23話 魔術の天才
まるで死神の鎌のような大きな得物はアミの首を跳ねるために振り降ろされる。
しかし、それはアミの首を落とすことはなかった。
「疾れ、『雷燕』」
「ぐっ!!!」
アミが死を覚悟したとき、こちらへ突っ込んでくるイラクニャーダのわき腹を二筋の稲光が貫く。
「悪かったなぁ、遅くなって」
その稲光の発せられた方向を見ると見覚えのある女性の姿だった。
「マリー!!」
白衣を翻して颯爽と現われたのは現在の彼女たちの主人であり、人間種に留まらず多くの種族から『天災の魔女』と恐れられている魔女、マリー・レイの姿であった。
マリーは雨と汗でびっしょりと濡れ、緊張の糸が切れてその場にへたっと座り込むアミに笑いかけながらまるで普段通りからかうように声をかける。
「どうした、泣きそうな顔になって。 これじゃあ勇者として面目丸つぶれだね」
そして、回復魔法でわき腹の傷を回復させているイラクニャーダの方に目をやり、言う。
「さて、悪いがうちの可愛い研究対象を甚振ってくれたお礼をしないとね。 それにナナは私のものだ。 貴様なんぞに渡すわけがないだろ」
「くけけ、まさかこんなところで『天災の魔女』に出くわすとは。 こちらも本気を出さなきゃいけないな」
傷が癒えたイラクニャーダは目の前に現れた予想外の敵に苦笑いを浮かべながら鎌を拾い上げそれを丸い小さなゲートを開きそこに放り込もうとする。
それを見たマリーが悪そうな笑みを浮かべながらイラクニャーダに忠告する。
「本気を出すとはさっきうちの勇者たちにやったみたいに身体を靄にして逃げ切るつもりか? それだと私に攻撃は当たられないぞ?」
その言葉に鎌を放り込もうとする手が止まる。
「なるほど、こちらの技の弱点も知ってるということか。 くけけ、面白い! 小細工なしでお前をあの世に送ってやる!!」
イラクニャーダはゲートを閉じてその大きな鎌を振りかぶりマリーに襲いかかる。 マリーは見たところ武器を持ってない。 明らかに不利だ。
しかし、マリーはイラクニャーダの大きな鎌を彼女の持つ指揮棒のような魔法の杖でそれを受けかわしていく。
その様子には武器の差を感じさせないほど余裕があり、逆な攻撃しているイラクニャーダの方が追い込まれているようであった。
「最近の人間の魔法使いは白兵戦にも特化してるのか? 恐ろしいことだ」
「そんなことはない。 普通の魔法使いがこんなちっぽけな杖でその大鎌を受けたら魔法で強化してるとはいえ、間違いなく真っ二つだろうね。 私だから出来る芸当さ」
イラクニャーダの問いにそう答えたマリーは隙を見て懐からリボルバー式の拳銃を取り出しイラクニャーダに向けて撃つ。
「ぐっ! 『血薔薇の絨毯』
肩口に3発ほど受けたイラクニャーダは一旦距離を取り、態勢を立て直すためマリーの動きを封じる魔法を放つ。 薔薇はマリーに絡みつき動きを封じる。
「くけけけけ! 足掻こうとしても無駄だ。 そいつはお前の魔力を吸いつつどんどん強くお前を締め付けていくんだからなぁ」
しかし、彼女は落ち着いていた。
絡みつき、自分をどんどん締め上げる薔薇を全く気にせず言葉を紡ぐ。
「光なき世界に閉じ込められた弾圧されし民衆よ。 今こそ反逆の時は来たれり。 我らは呪われし、疎まれし、不死の兵となりしものなり。傲慢で愚鈍な王へ無慈悲な鉄槌を。 『愚民から愚王への革命』」
マリーの詠唱が終わると、大雨で泥濘んだだ土がボコボコと盛り上がり、青白い皮膚を持つ各々別のしかしボロボロの鎧や服をきた『人のような何か』が出てきた。
「その魔法は!? なぜ貴様がっ!?」
イラクニャーダは驚きを隠せないと言う表情それを見てなる。 マリーが使った魔法はイラクニャーダがよく知る『亡霊族の魔法』だったからだ。
そんな様子を見たマリーは不敵に笑い、
「なうろだぜな? だつやういとつみひのめとお」
と何語かなのかもわからない言葉でイラクニャーダに言う。
しかし、それはイラクニャーダには理解できたようで頰に一筋の汗を垂らしながらゴクンと生唾を飲む。
「なるほど、やはりあの時コリューピィオをやっていたか……。 つまりこれは人間で言うところの葬い合戦というわけだ。 おもしろいっ!」
イラクニャーダはそういってこちらへ襲いかかってきた一陣を大鎌でなぎ払った後、高く飛び、距離を保ちつつ、マリーと死者の群れを一掃するため特急魔法を放つために詠唱を始める。
「我こそはっ……ガハッ!!?? なに…………」
しかし、イラクニャーダは空中でたくさんの薔薇の槍の餌食となり串刺しにされてしまったのだ。
「いくら魔法が得意だからといって私に魔法合戦を挑むなんて愚策もいいところだね。 君のお友達とあの世で仲良くやってくれ。 いい天気だ、これなら詠唱なしでもいけそうだね」
マリーはそう面白そうに笑いかける。
イラクニャーダを捉えたのは先ほど彼自身が使った魔法。
それを完全にしかもこの短時間で再現してみせたのだ。
これが彼女が『天災の魔女』もとい、『天才の魔女』と言われる所以だ。
そんな彼女の実力の一部をまざまざと見せつけられたイラクニャーダは苦悶に満ちた表情で断末魔にも似た叫び声をあげる。
「く、クソォォォォォォォッッッッッッッ!!!!!」
「『天雷』」
マリーがそう唱えるとあたりは光に包まれ、遅れて鼓膜を破るかのような轟音にあたりは包まれた。
もしよろしければ作者のフォローをお願いします!
@egu05
またご意見ご感想もお気軽にどうぞ!