22話 たとえ人間じゃなくっても
徐々に徐々にではあるが俺たちの攻撃が効いて来たのかドラゴンの動きが鈍りつつあったのだが、
「ギャァァァァァァァスッッッッ!!!!!!!!!」
「なっ!!」
「くぁっ!!」
「きやぁぁぁ!!!」
ドラゴンの方向と同時に放たれた魔法による衝撃波で俺たちは皆吹き飛ばされてしまう。
そして、そのままボロボロの翼で空へと舞い上がったドラゴンは俺たちへ向けて再度あの瘴気ブレスを放つために魔力を貯める。
俺たちは吹き飛ばされた衝撃でみな動けずにいた。
このままじゃヤバイ!!
死を覚悟したのだが、しかしそれは放たれることはなかった。
「でゃぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
飛び上がったドラゴンのさらに上から降って来た何者かが、今まさにブレス攻撃を行おうとしている邪龍の首を叩き切ったのだ。
「本物の英雄は遅れて登場するものだぜっ!!」
かっこよく着地を決め、真っ白い歯を見せこちらに笑顔を見せるアルが俺らに向かってそういう。 それに反応したのは当然のごとくダルであった。
「ふぁぁぁあっっっ!! 超カッコいい!!!」
ダルはアルの元へ駆け寄り、今さっきのドラゴン狩りにヒーロー談義に花を咲かせている。 というか、そんなカッコつける暇があったらもっと早く助けに入れよ!
俺はそんな2人を呆れたように見守っていたのだが、
「貴様ら、何を呑気にやっている! 『聖輪』の救出に急げ!!」
サラに怒鳴られ、現実に帰る。
そうだ、アトスとアミの後を追ったイラクニャーダを追いかけないと!
俺たちがイラクニャーダの後を追おうとした時、俺たちに向かってアルが自分の剣についた邪龍の血を払いながら言った。
「そっちは大丈夫だぜ!」
依然として激しく雨が降り続く暗い森の中をアトスとアミは半透明の結界ごとマリーの元を目指していた。
イラクニャーダにより作られたナナを閉じ込めている半透明の結界が自分たちにはどうにもできないと言う判断だった。 しかし、
「くけけ、鬼ごっこもここまでだ。 人間ども」
「くっ!」
遺跡から少し離れたところでポルタ、ダル、サラの3人が足止めしていたイラクニャーダに追いつかれてしまった。 あの3人のことだから最悪なことにはなってはいないだろうが、それでも今目の前にいるのは実力のある3人をたった1人で退けた相手で魔王幹部の右腕の魔物である。 戦闘が得意でない2人が束になっても勝つことはまず無理だろう。
そう察したアトスは剣を抜き、アミとイラクニャーダの間に入り、アミに叫ぶ。
「アミさんは先へ行ってください! ここは僕が時間を稼ぎます!」
「でも!」
「大丈夫です!」
一瞬躊躇い、何か言おうとしたアミをそれよりさらに強い口調で言い、そう笑いかける。 それをみたアミはアトスの強い意志を感じイラクニャーダをアトスに任せて封印されたナナを抱え、この場を後にする。
「くくく、女のくせに中々度胸があるじゃないか」
それをみていたイラクニャーダはニヤニヤした笑みを浮かべながらアトスに言う。
それを聞いたアトスは剣を持つ手に力を込め、まっすぐイラクニャーダへ突っ込む。
「僕は女じゃありません! リャァァァァァッッッ…なっ!」
アトスの剣は空を切ってしまう。
その様子をニヤニヤみていたイラクニャーダは空ぶって隙だらけになったアトスに手のひらをかざし、魔力を込める。
「残念だったなぁ? お前の攻撃は俺には効かない。 フンッ!」
放たれた魔導波によってアトスは飛ばされ、木に打ち付けられる。
「うっ! ゲホッ!ゲホッ! ま、まて……」
アミを追いかけようとするイラクニャーダを止めようとするのだが、身体が言うことを聞かない。 アトスはそのまま気を失ってしまった。
「さて、残るはお前だけだぞ?」
ナナを抱えたままアトスを殿に逃げ出したアミであったがすぐにイラクニャーダにおいつかれてしまった。 彼女は逃げることを諦め、剣を抜く。
「くけけけけ! 1人で俺と戦おうってか? 手足が震えてるじゃないか。 それを置いていけばお前くらいは見逃してやる。 どうだぁ?」
イラクニャーダの言う通り、アミの膝は震えていた。そんな彼女の様子を見たイラクニャーダはニタニタとした不気味な笑みを浮かべ彼女を誘惑する。
「置いて逃げるわけないでしょ」
しかし、アミにその言葉は通用しなかった。 手も足も震えていて剣先も定まってはいないが、その瞳には強い意志のようなものを感じ取れる。
「くくく、強がりを。 そいつはお前の子でもなんでもないだろう? なら、なぜそこまで必死になる。 それにそいつは『人間』じゃない、『バケモノ』だ。 そんなやつ同じ化け物の俺にさっさと渡しちまった方がいいとは思わないかぁ?」
アミの虚勢に対しさらにイラクニャーダは続ける。
しかし、アミは一歩も下がる様子はない。 彼女は一度はやめたとはいえ『勇者』としてこの世界にやって来た人間なのだ。 この状況で、たとえ正体がわからず、恐ろしい力を持っているかもしれない女の子であろうとも自分たちを心のそこから信頼している女の子を捨てるなんてことは最初から選択肢になどなかった。
アミは遺跡での『獣王宮』とナナの会話を思い出し、イラクニャーダに言い放つ。
それは強い決意のこもった勇ましい声であった。
「お断りよ。 例えナナちゃんが人間じゃなくってもこの子は私にとって、私たちにとって大事な子には変わらない!! ナナは、………………私たちの『家族』だものっ!!!! 手足がもがれようとナナちゃんをお前なんかに渡すものか! かかってこい、このバケモノォォォォッ!!!」
「くけけけけ、くけけけけけけけけけけけけけけけけけ!!!!!!!!! 最高の気分だ! お望み通りお前をズタズタに引き裂いてからその『バケモノ』を持ち帰るとしよう」
自分の持てる限りのありったけの勇気を振り絞り叫ぶアミにイラクニャーダは満足そうに大笑いしながら大きな鎌を出現させ、彼女に襲いかかる。
力の差が圧倒的なのはわかっている。 そしてこの状況を彼女1人で打開しなくてはいけないのも理解していた。 だから彼女は引かない。 ここで逃げたらここまでなんのために頑張ってきたのか、『あんな思い』はもう2度としたくないとあのとき心に決めたんじゃないのか。
彼女の恐怖はピークに達していたが心は折れてはいなかった。
「我を大地の呪縛から解放せよ! 『浮遊』」
アミは十数本の剣を出現させ得意の浮遊魔法で空中に浮かせ剣先をイクラニャーダの方へ向ける。
「発射!!!」
それらをイクラニャーダめがけて放つ。 だがそれらは全て彼の身体を通り抜けてしまい、傷を負わすこともできない。 それを見たアミは今度は剣を一本作り出し利き手に握り一気に間合いを詰める。
「一掃せよ! 『女給の嗜み 掃除』」
距離を詰めながらあいた片手を構え、風魔法をイクラニャーダの足元の泥を跳ね上げ視界をくらませる。
そして、
「っ、ャアアアアァァァァァッッ!!!」
そのまま剣を大きく振りかぶり頭をかち割るように振り下ろす。
先ほどなぜ剣が全て外れたかはわからないがマントから出ている頭狙えばきっと攻撃が当たるはず。
そのアミの狙いは悪くなかった。
だが、しかし!
「けけけ、身体つきや剣の扱いからしてあまり他の奴らと比べて戦闘経験が一番なさそうだったのに、なかなかどうして肝が据わってるじゃないか」
正中線へまっすぐ振り下ろした感は無情にもイラクニャーダに片手で塞がれてしまう。
そして片手で受け止めたイラクニャーダはその剣を防いだ手に力を入れるとアミの剣は粉々に砕けてしまう。
「楽しかったぜ? 嬢ちゃん」
今度は逆にガラ空きとなったアミに向かってイラニャクーダが大きな鎌を無慈悲に振り下ろした。