32話 助っ人の名は幻想
結果としてその日は謎の塊がなんなのか分からずじまいであり詳しい分析等は夜通し行い、取れたデータはマリーに送ることが決められた。 驚いたことにこういうことに詳しい森精種の研究員でもトップの方のフィーナですらこの塊がなんなのかわからないというのだ。
ベガやフィーナたちが夜通しでデータ収集をしている中勇者4人とアルは交代で見張りをしていた。
「…………………………」
「どうしたの? さっきから取り憑かれたようにこの塊なんか見上げて」
篝火に照らされた赤黒い不気味で巨大な塊をぼーっと見上げるポルタ。 そんな彼にアミが暖かいインスタントのコーヒーを持ってきてくれた。
それをポルタは受け取り、アミの質問に答える。
「いや、とくになんでもねーよ。 ただ昔のこと思い出しちまってな。 なんかこの状況といい似てるんだ」
「ふーん。 昔って日本にいた時………ではないはね、保安官やってた時?」
「ああ。 俺が保安官辞めるきっかけになった話さ。 まぁでも、俺の考え過ぎだろ。 それにあの時はあの時でなんとか解決したから今回もどうにかなるさ」
「そう。 いつも辛気臭い顔のポルタがいつもより増してそうだったから気になったけどただ思い出に浸ってだだけなのね」
「いつも辛気臭いってなんだよ! 全く……………、っ!?」
アミの皮肉にツッコンだ時、ポルタは何かの気配に気づきこの塊の向こうに見える山の方に目を細める。
「どうしたの?」
「ポルタさん!! まずいですよ!!」
同じように何かの気配を察したのかフィーナが真っ青な顔で駆け寄ってきた
「っ!! わかってる! こんなタイミングに!! アミ、急いで他の2人起こしてきてくれないか? 後、村の人に急いでここから逃げるように村長さんに伝えてくれ!」
「わ、わかったわ!」
ポルタは怒鳴るようにアミに指示し、なんだ変わらないがアミはその指示に従い村で使わせてもらっているの宿舎のほうへかけて行った。
そして、駆け寄ってきたフィーナにポルタは尋ねる。
「後フィーナ、解析はどこまで終わってる?」
「まだ半分くらいです!」
「キリのいいとこまで終わらせてさっさとここから離れるぞ!! ベガ! 軍への連絡は!?」
「もうやってるであります!! しかし、なにせ人里離れた村のため救援が送るのに時間がかかると!!」
ベガも焦ったように機器を操作してポルタにそう大声で答える。
「本当にタイミングが悪い! クソ! まじで最近ツいてないっ!!」
半分に割れた月が山へ沈む頃、その次の明かりを背に真っ黒な大量の塊が禍々しい魔力を溢れさせながらこちらへ近づいて来るのがわかる。
「どうしたんです!? まさか、あの塊に何かあったんですか!」
「違う、魔物だ! しかもかなりの手練れがたくさん!!」
「きたきたきたきた!!!! いっちょやってやるよっ!!」
「たくさんってあの影になってる奴らってこと!? あんなの私たちでどうこうできるわけないじゃない!!!」
「なら、ここ村の避難が終わる前に逃げるか? 勝とうとは思わなくていい、せめて村の人たちが流れるだけの時間を稼ぐことに専念しろ! あと、なるべく村から離れたところで鉢合うように!!」
ポルタたちは少し離れた森のひらけた場所でこちらへ近づいて来る影に構える。
彼らの前に現れたのは背中に真っ黒な羽の生えた集団、人間たちからは魔鳥族と呼ばれる鳥人のような魔物だ。 数はおよそ2〜300といったところ圧倒的に不利なのは明白であった。
「かっかっか、なんだ、もう人間どもが嗅ぎつけてここにきていたのか。 ん? 人間の軍隊にしては数が少ないなぁ」
その中のおそらく隊長格であろう魔物が俺らを見てそう呟く。 そんな魔物たちに対してダルが威勢良く名乗り出る。
「私は、ユイ・シノザキ三等陸佐である!! 私たちはこの奇妙な塊を調査に来ただけだけど、もし村の人に危害を加えるなら容赦はしない!!」
「ご丁寧にどうも。 俺は魔鳥族族長アドレアルフだ。 なるほど『調査』、ね。 ということはお前らはそれがなんだかわかってないわけか。 なら、貴様らには用はない俺らはあの『塊』に用があるだからな!」
「『塊』に? お前らこれを知ってるのか?」
「知ってたとして教えると思うかぁ?」
どうやら魔物たちはこの謎の塊について何か知っているようで俺がそう聞き返すとアドレアルフはニタァっと悪意のある笑みを浮かべる。
「なら直接聞くまで!!」
それを見たダルは素早く両腰の銃を抜くと躊躇なくアドレアルフに向かって放った。 しかし、それはアドレアルフの俊敏な動きで全て避けられてしまう。しかもそれが先頭の合図となり大勢の魔鳥たちがこちらへ襲いかかって来た。
「ひっ! なんで戦闘回避できそうだったのにこうなっちゃうのよ!!」
アミは泣き言を言いながらも向かいくる。魔鳥たちをなんとかかわす。
「仕方ないだろ!? ダルがいきなしぶっ放しちまったんだし!! それにこれがなんだかは知らないが魔王軍が欲しがってるものなんてロクなもんじゃない! 渡しても後々面倒になるだけだ!」
「でも、これはき、きついですよ!」
アトスのいうことはもっともで、いくら俺たちが勇者で普通の人間よりは強いとはいえさすがに多数の、しかも決して弱くない魔物たちを相手は流石に無理があった。 俺たちは次第に追い込まれ、しまいには嬲り殺しの状態であった。 俺らは互いに背中合わせになり、魔鳥族の魔物たちの攻撃をなんとか交わしていた。 しかし、このままではジリ貧、全滅も時間の問題だった。
そんな時、マリーから貸し与えてられている腕時計型の通信機から聞き覚えのある、頼もしい声が聞こえてくる。
『ポルタの兄貴! アミの姉御! ダルの姉御! アトスの姉御! 待たせたな!! 俺がきたからにはもう安心していいぜ!!』
彼はどこにいるのだろうか。
その答えはすぐわかった。
月が完全に沈みもう1つの月が登り始めた月夜を轟音を立て、闇夜を切り裂き、航空灯を光らせて魔鳥族の魔物たちに突っ込んでいく機影が現れたのだ。
「助かったよっ! アルッ!! それとファントムかっくいいいっっっ!!!」
ボロボロにされていたダルは頼もしい助っ人を見るやキラキラと目を輝かせたいた。
完全に形勢は逆転した。
突如として現れた高速で飛び回る機体に魔鳥族は大混乱に陥り、戦闘機から放たれるマズルフラッシュにまるで虫のように次々と撃ち落とされていく。
「な、なんだ! あれは!! おい、え、遠距離からだ! 遠距離から魔法を放ってあいつを撃ち落とすんだぁぁぁぁ!!!」
魔鳥族の魔物たちは次々と魔法を放つが、アルはそれらを機体を翻し軽々と避けてみせる。
「なんというか、まるで映画でも見てる気分だわ」
アミがポツリと呟く。
その気持ちも分からなくもない。
戦闘機という圧倒的な戦力で魔鳥族の魔物たちを蹴散らしていたがそれも思い通りにはいかなかった。
「かっかっか! 人間も面白いものを考える! だが、空は俺の縄張りだ!!」
大混乱に陥る他の魔鳥族たちとは違い、彼らの長、アドレアルフはたった一匹だけ戦闘機の後ろにピタリと張り付き飛び回り、ドッグファイトを繰り広げる。
しかし、月と星明かりだけの空を飛び回っていた両者の決着はそう長くは続かなかった。
「もらった!!」
一瞬の隙をつきアドレアルフの放った雷撃魔法がアルの操縦する機体の左翼へ直撃する。
「くっ、くそぉぉぉぉ!!!!」
そのままアルの操縦する機体は左翼から真っ赤な炎と黒煙をあげ、コントロールを失い森の中に落ち、大爆発する。
「おい! アルっ!! 聞こえるか!? おい!!!」
『ザザザザザッッッッッッッ!!!!!!』
俺は必死に通信機に向かって叫ぶが、応答はない。
「そ、そんな………」
叫ぶ俺以外の3人が絶句する中、俺たちの目の前にアドレアルフが降り立つ。
「あれはお前たちの仲間だったのかぁ? かっかっか! 楽しませてもらったぜ!! さて、次はお前たちだけか」
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