29話 趣味の時間
「ハァァァァっ!!!!!」
「ふむ。 出力をもうちょっと出せるといいんだが世の中うまくはいかないな」
風を裂くような音を響かせ、剣の周りにつむじ風を作り出す『聖剣 風切』を振るいアルタイルとかち合うポルタ。 しかし、その『聖剣』やポルタにはなにやら細かい機材がたくさん取り付けられており、普通の鍛錬ではないことを物語っており、その様子を見ながらなにやら色々とマリーは書き込んだりしている。
「2人ともご苦労だったね。 もういいよ。 まだまだ私の作った『聖剣』にも改良の余地がありそうだね。 どれ、今日とったデータはここにまとめてっと」
マリーはそう2人にいって手元の資料や先ほどの模擬戦で得られたデータをまとめ始める。
ポルタとアルタイルの2人はは今、マリーの研究の一環である『聖剣』の量産の実験に協力していたのだった。 そもそも『聖剣』は唯一のもので、量産は不可能というのが常識なのだが、『天災の魔女』もとい『天才の魔女』マリーは専門にしている『勇者』の研究を元に『聖剣もどき』を作り出すことに成功していたのだった。 現在ポルタが手にしている『風切』もオリジナルのものではなくマリーが元の剣を参考に作り出したものであった。 もちろん、贋作であるがゆえに元の剣と同じような力を発揮することはできずどうしてもオリジナルより劣ってしまう。 それを解決するために今日の実験をマリーは行ったわけなのだが、様子からするにあまりいい結果が得られなかったというようである。
「いや、今のこれでも十分だと思うぞ? それにあまり強すぎると制御も難しくなるし」
ポルタは試験の終わりを見計らって部屋へきたベガから汗拭き用のタオルを受け取り剣をしまいながらマリーにいう。
「それもそうだが、私としては『聖剣』の100%の復元を目指してるわけでそもそも持ち主が扱えるかどうかまでは考慮………あ、」
そんなポルタに答えつつ何か思いついたような表情になるマリー。
その様子にポルタは嫌な予感しかしない。
「くくく、そうか、その手もあったか」
「ぜってーかかわりたくねー」
「まぁ近々また新たな『風切』を作るから楽しみにしていてくれ。 ところでポルトス、疲れてはいないか?」
そんなドン引きするポルタにマリーはそう声をかける。 彼女が非検体である彼らを労わるなどめったにないことであり珍しくそう言い始めた時には大抵何か裏があるものだ。
「いや、疲れてるというのはまぁそうだが怪しそうな笑いの後そんな言葉をかけられても疑いの目しか向けられん」
ポルタはマリーにそう言い、彼女が何か言い出す前にそれを断る。
「いや、そんな疑うようなことじゃない、少しねぎらってやろうと思ってな? こないだダルタニアンが試したカプセルあっただろ? あれの改良に成功してな。 よかったら試していかないか?」
「断る!!」
「まぁまぁ、そう言わずに………、お? おい、森精種の小娘、鍛錬帰りか?」
ポルタに対ししつこく勧めるマリー。
最初は実験動物として扱わないと言っていたのにこの頃そのような扱いが増えてきており、大抵騙されやすいダルがその標的となる。 それを見てきているポルタとしては乗り気になるどころか絶対に拒否しないとひどい目にあわされるのは明確であった。
そんな彼らの目におそらく訓練室でのトレーニングが終わったばかりのサラが通りかかった。
「そうだが、それがなんだというのだ。 貴様には関係ないだろ」
「そう邪険にするな。 ちょっと疲れが回復する機械を作ったんだが試していかないか?」
「ふん。 貴様の怪しげなものを誰が使うか」
サラを誘おうとしたマリーだが、サラはそう言って一瞥すると彼らの目の前を後にしようとする。
だが、マリーも引かない。
過ぎ去ろうとする彼女に追撃を仕掛ける。
「森精種といえど疲れは溜まる。 そんな疲れた身体で本来の仕事が本当にできるのかね? なに、『人間種』が作ったものが嫌というなら問題ない。 私の技術はいろいろな種族から知識を得て作り出したものだ。 すでに『人間種』のものではない。 それにカプセルに入っている間、お前の好きな菓子と何かリクエストした飲み物をベガに持っていかせよう」
「仕方ない。 今回だけだぞ」
マリーの言葉に踵を返し部屋に入ってくるサラ。
2人はそのまま以前ダルが犠牲になった例のカプセルへ向かって行く。
取り残されたポルタはそんな彼女たちの様子を見て
「あいつ、前々から思ってたがちょろすぎじゃないか?」
「ポルタ殿、言っていいことと悪いことがありますよ………。 サラ殿はとても純粋なのであります」
とポルタのつぶやきになぜかベガがフォローを入れるのであった。
「はいっ!はいっ!はいっ!はいっ! うぉー、もう一回っ!!」
モニターの前で一際熱の入るダル。
そんな彼女をナナは指差して近くにいたアトスに聞く。
「ねぇ、ダルはなにやってるの?」
「あれはね、『アイドル』ていう人の応援ですよ?」
現在ダルはメインルームの大きなモニターだ自信がハマっているアイドルグループの生ライブの映像を見て1人盛り上がっていたのであった。
この世界もとい星にも映像を伝える技術というものは存在しており、それこそ日本でいうテレビのようにいろいろなものを庶民向けに放送している。 とはいえ、それらの機器を揃えるのには多額の費用とそれらをみるために多くの魔力を消費するため、実際には個人の家庭ではなく娯楽施設や教会など人が多く集まるところに点々と設置されているという程度であった。 それでも庶民の娯楽の1つには変わりはなく今映像に映っているアイドルグールプ『ぶれいぶ☆はーと』はこの世界に来た勇者の1人がプロデュースし、デビューしてから瞬く間に帝国中に彼女たちの名を轟かせるまでに成長したのだった。
そんな彼女たちの大ファンの1人であるダルはマリーからメインルームのモニターでテレビが観れると聞き、もはや2度と観れないであろうと思っていた彼女たちのライブに全身全霊をかけて視聴しているところであった。
「ねぇ、アトス。 私もアイドルになりたい」
「ナナちゃんがアイドルに? ふふ、大きくなったらきっとなれますよ」
そんな微笑ましいやりとりの傍ら、
「いいですか? アイドルとはそもそもあなた達がもともといた『チキュウ』という世界の『ニッポン』という国の素晴らしい文化で…………」
と、メガネをかけたゴーシュと呼ばれる森精種の男性が他の森精種の助かった研究者相手に熱弁をふるっていた。 彼らは研究熱心なのはいいのだが、熱意を向ける方向が間違っているような気がする。
「勉強になりますよ、ゴーシュ! やはり人間種、特に『勇者』は奥深いです!」
「いや、ダルもゴーシュも勇者の中では特殊な部類だから」
ゴーシュの熱弁に感激するフィーナにアミは冷静に突っ込んだ。
ご愛読ありがとうございます!
一章『聖輪編』終了です!
二章以降はなるべく早くお届けできるように頑張っていきたいと思います!
それでは!
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