3話 助けてくれたのは
「いってぇ……」
どうやら痛いと思えると言うことはあの危機を回避できたということだ。
俺は辺りを見渡す。 無機質なリノリウムの床と真っ白な蛍光灯の光が照らす部屋。 それだけではない部屋には何に使うのかわからない機械がたくさん並んでいる。 それに同じように床から立ち上がろうとしている3人と以前気絶したままのメイドの子。どうやら全員無事転移魔法でこの場所に飛ばされたようだ。
「いやぁ、ようこそ。 君たち」
そこにいたのは白衣姿の女性。
髪はボサボサで死人のように生気のない目と肌なんとも女性らしさは皆無である。
だが、それはそれでスタイルがいいことからちゃんとケアすれば美人なんだろうなという印象を受ける。
「助かったよ。 ここはどこだ?」
俺はとりあえずあの状況から助けてくれた彼女に礼を言い、尋ねる。
彼女は軍の関係者ではないと言っていたが、この部屋から考えるにただの一般人とも思えない。
「ここは私の研究施設さ。 まず君たちにはうちのベガを救ってくれたこと感謝するよ」
「研究施設? あなたは一体?」
今度は回復魔法を使うリボンの子が聞いた。
「私はマリー・レイ。 その界隈じゃそこそこ有名なんだけどね。 職業は魔女、もとい研究者と言ったところかね」
続けてマリーと名乗った女性はこちらの質問に隠す素ぶりもなく答えてくれる。だが、その名を聞いて驚く。
「マリー・レイだと……? あの『天災の魔女』か!?」
「『天災の魔女』てそんな有名なの?」
軍服の女の子が初めて聞いたというようにメガネの女の子に尋ねた。
「はい、『天災の魔女』とはその昔、なんの前触れもなく神出鬼没に戦場に現れ敵味方関係なく虐殺の限りを尽くし全員殺すのかと思えば突然姿を消すまさに『天災』そのものみたいな魔女です。 今は確か生死不明扱いになっているはずですが、それでもA級指名手配人物に指定されている重要人物ですよね?」
「へっ!? じゃあ超悪者じゃない!!」
「お前な………。 帝国軍所属なら重要参考人の名前くらい覚えておけよ。 だからちんちくりんなんじゃね?」
「おい! 私の頭がスカスカなのと身長が小さいことは関係ないでしょ!!」
自分を馬鹿にされた軍服の女の子がまた突っかかってる。
「はっはっはっ! 元気そうで何よりだ。 その通り私はそこのメガネの女男が言う『天災の魔女』その人さ。 まぁ、それも昔の話で今は丸くなってるよ。若気の至りというやつさ」
俺と軍服の女の子が『天災の魔女』を目の前に緊張感もなくあーだこーだやっているまた別サイドでは、
「ていうか、あなた男だったの?」
「えへへ、よく間違えられます。 僕そんな女の子っぽいですかね?」
リボンの女の子がメガネの女の子が男だった事実に驚愕している。
つーか、俺もずっと女の子だと思ってた……。
「………元気すぎというか自由すぎの間違いか。 と言うよりも私に対する一般人の畏怖とかがなくなって来たのかな。 あれ、私はひょっとして世間じゃもう大物じゃないのか?」
そんな俺たちのやりとりを見てマリーはボソッとそう呟いた。
「とりあえず、改めて助けてもらったことは礼を言う。 それじゃあ俺はここらで帰らせてもらうよ」
一通り場が収まり雑談もほどほどに俺はそう切り出す。
「待ちたまえ、それなんだがな。 悪いが君たちはここの施設から出すわけにはいかない」
だが、マリーはそう俺らに告げた。
「なに?」
その言葉に俺は眉をひそめる。
俺以外じゃない、他の3人も同様にマリーに対しての警戒を強める。
「どういうことよ! 私は早く戻って避難している孤児院の子たちのところへ行かないといけないの!!」
「そうです、そうです! 私も軍に戻らないと!」
「僕も同じです。 主人さまに迷惑をかけるわけにはいきませんし」
俺以外の3人も同様に反発する。
当たり前の話だが、戦争から生き残ったからといってそこで終わりじゃない。 その後の生活もあるのだ。だから、こんなところでいつまでものんびりしているわけには行かないのだ。
「さっき、君が言ったように私はその界隈では超有名人だ。 ここを知られると結構まずい。 私のこの世界の唯一楽しみがなくなってしまうからな」
確かに自分が追われてる身なら情報を漏らすような危険のあるやつらを自由にはさせないだろう。
理由はわかったが納得するわけではない。
「それは俺らがここにいることを口外しないことを約束すればいいんじゃないか? どうしても信用ならないというなら魔術式の契約でもいいぜ」
「まぁまて、君達をここから出さないといってるのはそれだけが理由じゃない。 ここからは私の趣味の話になるんだが、私はこの世界に来た『勇者』ついて研究していてな。 それに協力してもらう。というか、居場所がうんぬんとかよりもむしろこっちの方が本音だ」
俺がそう切り出すとマリーはそう答える。
なるほど、せっかく捕まえたチャンスをまざまざ逃したくないというところか。
「そんな!!」
「命が助かった代価だ。 残念だったな、助けたのが聖人君子じゃなくて悪い魔女で」
マリーはそういって怪しく笑う。
「僕たちはあなたの実験台になれということですか?」
「まぁ、大方その通りだ。 とはいえ実験台といっても拷問器具にかけて解剖とかそういうのじゃなくてあくまで『勇者』の生態調査だ。 君たちの身の安全と生活は保障しよう」
「話をまとめると命を助けた代わりに俺たちをマリーの実験の観察対象として軟禁するということか?」
「君たちは世間からすでに死亡扱い、なんの問題もないとは思うがね? それにどうしてもここから抜け出したいというなら私を倒していけばいい。 勝負ならいつでも歓迎するよ」
「「「…………」」」
マリーの挑発に1人を除いて沈黙する。
相手は伝説の魔女だ。 まともにやったところで勝ち目がない。
だが、『彼女』は違った。
「やってやろうじゃない!! ねぇ!? みんな……あれ?」
「さすがに助かった命をむざむざ捨てるのはちょっとな……」
「僕は最悪、主人さまに無事であることが事情が知らせられるのであれば」
「私も最悪、孤児院の子たちが無事であることがわかれば」
軍服の女の子は勇んでみんなを鼓舞するが俺を含めてあまりいい反応が返ってこない。
「ふむ。 その辺はうまい具合にしておこう。 とりあえず誓約書にサインしてもらえるか?」
マリーはメガネの女の……じゃなくて、男とリボンの女の子の条件をのんだ。
まぁ彼らも自分の命を捨ててまではちょっと、というとこか。
安否さえ知らせておけば最悪助けも来るだろうし、マリーもマリーで俺らを拘束する期間は決めていない。
長く拘束されるかもしれないがもしかしたら拘束時間も短いかもしれない。
マリーが手渡して来た誓約書を見ると軟禁されるというものの、実験への協力の代わりにこの施設に住み、近くの町への行き来は自由。 三食風呂付で、各個人に一つづつ部屋を用意する、しかも働きに応じて給金が出るというと想像していたよりもはるかに高待遇なものだった。 というか、今の俺の生活よりいい。
最後にマリーの命令は絶対とあるが、身の安全は保障するといってるし、まぁこれは許容範囲だろう。
「そこの不幸そうなのは安否うんぬんはいいのか?」
「不幸そうなのって………。 俺はは別にどこに所属しているとかないからな。 別に死亡扱いでも構わない」
そういってサインした誓約書に拇印を押し、マリーに渡す。
他の2人もどうやら条件を飲むらしい。
2人からしても悪い条件じゃなかったのだろう。
「なんですか、みなさん!! 見損ないましたよ!! 私1人でもやってやります!!」
そういって二丁の銃を抜きやる気満々の軍服姿の女の子。
結果は本人の名誉のため伏せておこう。
「さぁこれで契約成立だ。 さて、それじゃあ疲れも溜まってるだろう、君たちの部屋へ案内させよう。 ベガは……、気絶してるし、アルタイルにでも案内させるか」
そういってマリーはどこかに連絡を取り始めた。
話がどんどん進んでしまっているが俺たちを一応労うつもりはあるみたいだ。
「ねぇ、気になったんだけどベガとか、アルタイルっていう……」
「ええ、『地球』から観測される星の名前ですね。 この世界でも同じなんでしょうか?」
「な訳ないだろ。 そもそも俺らが異世界の人間と喋れるのはそもそもこちらの世界に来たときに強化された恩恵だし、そもそも文化も歴史も違うんだから」
「というかそもそもさっき名前をつけたとかなんとか言ってたけどまるで親みたいな言い方ね。 さすがにマリー、あの2人産んだような歳には見えないんだけど?」
俺らがコソコソ話しているといつの間にか連絡を取り終えたマリーが話に割って入って来た。
そして今の俺らの疑問に一つ一つ答えてくれる。
「産みの親というなら間違いはないさ。 なぜなら彼らは『人造人間』だからね。それに『織姫』、『彦星』は君たちの世界というか星の、ある物語を参考につけたものだよ。 私は『勇者』の研究もそうだけど君たちが元いた世界の研究もしてるんだ」
「俺たちが別の世界から来たということを知ってるのか!?」
俺は驚いたように声を上げる。
この世界には他の世界から来たといったら間違いなく信じてもらえないものなのだが、マリーはあっさりと俺らが違う世界から来たことを認めた。
それに違う世界、厳密には違う星から来ていることについても。
でも、俺の驚きに対しそんなのは彼女にとっては常識だったのか特に反応も示さず、話を進めていく。
「知っているというよりそう結論づけたというべきかな。そもそも、そんな能力の高い人間がゴロゴロといてたまるか。 そうだ、君たちも私の実験動ぶ……ではなかった、協力者になったのだからコードネームを与えよう」
「今、実験動物って言いかけたよね!?」
「さて、どうするか………。 ふむ、明日までには考えておこう。 それよりアルタイルのやつ遅いな」
さっきまでのちょっと突入したシリアスモードは何処へやら、マリーはリボンの子をスルーして考え込む。
そんなやりとりをしていると部屋の扉がバンッと豪快に開かれる。
「遅れちまったぜ! アルタイル、ただいま参上!!!」
この部屋に突入してきたアルタイルと名乗る男は真っ赤なマントに金色に輝く鎧。
まるでヒーローごっこでもやってるのか? と思わせる格好の暑苦しそうな雰囲気のやつだった。
彼が突入して来た瞬間、めんどくさそうなのが来たという顔になったのは俺だけじゃないだろう。
「ようやく来たか馬鹿者。 それじゃあ彼らをさっき伝えた部屋に案内してくれ。 ベガはこの調子だからしばらく彼らのことは頼んだぞ」
「了解だぜ!! マスター!!」
マリーはアルタイルにそういうと彼は彼女に敬礼して軍服の女の子を担ぎ、俺らを連れていく。
こうして俺たちのマリーの元での生活が始まったのであった。
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