では惨敗だった。 そのことを思えばマリーの言わんとしていることがわかる。
「アトスのいう通り、君たちだけの時の勝率や有効ダメージ率、被ダメージ率が一般の兵士ならまだしも『勇者』としては少々悪い。 そこらへんの雑魚を倒すぶんには問題はないけど、これじゃあ今回みたいに強敵と当たったら命がいくらあっても足りないよ」
「でも、私たちはもともと一般人として暮らしてたわけだし、強敵と当たったら劣るのは仕方ないじゃない」
「それはいいわけだね。 前はそうだろうが今は『勇者』なのだろ? こんな調子では私の研究にも支障が生じるし、君たち自身の身の安全のためにもならない。 よって君たちには強化訓練を行ってもらう」
「なるほど、それで俺らは呼ばれたのか」
誰も指摘しないがどうやらマリーの頭には俺たちと強敵と会敵するのを避けるという考えはないらしい。
まぁ、みなそれを薄々分かっているからこそ誰もそれについて文句を言わなかったんだろうが………。
とはいえ、マリーのいうことにも一理あるのは確かだ。
「でも、強化訓練って具体的になにするの?」
「詳しいメニューは君らのデータをもう少し集め改善点を明確にさせてからだね。 そのために君たちにはこれに参加してもらうよ」
ダルの質問にそう答えたマリーはモニターの画面を変える。
するとそこには見覚えのあるフォントの画面、そしてそこに書いてある内容というのは、
「ギルドのクエスト? ………魔王軍からの防衛任務!?」
「そうだ。 また魔王軍の連中が侵略の準備をしているらしい。 場所は人間種と獣人種の国境付近、戦力はカステルの規模とほぼ同等らしい。 帝国では先月のカステルの傷が大きくてな、とにかく兵士の数が足りないらしい」
「つまりこれに参加して帝国軍の援護をして来いってことですか?」
「なにを甘いことを言っているだい? 援護じゃなく最前線で斬り込んでくるんだよ」
マリーの無茶振りに再び絶句する4人。
おいおい、さっきまでの話じゃ俺たちは実力不足だから鍛えるとかいう話じゃなかったか?
それを最前線で魔王軍の精鋭とかち合えと?
それこそ命がいくつあっても足りるわけがない。
「なんでよ! それ私たちに死ねってこと!?」
「死ねなんて言ってないよ。 君たちの弱点や強化すべき点をより正確にわかるためには数をこなさなきゃいけない。 数だけならアルタイルに100本勝負でもさせればいいが、 それよりも実戦でのデータ、特に実力が上のやつらとの戦いの方がよっぽど良いものが取れるからね。 だから、最前線で数多くの敵を倒してきてくれ」
そんな無茶振りを簡単に言ってのけるマリー。
これにはさすがに俺も黙ってられない。
「アホか! なんだそのとんでも理論は!!」
「まさかのアミさんのお株を奪うポルタのツッコミ!」
「誰の特技がツッコミなのよっ!!」
「ふーむ、お気に召さないか。 勇者として悪の手から民を守るのは当然だと思うのだがなぁ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ俺たちを無視して考え込むマリー。 確かに勇者としてなら防衛任務へ行くのは当然の義務だと思うがさすがにこちらのペースでやらせてほしいと思った。 同じことをアトスも思ったのか遠慮がちにマリーに言う。
「いえ、防衛任務へ行くのは僕たちとしても行くべきだと思うんですがいきなり最前線はちょっと……」
「仕方ない、それならプランBだね」
「そのプランBってなに? 私としてはその最前線でも別に構わないよっ! かっこよく活躍できるし!」
アトスの意見を聞いて開き直ったマリーはよくわからないことを口にする。
それを脊髄反射のようにダルが聞き返す。
その返答は再び俺たちに言葉を失わせる。
「『獣王宮』との100本勝負。 ナナに協力してもらって『獣王宮』に死なない程度に手加減してもらって君たちと戦ってもらう」
しばらくの沈黙の後、アミが口を開く。
「バカなの? ねぇ、バカなの? それで私たちが『うん、そっちの方がいい!』なんて言うと思ったの!?」
「あはは、まさに前門に魔物、後門に獅子ですね。 いや、笑えないんですけど」
「私は防衛任務がいい! それこそ『勇者』の本業だからね! あ、でも『獣王宮』も捨てがたいかも………。 あ、どっちもってのは!?」
「もういい、お前は黙ってろ!」
こうして、俺たちは防衛任務(難易度ベリーハード)を選択せざるおえなった。
「それでは防衛任務は明後日だ。 各々準備を整えておくように」