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悪運の星の一般人《エキストラ》  作者: 島草 千絵
弍章
33/47

33話 トップランカー



「ごほっ!!!」



ポルタは地面に転がりながらも剣を杖代わりになんとか立ち上がる。

アルの操縦していた戦闘機が落とされたあと、生き残った魔鳥族の魔物たちはあの塊の方へそして、こちらにはアドレアルフとその他の魔鳥族5人ほどが残り、ポルタたち4人の前に立ちふさがった。 しかし、実際にはアドレアルフが部下に手を出さないよう言ったので彼1人だけではあったのだがそれでも魔王を支える7族長の1柱であるアドレアルフに4人は必死に抵抗したものの全滅させられてしまったのだ。

ダル、アミ、アトスはすでにやられ、残りはポルタだけとなってしまったのだがこちらも満身創痍まとめてとどめを刺されるのも時間の問題だった。




「かっかっか、手負いの状態でよくそこまで粘ったな。 しかも他の連中を庇いながら。 なかなか楽しめたぞ?」



「くっ………」




「必死に粘ったようだが、数は少なくなったがもうすでに俺の部隊のやつらが邪龍のところへ着いたところだろうな。 かっか!」



「邪龍だと!?」



「おっと、口がすべちっまったぜ。 まぁどうせお前はここで死ぬ。 なら冥土の土産として教えてやろう。 あれはな、かつてこの世界を滅亡寸前まで追い込んだ伝説の龍の一匹、邪龍の心臓さ。 あれを蘇らせることができたのならこの世界の人間種や森精種、獣人種は全て灰にできるだろうよ。 かっか!」



それを聞いたポルタはゆっくりとボロボロになった身体にムチを打ち、剣を構える。

その目の中にある闘志はまだ死んではいなかった。



「まだやる気かぁ? 本来ならおまえたちには用なんてないからな、俺を楽しませてくれ多分見逃してやってもいいぞぉ?」



フラフラと立ち上がったポルタにニヤニヤとした笑顔を向ける。

しかし、ポルタは満身創痍でありながら凛とした顔でアドレアルフに言い放つ。



「それを聞いて命乞いする奴がどこにいるんだよ。 そんなことでおまえに土下座するなら死んだ方がマシだ」



「まさに、『勇者』の鏡だな。 その男気に免じて痛みのないように一撃でやってやろう。 おい、お前らは他の奴らにトドメをさせ!」



それを満足そうな顔で聞いたアドレアルフは部下たちに命令する。

そして、構えるだけで手一杯なポルタに魔鳥族の魔物たちが襲いかかる!

しかし、アドレアルフは次の瞬間信じられない光景を目の当たりにする。

ポルタに襲いかかった部下たちは皆、ポルタに襲いかかる前にこめかみから血を流しバタバタと倒れてしまったのだ。



「な、なんだ……!」



それはあまりに一瞬のことだった。

そのあまりの早さにポルタもアドレアルフも目の前で起こったことが理解できなかった。



「なんとか間に合ったようだね」



その沈黙が支配する戦場に透き通るような声。 そして地面に落ちる薬莢の音。



「なんだ貴様はっ!!」



「なるほどのものじゃないさ。 ただ、ここでこの星で同じく頑張ってる同業者に死んでほしくないだけさ」



金髪碧眼にテンガロンハット被り、まるでカウボーイのような服装の男がニヒルな笑みを浮かべながらそう答え、愛銃に弾を込め直す。



「あんたはラッキーホーネット!?」



ポルタが驚いたように声を上げる。

ラッキーホーネットはもちろん彼の本名ではない。 彼格好からもわかるように彼はカウボーイに憧れており、ラッキーホーネットという名はそのカウボーイのスーパーネームであった。

そんな彼はポルタたちと同じ勇者であり、しかもかなりの実力を持ち、その名を知らない者はこの世界にいないと言われるほどの実力の持ち主であった。 それはこちらの世界に存在する『勇者』を支援するギルドが発表するランキングで100位以内に入るというまさに勇者の中の勇者であった。

彼がなぜここにいるかはわからない。

しかし、彼がここにきたことにより明らかに敗戦モードの空気が変わった。



「かっかっか! かぁっかっかっかっか!! なるほど、お前があのラッキーホーネットだったか! お前は魔王軍でも有名だぞ? まさかここで会えるとはな!」



そういうとアドレアルフは一気に魔力を込め、攻撃に移ろうとする。

しかし、彼が瞬きもする間も無く鳩尾にラッキーホーネットの正拳突きが叩き込まれる。

それによりアドレアルフの鎧は砕け散る。



「かはっ!!」



「うーん、僕としては早打ちで決着つけたかったところなんだけど。 運がなかったかな、さっきのでちょっと僕のマグナム(ハニー)、調子が悪くなっちゃったから」



そう言ってラッキーホーネットはマグナムをクルクルと回してホルダーにしまう。 彼のことだ整備不良ということはないだろう。 おそらく本当に運悪くこのタイミングで壊れてしまったのだ。しかし、見た目はどう見てもガンマンなのに体術までも得意とはさすがトップクラスの勇者であった。

スピードなら魔族でもトップクラスのそんなアドレアルフをも凌駕する圧倒的なスピードで放たれた正拳突きで、アドレアルフは予想以上の実力に驚き大きく距離を取る。



「なかなかやるじゃねぇか! かっか! 噂の勇者様に恥じない一撃だったぜ!!」 



口の中に溜まった血を吐き、楽しそうな顔でそういうアドレアルフにおそらく『邪龍』の元へ向かっていたであろう部下の1人が血相を変えた顔で飛んでくる、



「お頭ぁっ!!!!」



「なんだ。 邪龍の方は片付いたのか?」



「いえ、それが」



「なんだと? それは本当か!」



「はい!」




部下がアドレアルフに耳打ちをして何やら話し、それを聞いたアドレアルフは目を見開いて驚く。 それとちょうど時を同じくして俺の通信機の方にも邪龍の元で解析をしていたベガから連絡が入る。

その声は切迫しているというより気が動転しているようだった。



『ポルタ殿!! 無事でありますか!?』



「いや、無事ではないがこっちはなんとかなる。 それより、そっちは大丈夫なのか!?魔鳥族の魔物たちが行っただろ?」



『それはフィーナ殿たちがなんとか結界を張って抑えてくれていたので大丈夫だったのでありますが、それより緊急事態であります!! あの例の塊が突如消滅したであります!!』



「消失? まさか魔鳥族に!?」



「いえ、魔鳥族の魔物たちも驚いた様子でありましたからおそらく違うであります! 眩い強い光を放って目を逸らしたらもうそこにはなくて………』



「とりあえずみんな無事ならそれでいい。 このことはマリーに報告は?」



『したであります!』



「わかった!。 とりあえずこっちが片付いたらそっちへ合流したいとこだが、こっちは動けそうもないベガたちはこっちに来れるか?」



『大丈夫であります! 運の良かったことにこちらの損害は軽微ですので、デバイスを頼りにしていけばいけるであります!!』



「そうか、じゃあ頼んだ。 あと、ありったけの救護用具も頼む」



『了解であります!!』



そこで通信が切れるとどうやらアドレアルフの方も部下からの報告を聞き終えたところであった。

向こうもどうやら邪龍が消えたことを伝えられたらしい。



「かっかっか!! その様子を見ると消したのはどうやらお前たちじゃないな? 仕方ない、ほんとは腹いせに村の1つや2つ襲ってやろうかと思ったが部が悪い俺らはここいらで引き返すとするぜ。 あばよ!」




そう言ってアドレアルフとその部下たちは元来た方向へ飛んでいってしまった。








「おい、いいのかよ? あんたはあれを倒しに来たんじゃないのか?」



俺はその様子をただ見つめるだけだったラッキーホーネットに問いかける。

すると彼はカラカラ笑いながら銃をしまい答える。



「んー? あは、僕はたまたま通りかかったとこだし、最初に言ったろ? 同胞を助けるためだって。 それにほら、運の悪いことに僕のマグナム(ハニー)も本調子じゃないし。 それに彼、多分本気じゃなかったよ?」



「…………そうか。 何はともあれ助けてくれたことに感謝する。 悪いな、わざわざ通りかかっただけなのに」



「はは、いいよいいよ。 そんな僕からサービスだ。 帝都で今最も売れているアイテムのプレゼントだ」



そう言って彼はカバンをゴソゴソと漁ったかと思うと何やら赤い液体の入った小瓶を4つ取り出す。

あんな小さなカバンによく入ったなと思ったが、どうやらあのカバンもマリーが森精種の死体や道具を入れるのに使ったあのマジックアイテムを思い出す。 おそらくあのカバンも同じような作りなのだろう。

それよりも、俺が聞きたかったのは彼のカバンから出て来た小瓶の方だ。



「これ魔力水か? しかも高級なやつじゃないか!」



魔力水とはその名の通り魔力を豊富に含んだ水で飲めばたちまち魔力が回復する。 もちろん生命エネルギーそのものである魔力が回復するのだから瀕死の人に飲ませればある程度のところまで回復することができるのだ。 そして、今渡された高級魔法水が入った小瓶、これは日本円にするなら一本5,6千円はするもので、普通の魔法水の約50倍の値段であり、宿なら2泊は泊まれるような代物だった。



「あはは、僕レベルになるとそこまで高いものじゃないんだけどねー。 それ、僕はそんな使わないし、先達の勇者からの餞別として遠慮なくお友達に使ってあげてよ」



そんな高級品を何のためらいもなく俺らに渡し、ラッキーホーネットは荷物を抱え、帰り始める。



「わかった。 何から何までありがとうな」



俺がそんな後ろ姿にそう声をかけると彼は朝焼けに照らされたまだ薄暗い森をこちらを振りかえらずに手だけをあげて言ってしまった。























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