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悪運の星の一般人《エキストラ》  作者: 島草 千絵
壱章
28/47

28話 激戦の後の休日








よく晴れた昼下がりの街に魔女の館に住まうマリーを除いた女性陣の姿がそこにはあった。



「んーーーっっ! やっぱ1時間並んだ甲斐はありました!」



フィーナは脚をまるで子供のようなばたつかせて甘くふわりとしたでとろけるなめらかな食感に心底満足そうな笑顔を浮かべる。 彼女の目の前にはすでに空いた皿が3枚も重ねられており、彼女が『これ』をどれだけ楽しみにしてきたのか物語っている。



「フィーナが喜んでくれて何よりだわ。 でもなんでこんな人間のお店フィーナが知ってるの?」



アミはこの店自慢の幾重にも香草の匂いが重なったハーブティーを飲みながらフィーナに聞く。

そもそもの話、森精種と人間種では何回も話すがお世辞にも仲がよろしいとは言えない。 だからお互いを罵り合うなど珍しいことではなく、食事に関しても『下劣な下等生物のエサ』だの、『味覚音痴にちょうどいい味気ないメシ』だの、言いたい放題なのだ。

だから、いくら人間種に興味があるフィーナといえどそんな人間種の料理を食べるなどアマゾンの奥地で現地の部族に謎の料理を振舞われ、それを食べるくらい勇気のいることであっただろう。

そんな彼女たち魔女の館に住まわされている森精種の意識を変えた人物がいた。

それがアトスとベガである。



「ベガちゃんが教えてくれたんです。 人間の世界の甘味にはただただ敬服するばかりです!!」



「喜んでいただいて光栄の至りであります! しかし、私もここのパンケーキだけは再現できないであります。 だから、今日もその奥義を盗みにきたのでありますが何度食べてもこのフワフワ感は再現できそうにないであります……」



そのフィーナにお店を教えた張本人であるベガはパンケーキに舌鼓をうちつつもあれこれ推測したりしているのだが、そんなに簡単に再現されてしまったらここのお店の店主も敵わないだろう。

そんなベガに同じく皿を何枚も重ね方をもごもごさせながらダルがあれこれ考えてるベガに言う。



「そんなすぐに再現できたらダメっしょ。 私はベガちゃんのパンケーキでも十分美味しいと思うけど?」



「ダル、あなた、もうちょっと女らしくみたいなのはないの? すでにフードファイターのごとくお皿が積み重なってるじゃない。 一応、花も羨む女子会なのよ?」



「いいじゃない。 たくさん食べる女の子も好きっていう人もいるでしょ?」



積み重なった皿を見て呆れるアミにダルは開き直ったように言い返す。



「あの、女子会って、僕、男なんですけど……」



女子会という言葉に反応したアトスが遠慮気味に2人の言葉を訂正しようとするのだが、



「アトス! 今度はこれ食べたい!!」



「あ、ナナちゃん、うん、わかったよ。 はぁ」



ナナにがメニューを持って引っ張ってきたので結局その意見は2人に届くことかなわず、アトスは大きなため息をつく。

そんなアトスとは別に自分の中の何かと必死に戦う少女が1人。



「くっ! 私がこのような下賤な食べ物の誘惑に負けるとはっ!」



「サラさんも強情だねー。 いい加減素直になったらどうですかぁー?」



そんなサラの様子を見ていたダルが欲望に抗うサラを煽る。



「いくら身を染められるとしても心まで染められると思うな!」



「ほぉう。 じゃあこれは私の胃袋の中へ没収だ!!」



そう言って変な意地をはるサラの目の前のパンケーキにフォークを突き刺し自分の口へ放り込む。



「ああっ!! 貴様、なんてことを!!」



「何だ、これが欲しかったのぉ? じゃあお店の人に頼んだらいいんじゃない?」



「そんな、人間種などにそんなこと…………」



「じゃあもうパンケーキか食べれないよぉ? あーあ、滅多に食べらないのになー、ここのパンケーキ」



「くっ! 卑怯な!!」



「ほらほら、店員さんがこっちにきたよ?」



騒ぐ2人に気付いたのか何なのかウェイターの女性がこちらの方へ来る。



「ご注文ですか? どうぞー」



「す、すまない。 こ、このと、特性卵とミルクのふ、ふんわり、トロトロ……」



サラはウェイターに対し消え入るようなか細い声で注文をするのだが、



「声が小さくて店員さん聞こえないって!」



とダルがさらに煽ると火が出るかのように真っ赤になった顔をあげ声を張り上げてウェイターの女性に叫ぶ。



「ふんわりトロトロパンケーキを1つ!!!」



「はい、かしこまりましたぁー」



ウェイターの女性は特に気にすることもなく笑顔で了解すると厨房の方へはけていってしまう。



「ふはははははは、森精種の精鋭部隊の隊長といえど自分の欲望には逆らえなかったみたいだねぇ」



「くぅそぉぉぉぉ!!!!」



「なにやってるのよ、あなたたち………」





















マリーがメインルームに入るとポルトスとアルタイルがなにやら真剣な表情で向かい合っていた。

彼らの手元を見ると、どうやら2人はボードゲームに熱中しているらしい。




「お前はいかなくても良かったのか?」



現在女子組が街へ出かけている中、居残っているポルトスにマリーは声をかける。



「あんな女子たちの中に入っていけるか。 それにいくらうまいからって何時間もパンケーキを待てねーよっと、これでどうだ?」



マリーの方を振り向かずポルトスはボードの駒を前に進める。

現在2人がやっているゲームは日本で言うところの将棋とTCGが合わさったようなもので、この世界においてはみんなが知ってるようなポプュラーなゲームでありながら、同時に深い戦略性も味わえる人気のゲームだ。



「甘いぜ、ポルタの兄貴。 ここで魔法カード発動!!『一騎当千』!!!」



「うわ、アル、お前そんなネタカード入れてたのかよ!? ちょっ、タンマ!!」



「戦場にタンマなんて言葉はないぜ! これでチェックメイト!!」



「この展開狙ってたな? やれやれ。 そういえばマリーはいかなくて良かったのかよ? 甘いもの嫌いじゃないよな?」



ポルトスはそう言うと渋々自分のポッケから銀貨2枚をだし、アルタイルに投げ渡す。 どうやら2人は賭けをしていたらしい。

掛け金を受け取ったアルタイルはホクホク顔で再びゲームの準備をしているところ手を余したポルトスはさっきの質問を逆にマリーに聞く。



「ああ、むしろ好物の部類に入る。 私が誘いを断ったのは今回の件の資料もまとめ終わってなかったし、それにまた厄介ごとが増えたからな」



「その増えた厄介ごとというのはもしかしなくても俺たちが働くはめになるのか?」



「当然だろ? 何を今更のようにそんなこと確認してるのかね」



ポルトスがため息をつきながら聞くとマリーは悪びれもなく当たり前のように平然と言ってのける。



「で? マスター、その厄介ごととはなんなんです?」



そんなマリーに呆れてものも言えないポルトスに変わりアルタイルがマリーに聞く。



「それはな、最近帝国の北にある農村で謎の生物が暴れているとの噂があってな? それの調査と討伐だ」



「なんでそんなどこぞの農村の化け物騒動に俺たちが? なんかマリーとの研究に関わるのか?」



「それは無きにしも非ずだね。 遺跡の件ではちょっと帝国に借りができたんだ。 だから、その清算ということでその仕事を引き受けたのだよ」



「帝国に?」



「ああ、ほら、遺跡の外に山のようになっていた魔物の死骸があっただろ? 実はあれはあの辺りの異変に気付いて駆けつけた帝国軍の奴らに手伝ってもらったんだよ。 それで遺跡の件に関しては見逃してもらう代わりに今回の約束と君たちが途中まで集めた森精種の遺体を渡したんだよ」



「確かマリーは帝国に追われてなかったか!? なんで帝国軍の奴らと仲良くしてんだよっ!?」



ここまで話半分に聞いていたポルトスは驚いたように声を上げる。

そもそもマリーは重要な指名手配犯として帝国から追われてる身であるはずである。 なのにも関わらず帝国軍といつのまにそんな密約を交わしていたのか。

そんな驚くポルトスの反応をニヤニヤと笑うマリー。



「まぁ帝国も一枚岩じゃないからね。 私に味方してくれる勢力もある。 それがたまたま今回駆けつけた部隊の隊長だったというわけさ。 ちなみにその隊長とやらはダルタニアンの元上司だ。 だから、彼女を預かって立派に育てると言ったら喜んで許してくれたよ」



「本人いないとこでそんなことを………」



「ともかく、そういうことで疲れもあるだろうから来週あたりから調査を始めるからその辺肝に命じて置くように」



「へいへい」



また新たな仕事を押し付けられたポルトスは生返事で返し、再びアルタイルとのボードゲームに現実逃避するのであった。




















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@egu05



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