30話 村への移動手段
「さて、休養は終わりだ。 今日からは再び私のために働いてもらうぞ?」
イラクニャーダとの戦いから1週間開けて俺たちは再びメインルームへと集められた。 目的はすでに聞いていた帝国の北に位置する村に現れた謎の生物についてだろう。 俺はあんな死闘を経てまた働かなきゃならなきゃいけないのかと憂鬱になる。
「私ふと思ったんだけどマリーって私たちの研究してるって割にはどちらかというと私たちを小間使いのように手足として扱ってない?」
マリーが本題を話す前になにやら前置きをベラベラと喋りはじめたところでアミが小声で俺たちに耳打ちをする。
「まぁ実際のところそういう目的だったんだろうな。 アトスはこういうのもともと仕事だったんだから得意だろ?」
俺はアミの疑問にそう答え、アトスに振る。
「いや、僕そもそもコックですし。 それに主人様のお世話をする仕事でも骸シリーズや伝説の魔獣、魔王軍幹部の側近と戦うなんてないですよ」
と困ったような顔で首を横に振る。
確かにあんな化け物たちと戦うことがコックや執事の仕事なら魔王を倒すのも彼らがやればいいだろう。
マリーはそんな俺たちへ冷えた目線を送りつつゴホンっと1つ咳払いをする
「…………君たち、そろそろ詳しい内容に入っていいかね?」
「あはは、ごめんなさい」
「さて、今回の目的は休みの間にも話したが帝国領土内のとある村に出没する謎の生物の調査だ」
「なぞの生物かー。 でかいのかな!? 強いのかな!?」
話を聞かずともやる気のない俺やアミ、アトスとは対照的にまるで欲しいおもちゃでも買ってもらったかのように目をキラキラさせながらダルがマリーの話に食いつく。
「何に興奮してんだ、アホ。 もし仮に強くてでかかったらそれを倒すの俺らなんだぞ?」
「それでマリー、その謎の生物とやらはどんなやつなんですか?」
「わからん」
アトスの質問にマリーは淡白に答える。
自分から協力しろと言っといてなんとも無責任である。
「ちょっと! 何の情報もないことはないでしょ!? その村の人の目撃証言とか!」
「たしかにアミの言う通り情報なしじゃさすがにキツイぞ? なんか見た目でもいいからそういう情報ないのかよ」
「村の住民の情報はあるにはあるが聞くか?」
「とりあえずないよりかはましだ」
するとマリーは俺らのクレームに渋々答える。
「問題の生物は硬くもなく柔らかくもない大きな塊らしい。 ある日突然現れて動かずただそこにずっとそこに放置されたようにいるだけらしいな。 足があるわけでもなければ翼もなく、ましてや口も目もない、文字通りの謎生物だ」
「なにそれ? それってただの不法投棄かなんかじゃないの?」
「いや、村人の1人がな、 みんなが気味悪がるなか果敢にも近くに行って調べたらしい。 そしたらその大きな塊は脈を打っていたとのことだ。 だから、帝国から私たちに調査依頼が来たんだよ」
つまりは帝国はやることがたくさんあるので領土の端っこにある村の面倒ごとは任せたというところだろう。
全くもってついてない。
「そんなの帝国がやればいいじゃん! つまんなーい!!」
お目当の強敵じゃないとわかるや否やダルは綺麗に手のひらを返しマリーにブーブー文句を言い、
「帝国がって………ダル、一応軍人じゃなかったんですか?」
そんなダルにアトスが呆れながらつっこむ。
とはいえ、そのツッコんだアトス自身もやはり面倒ごとは嫌なのかダルのいうこと否定はしなかった。
そんな俺らに対し、マリーは俺らに同意を求めることなく話を先に進める。
どうやら俺らに拒否権はないみたいだな……
「帝国は今別件で忙しいらしいな。 だから、軍も保安隊も動けないらしい。 だから私たちに、だそうだ。本来なら適当にアルタイルだけを行かせるんだけどな。 一応帝国がなんとかしたという体裁にして欲しいらしい。 だから君たちにはこれを着て行ってもらう」
そう言ってマリーはベガになにやら衣服を持って来させる。
それは皆、見覚えのあるものだった。
「軍服ですか?」
最初に口を開いたのはアトスだった。
俺たちに配られたのは帝国陸軍の軍服であった。
「そうだ。 君たちにはこれを着てもらってダルタニアンを隊長とする部隊という形で行ってもらう」
「私が隊長!? やったぁっ!!」
隊長と聞くや否やダルの下がっていたテンションは嘘のように再びマックスになる。
「でも、部隊っていうのには人数少なくないか?」
「ああ、それにはフィーナたちもついていく。 あくまで生物の調査だからな」
「森精種まで小間使いのように……でもあれだな、フィーナはともかく、よくサラまで了承したな」
「いや? サラはいかないそうだ」
「そこは流石のマリーでも落とせないのね…」
次の朝、俺たち4人とフィーナたちは各々準備を整えエントランスに集まった。 ちなみにフィーナたち森精種の研究員は全員が来るわけではなく、フィーナと女性研究員が2人だけで、ゴーシュを含めたのなら半分はマリーの研究の手伝いをやらされるらしい。
ダルを除く3人は全くといっていいほど気分が乗らずただただ憂鬱なのだが、隊長であるダルは元気100倍、それになぜかフィーナたちもワクワクしているという雰囲気であった。
その理由をフィーナに聞いてみると、
「だって、『謎』の生物ですよ!? はぁぁぁぁっ〜! どんな生き物なんですかね!? 今からでもワクワクしてきます!!」
だそうだ。
彼女たちは独自の研究機材を各々担ぎ、謎の生物の正体についてあれこれ予想しあっている。 楽しそうで羨ましい限りだ。
「準備はできたようだな」
「マリーの方も準備できました!? さぁさぁ、ちゃちゃっと転移魔法で私たちをその村へと送っちゃってください!」
俺らの様子を見に来たマリーにダルは急かすように言うのだが、そんなダルの要求にマリーは首を傾げる
「ん? 転移魔法の準備なんてしてないぞ? 村には君たち自身で行ってもらうからなぁ」
「「「「はぁ?」」」」
マリーの口から出た言葉に思わず4人でハモり、 まるで鳩が豆鉄砲を食ったような滑稽な顔でマリーの方を見る。 マリーの発言には先ほどまで遠足前夜の小学生のようにあれこれ話し合っていたフィーナたちも固まる。
「ちょ! 冗談でしょ!? 帝国の北の外れの村なんてここから乗り合いの馬車使っても2週間はかかるわよ!?」
「それくらい知ってるさ。 だが、今はあいにく転移魔法は使えない理由がある」
「帝国との取り引き…というやつですか?」
「いや、私のナナの研究に使う機材に相当の魔力を使うから君たちを飛ばす転移魔法分の魔力はない」
「そんなの俺らを転移魔法で飛ばした後でいいだろ!?」
「馬鹿を言うな! 私は早くこっちの研究をしたいんだ! ちなみにもう魔法道具を動かし始めてるから万が一にも私の気が変わってももう転移魔法は使えないぞ♡」
「なにその言い方! 腹がたつ!!」
「そんなことを言うと思ってな。 君たちには特別に私の試作品を貸してやろう。 ついてくるといい」
屋敷の隣にある大きな倉庫にはマリーの様々な研究成果の産物や魔法道具が大量にしまわれていることはすでにこの屋敷に来た時にある程度説明は受けていた。
だが、実際にそこに立ち入るのは初めてで、いろいろなものが所狭しとあることに圧巻する。
しかし、それよりも驚いたのが目の前の黒く輝く鉄の塊であった。
全員が言葉を失う中、ダル1人だけが声を上げる。
「ええっ!!! 『ファントム』じゃないですか!!」
「ふぁん……なんによ、それ」
「ファントムですよ!! 超有名じゃないですか!!」
「名前はともかくとして、これ、戦闘機だよな? なんでこんなもんマリーが持ってるんだ?」
大きな威圧的な機体と航空力学的なシャープな出で立ち、そしてサイドには物々しいミサイル。 それは異世界である地球から来たことのある人間なら絶対見覚えのある乗り物であった。 ダルはその機体の名前まで言っていたが、要するに戦闘機というやつだ。
「ふふふ、実はな帝国の空軍で近々実践配備されようとしているものをちょっとばかし資料を盗み見て、作って見たのだ。 安心しろ? ちゃんと動くぞ?」
マリーは誇らしげに自慢する。
全くもってやることなすことぶっ飛んでる魔女である。
「帝国はこんなものまで配備しようとしてたんですね……。 でも、なんでこんなに地球の戦闘機……飛行機に似ているものができるんでしょう? 偶然ですかね?」
アトスは当然のように思い浮かんだ疑問をマリーにぶつける。
「それはだな、 帝国の武器開発部の人間にも君たちと同じ地球の人間がいるからだよ。 その異世界人から情報を得て、協力して開発してるからね」
「にしてもこんなのどうするのよ。 誰も操縦できないわよ?」
アトスに得意げに説明するマリーに対しアミが呆れたように聞く。
するとマリーは戦闘機の操縦席の方を指差す。
そこにはすでに誰かが出発の準備をしている最中であった。
「ああ、それはアルタイルとベガにやらせるから問題ない」
「任せとけ!」
「任せるであります!!」
真っ白い歯を見せキラキラとした笑顔でそう答えるアルタイルと笑顔でこっちに手を振るベガ。
(ふ、不安だ………)
その2人の笑顔を見て全員同じ感想が頭に浮かんだ。
何はともあれ準備は完了し、ダルを隊長とするユイ小隊|(ダルが命名した)は問題の生物が現れた村に向けて出発するのであった。
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