24話 聖輪奪還
大量の薔薇の槍に串刺しにされ天に掲げられたイラクニャーダはマリーの放った全てを貫き焼き尽くす雷に打たれボロボロと灰となって崩れた。 それと同時にナナを捉えていた結界はガラスが割れるように割れ、それを見たマリーはふぅとここで初めて気を緩める。 すると召喚した亡者たちは霞のように消えていってしまった。 アミはマリーとイラクニャーダの戦いに気を捉えれていたが、ハッと思い出したようにナナに駆け寄る。 とらわれていたナナは気を失ってはいるがどこにも外傷はなくアミはほっと胸を撫で下ろした。
「…………しぶといやつだ。 さてと他の方はどうなったかな? アルタイル、私だ。 今どこにいる?」
真っ黒に焦げた薔薇の槍の先を見ながらマリーはそう呟くと通信機でアルを呼び出す。
『今そっちへ向かってますぜ! 途中でアトスの姉貴を拾った。 骨は折れているが無事だぜ!』
『だから僕は女じゃっ』
アルからの応答はすぐに来て、アミたちを逃がすために残ってくれていた他の3人とサラの無事を伝える。最後に怪我をしているというアトスが何か言ってるようだったがそれを全て聞く前にマリーは通信を切ってしまい、
「どうやら向こうも無事みたいだな。 アミラス、向こうにけが人があるみたいだから来たら治療してやれ」
気を失っているナナをおぶるアミにそう言う。
「わかったわ」
カステルの街の惨状からここまでわずか1週間ということに自分自身でも戦慄する。 『聖獣』、そして魔王軍幹部の右腕という難敵を相手に戦うようなハードで、密な生活はこの世界に来てからだって送ったことがない。 と言うか死んでないのがおかしいレベルだ。 だが、運良く俺たちはその激戦を潜り抜け生き残った。 最初は全くついていないと思ったが今考えてみるとどうやら俺は結構ついてる方だと思う。 そんな強運に感謝しつつ、小雨になりつつある森の中を屋敷へ向けて帰路につく。
まるで部活帰りの高校生のようにガヤガヤと騒ぎながら帰っているとアミがふと思い出したようにマリーに聞く。
「そういえばイラ……なんとかに使ってたあのゾンビをいっぱい出す魔法はなんなの? 私はあんな魔法見たことないけど」
「ん? あれはな死霊魔法だ。 普通の人間には使えん、亡霊族の魔法だな」
「なんで、そんな魔法をマリーが使えるんだよ……」
俺はさも当たり前のようにアミに答えたマリーに突っ込む。 俺は直接現場を見たわけではないようだが、マリーはイラクニャーダに対し、彼らの専売特許でもある亡霊魔法を使ったらしい。 今さらなんで使えるのかとは驚きはしないものの呆れというか基本何でもできるマリーになんとも表し難い感情を抱く。
そんな俺に対しマリーはご丁寧にも亡霊族の魔法が使えるようになった経緯を話してくれる。
「私が戦場を転々していたという話は話しただろ?」
「あー、『天災の魔女』の?」
「うむ。 その時に亡霊族と戦うことがあってな。 その時に仕留めて死体を持って帰ってデータを集めて私の身体をちちょいっと改造して亡霊族の魔法が使えるようになったんだよ」
「さらっと怖いことを言いますね」
骨が折れているため、アルにおぶられているアトスは乾笑いで若干どころでなく今のマリーの発言に引いているのが目に見えてわかる。
「自然の理を無視してそんな邪道に手を出すとは」
サラが憎々しくマリーにそう言うのだが、
「神だ信仰だなんて言ってたら学者は務まらないさ。 理に逆らって人間の可能性を求めてこそ学者の本分だ」
とそれらしいことを言って適当にかわすのだった。
そして、なにかひらめいたように俺たちの方を見る。
「そうだ。 君たちも気になるなら改造してやってもいいぞ?」
「「「「遠慮します」」」」
とある海辺の漣が響く音のみが支配する岡の上にある寂れたお屋敷。 その佇まいは廃れてもなお立派なもので見るものを圧倒する。
しかし、その屋敷に住むものはいない。 いや、住む『人間』はいない。 屋敷の主人はバルコニーから目の前に広がる月明かりが照らす水面眺めながら優雅に紅茶を嗜んでいた。 主人はまるでフランス人形のような顔立ちにふわふわの金色の髪にまるで童話のお姫様のような衣服を見に包み、その憂いを帯びたような遠くを見る目はとても妖艶でこの世のものとは思えない可憐な少女であった。 部屋の明かりは消え、月明かりが色白い彼女を照らす。
「お帰りなさい」
そんな彼女は水面を眺めたまま振り向かず、部屋に入って来たものに声をかける。
「申し訳ありません、プーパ様。 『聖輪』の奪取は失敗です。 このイラクニャーダ、どんな罰でもお受けいたします」
そう言ってイラクニャーダはプーパと呼ばれる少女に膝をつき、頭を垂れる。
「………別に謝ることではないわ。 相手があの『天災の魔女』だったのだもの。 こちらこそごめんなさいね、もっと人員をさければよかったのだけれども」
ここで彼女はカップを置き、イラクニャーダの方を振り返り、優しく話しかける。
「いえ、これも俺の実力のなさが原因、コリューピィオの仇をとってやりたかったんですが………」
「それで返り討ちになったら元も子もないわ。 それよりイラクニャーダ、あなた『人形』を使ったみたいだけどまだ動ける?」
悔しさの滲み出るような表情をするイラクニャーダは励まし、そして彼の体調について聞く。
突然のことにやや詰まったがイラクニャーダは、
「ええ、治癒魔法も使ったので魔力を大量に使いましたが、少しここで休めばある程度回復するかと」
と答える。 すると今度はプーパの方が申し訳ないような顔になり彼に尋ねる。
「そう。 魔王から次の指令が出されたから少し休んだら疲れているところ悪いんだけど一緒に来てくれる?」
「御意に」
それを聞いたイラクニャーダは迷わずそう答える。 そして彼は彼女にことわりを入れてから部屋から出て行ってしまった。
「ふう、なかなかうまくはいかないものね。 あなたもそう思うでしょ?」
イラクニャーダが出て行き再び静寂に支配されたバルコニーで彼女は再び席に着き、まるで席の目の前に誰かが座っているかのように話し始める。
「ふふ、そうね。 でも今日はいいの。 久しぶりにこんなに月が綺麗なのだもの。 カリカリしてたらせっかくの時間も台無しだわ。 もう少しこの時間を楽しみましょう? 夜は私たちの時間なんだから」
彼女は誰も座っていない席に楽しそうに笑いかけ、自分のカップに紅茶を注ぐのであった。
「お帰りなさい、であります!!」
屋敷に戻り、ずぶ濡れの俺たちをベガは笑顔で出迎えてくれる。 そして、一人一人に身体を拭く用のタオルを渡してくれる。
「熱いお風呂沸かしてありますのでゆっくり身体を温めて来たください! その頃には夕食の用意もできてると思われますので!!」
「夕ご飯かー。 そういえば今日何も食べてないや」
ダルは思い出したようにお腹を抑えながら言う。 確かに言われてみれば今日一日中ロクな食事を取っていない。 ただあまりの出来事の多さに自分が空腹だということにすら気づかなかった。 だが、ベガに言われ、厨房の方からただよってくる誘惑に空きっ腹が刺激される。
「確かに、今更ながらめちゃくちゃ腹が減ってきたように感じるな。 そういえばアトスはどうする? そんなんじゃ風呂入らないだろ」
俺はアルに背負われているアトスに声をかける。 彼はイラクニャーダとの戦いで足と肋骨の数本を折ってしまっていた。 もちろん、みんなが合流したあとアミの治癒魔法で応急処置はしたのだが、しばらくは無理な動きはしないほうがいいだろうとのことだ。
「あー、僕は身体を拭くだけにするのでポルタ、できれば後で手伝ってください」
「アトスさん、それはまずいんじゃない? ポルタは男だよ?」
「僕も男ですよっ!」
アトスはアルの背中からダルにツッコミを入れる。
「そうだぞ、人の外観をからかっちゃいけないって習わなかったのか? ちっこいの」
「誰がちっこいのだ!!」
そんなダルは今度はいつも通り俺との取っ組み合いが始まる。そんな様子にアミは呆れつつ、マリーに背中に背負っているナナをどうするのか聞く。
「あなたたち、一体どれだけ元気なのよ………。 それよりマリー、ナナちゃんは医務室でいい?」
「ああ、頼む。 詳しく調べなきゃまだわからないがおそらくは大丈夫だ。 このまま寝かせておけば時期目覚める」
マリーは気絶しているナナの頭を優しく撫でながらマリーに答える。
「なら、自分が運んでおくであります!」
「それじゃあ、ベガよろしくね」
「任せるであります!」
アミからナナを託されたベガは器用にナナを抱っこしながら、敬礼をして医務室へ向かう。
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