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悪運の星の一般人《エキストラ》  作者: 島草 千絵
壱章
27/47

27話 森精種と人間種




透き通った空気が心地の良い朝。

厨房には小気味よい包丁の音と空腹をくすぐる様な匂いが外へ漏れ出している。



「アトス殿、ニンジンはこのくらいの大きさでいいでありますか?」



この厨房の主である人造人間(ホムンクルス)の少女、ベガが隣に立ち作業をする人物に確認する。 本来なら家事ならなんでも完璧にこなせる彼女が誰かに質問しながらというのは滅多にないことなのだが、今日ばかりは教わりながら作業を進めている。




「はい、ありがとうございます。 それじゃあそれをそこの野菜と一緒にお鍋で煮込んじゃってください」



ベガにそう答えた彼こそ彼女が料理の腕では敵わないと認める数少ない人物であるアトスである。 アトスはグツグツと煮込まれている鍋の方へ目線をやり、自分の方の作業をテキパキとこなす。 彼は『勇者』でありながらこの世界に来てからずっととある屋敷でコック兼お嬢様の執事をして来たのだ。 聞けば日本という、こことは遠く離れた星の異世界でも料理屋として働いていたらしい。 そんな彼の料理の腕は食にうるさいベガの下をも唸らせるもので、しかも昨日は頑なに『人間種の出す食事などいるか!!』と肩肘を張っていたサラをいともたやすく籠絡してみせたのだ。




「了解であります! それより、毎朝一緒に朝食の準備をしてくれるのは光栄の限りなのですが、良いのでありますか? 安静にしてなくても」



そんな勝手に自分の師匠と慕うアトスにベガは心配そうに腕を見ながらたずねる。

見た目ではアミのおかげで治ってはいるのだが、それでも昨日は大ダメージを負ったのは確かだ。 いつか時間が空いた時料理を教えてくれとは頼んだ身ではあるのだが疲れて帰って来た翌日まさかやってくれるとは思わなかった。

だが、心配するベガにアトスはひらひらと手を振り大丈夫だとアピールする。



「こうやって朝厨房に立つのは日課みたいなものですから。 それにいつかここから出たときに料理の腕が鈍ってたら嫌ですし。 あ、もしかしてベガ、他人を自分の調理場に入れたくないタイプだった? ごめん、気づいてあげられなくて!」



「そんなことないであります! むしろ自分の知らない料理を教えてくれるアトス殿には感謝しかないでありますから!」

























「ポルタさん、ポルタさん! あれどう見ても夫婦にしか見えないよね?」



「お前は朝早くから何やってんだ。 …………まぁ確かにな」



朝の鍛錬から帰って来たダルが同じく朝練帰りのポルタと厨房の前で鉢合う。 2人は厨房で仲睦まじく朝食の準備に取り掛かるベガとアトスを盗み見る。



「青春ですなぁ」



「おっさんか、お前は。 お前も女子力高めるために一緒に教わってくればいいんじゃないか?」



「あの2人の間に入るなんて野暮はしないよ〜」



ダルはニヤニヤしながら2人仲良く作業する姿を見守る。 確かに今あの中に入っていける雰囲気ではない。 朝練に出る前、アトスが蜂蜜レモンを用意してくれているといっていたので楽しみにしていたのだが、これは諦めるしかなさそうだ。



「へいへい、そうですか。 と、あんたは、ええっと」



俺は心底楽しそうに2人の様子を盗み見るダルにそういうと汗を流すために浴場の方へ向かおうとする。すると俺らがアトスとベガの様子を見るのと同じ様にこちらの様子を伺っている人物を見かけた。



「あ、私はフィーナと申します。 一応、森精種の研究所の主任を任されていました」



こちらが気づいたので慌ててぺこりと頭を下げ自己紹介をする。

彼女は例の遺跡から生き残った森精種の研究者の1人だ。 俺たちに助け出された以降マリーが人質としてこの屋敷に軟禁している、というと人聞きが悪いがともかく森精種の国との通信は取らせてもらえず、マリーの研究の手伝いをさせられているのだ。



「ああ、俺はポルトス。 そんでこっちは」



「ダルタニアンだよ! それでフィーナさんはここに何の用?」



なんだかんだこれが彼女たち生き残りの森精種の研究者の人たちとの初の会話だったのでこちらも自己紹介をする。



「すみません、喉が渇いたのでお水をもらおうと………」



ダルの問いにフィーナは申し訳なさそうに答える。



「なるほどな。 ちょっと待ってろ」



そういって俺は先ほど躊躇って入ることができなかった厨房へ足を踏み入れる。 あの雰囲気の中に入るのは確かに勇気のあることだが、大義名分さえあればどうってことない。

俺は調理中の2人に話しかけ事情を説明する。 するとアトスは快く応じてくれ、そして食事ができるまでもう少しかかるからメインルームかどこかで待って欲しいと付け加えた。

俺はそれを2人に伝えメインルームへと向かった。






















俺たちはアトスたちからレモンの輪切りの入った水のピッチャーをもらいメインルームへと場所を移した。 コップを3つ渡してきたということはどうやら俺たちも喉が乾いてると思われたらしい。

というか、体良くあの空間から追い出された様にも思えるがまぁその辺は気にしないでおこう。

俺は自分の分とフィーナ、ダルの分のレモン水をコップへ注ぎ2人に手渡す。



「あ、ありがとうございます」



フィーナは俺に礼を言ってコップを受け取り、口をつける。



「そういえばフィーナさんは私たちと普通に話すね」



男気溢れんばかりにダルが一気に飲み干し、お代わりを入れながらフィーナにそう話しかける。

ぶっちゃけ話すことが特に見つからず気まずくなりかけていたのでここはダルのファインプレーである。



「え?」



突然のことでフィーナはキョトンとしてしまう。 それを見たダルは慌てて言い訳の様に付け足す。



「ほら、普通森精種の人たちって人間種のこと毛嫌いしてるでしょ? でも、フィーナさん、それっぽい態度私たちにはしてないなーと思って」



「ああ、そういうことでしたか。 それを言うならお2人もサラ隊長や私たちに普通に話しかけてるじゃないですか」



フィーナはダルの質問の意図を理解して逆に俺たちに聞いてくる。



「俺は軍人じゃなし、そもそもこの世界の人間でもないからな。そこまで森精種を憎んでるわけじゃない。 まぁ確かに態度がでかくてムカつく奴が多いって印象はあるけどフィーナからはそんな感じはしないし、サラも態度はデカイが、なんだかんだ協力してくれるからな。そんなのいい人もいれば悪い人もいるんだから人それぞれだよ。 嫌いな人もいるしそうじゃない人もいるしで」



「ふふ、私も同じ理由ですよ。 自らの発展のために環境破壊を繰り返す人間種はあまり良い印象は持ちませんが、誰か個人に熱烈に恨みを持っているわけじゃありませんし、ポルタさんが言ったように良い人もいれば悪い人もいる。 好きな人もいれば嫌いな人もいる、です」



どうやらフィーナはこんな扱いをと言ってはなんだが、家に帰らせてもらえずここに閉じ込められて入るものの俺たちには少なくとも嫌悪の感情は抱いていない様だ。



「何はともあれ嬉しいよ! 職業柄なかなか森精種の人たちと仲良くするなんてないからねー」



そのフィーナの言葉に一番喜んだ様に反応したのがダルだった。

まぁ彼女の職業柄当然といえば当然か。






「ダルさんは『勇者』じゃないんですか?」



「今は勇者だよ。 その前は帝国陸軍三等陸佐だったんだよ」




フィーナの質問に胸を張ってそう答える。

それを聞いたフィーナは驚いた様な表情で俺の方を見る。



「あー、俺たちはなマリーにちょいと貸しがあって勇者をやめて普通に生活したいところマリーの研究に協力するため渋々勇者に戻ってな。 だから、みんな元の職業があるんだよ」



フィーナの視線を察して俺は彼女に説明する。

そんな俺たちに興味を持ったのか今度はフィーナの方から質問をしてくる。



「勇者を辞めるのは珍しくないんですか?」



「まぁそこそこにはいるな、ってなんか急に興味津々に聞いてくるな」



「ご、ごめんなさいっ! 私ったらとんだご無礼を!」



「あ、いや別にいいんだけど。 さっきも言った通りそこまで人間種に興味を持つなんて珍しいなぁと思って」



「それは私が人間種と言うよりも『勇者』に興味があるからなんです。 だから、こそあの遺跡を調べていた訳なのですが………、まさか助けてもらった先でこれほど勇者の方と友好的にお話しできるとは思ってもみなかったもので」



はしゃいでしまったのをフィーナは恥ずかしそうに答える。



「勇者の研究とあの遺跡関係あるの?」  



「おおありですよ。 そもそも『聖輪』もそしてポルタさんやダルさんが持っている『聖剣』はかつてこの世界を平和に導いた勇者のものなんですから」



「へぇー、そうだったんだ。 ってことは大昔の勇者は剣何本ももってたの!?」



「いえ、伝承に伝わる限りでは一本のはずです。 おそらくかつての勇者が持っていた聖剣は何本もある聖剣の最初の一本目だったのでしょう」



「最初の一本ねぇー。 それってやっぱり剣の形をしてないのか?」



俺は自分の本来の『聖剣』を眺めつつフィーナに聞いた。

勇者の『聖剣』がどんな能力を持っていたのかは知らないが『聖輪』が女の子の形をとっていたのだから剣もまた本来の形をとっていなかったというのは容易に想像できる。

フィーナは難しそうな顔をして



「うーん、それはなんとも。 私たちも『聖輪』がまさか人間種の女の子の形をとっているとは思いませんでしたし」



と曖昧に答える。

つまりは何もわからないということだ。

そんな難しい話ばかりしていると当然バカな発言をするやつが現れるもので、例のごとく彼女が口を開く。



「でもでも! はるか昔の大先輩の勇者が幼女に囲まれながら魔王を倒したなんてちょっとラノベっぽくありません!?」



「いや、それ実際にそんな状況見たらシュールだし、本当にそうならドン引きだけどな」




























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@egu05



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