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悪運の星の一般人《エキストラ》  作者: 島草 千絵
壱章
21/47

21話 亡者将軍



「はぁはぁ、子供の足ならすぐ追いつけると思ったんだけどな」



俺たちは時を増すごとに強くなる雨に打たれつつ、遺跡を目指した。 足元はぬかるみ、急ぐ俺たちを阻み、体力を奪う。



「子どもといえどあの『聖輪』だぞ? 普通の人間の子供の尺度に当てはまるべきじゃないだろ」



そう言って俺たちについてきている協力者がもう1人、



「というか、あなたも協力してくれるのね」



アミは特徴的なトンガリ耳に、美しい長い金髪の凜とした顔の女性にそういう。



「ふん。 助けてもらった例だ。 恩を仇で返すほど我々森精種は下賤ではない」



アミの一言にサラはそう言って歩を進める。

言葉は悪いがどうやら彼女も悪い人では無いらしい。 ただ、性格に難がありそうな点が気になったがそもそも今自分が置かれている状況で性格に難が無いやつなんていない事を思うと口に出しかけた嫌味も引っ込めざるおえないだろう。

そんなやりとりをしている内に俺たちは禍々しい視線に囲まれていることに気づく。

この鬱蒼と茂る深い森、しかも大雨のせいでその気配に気づくのが遅れてしまった。



「ちっ! 急いでる時に!!」



俺は舌打ち混じりにそういうと風切を起動させる。

泥で足場がぬかるむ中、俺たちの目の前に立ちはだかってきたのは魔物の群れ、それを見て各々武器を構える。



「とにかくここは切り抜けるよっ!」



























その後も魔物たちを蹴散らしながら遺跡の方へ向かう。 雑魚とはいえ昨日の疲れが抜け切っていない俺たちからしたら余計な体力を奪う厄介な敵だ。

遺跡まで後少しというところで通信機の方からマリーの声が聞こえる。



『あーあー、君たち聞こえるかー。 ナナの居場所をつかんだぞ。 やはり遺跡の方だ』



どうやらマリーもナナのことを彼女なりに調べていたらしい。 やはりナナは遺跡の方へ向かっていたらしい。 というか、これで遺跡の方にいないとなったら俺たちの苦労はなんなんだということになる。



「ナナちゃんのことは追跡できなかったんじゃないんですか?」



アトスがマリーに自分の思った疑問を聞く。

確かにナナは魔力探知に引っかからないという話のはずだ。 だから、苦労してこんなに探し回っているのだが、マリーはいつの間にそんなことを調べられるようになったのだろうか。



『まぁ、ナナ本人はな。 一筋縄じゃいかんぞ。 心してかかれ』



マリーは意味深なことを口にするがそれを聞く前に俺たちは例の遺跡へとたどり着いた。

そして、その入り口の前にずぶ濡れで立ち尽くす人影を見つける。































「ナナちゃん!!」



アミが叫ぶ。

遺跡の前に立ち尽くす人影の脇には眠らされたナナが担がれている。

その人影は今俺らの傍にいるサラと同じトンガリ耳が特徴的な男。確かこの男は俺たちが遺跡の中から救出した森精種の研究者の1人だ。

しかし、その様子が何かおかしい。



「お前は………!」



「おい貴様! いったい何者だ!! 我々同胞の死体を愚弄するとは万死に値する!」



俺たちは武器を構える。

特にサラはとんでもない殺気を出し、その人影を睨む。



「くくく……………くくくくくくくけけけけけけけけけけ!!!!!!!」



その殺気に反応したのかまるで壊れたように笑い始める森精種の男。 いや、奴は森精種では無い、森精種の皮を被った…………、
















笑い始めた森精種の男の皮膚がパラパラと崩れたかと思うとまるで脱皮するかのように中から禍々しい皮と骨だけの魔物が姿をあらわす。



「魔族! ちっ! 森精種に化けていたのか!」



「我々の手に『聖輪』が手に入れば我々魔王軍の大いなる発展につながるっ! 貴様らは今からその贄となるのだぁ。 感謝しろ!!」



「貴様ぁ!!!!」



ナナを抱えたまま高笑いする魔物にサラは怒りを抑えられず、斬りかかる。

しかし、魔物はまるで彼女を弄ぶかのようにひらりとかわしあの細い足のどこからそんな力が出るんだという蹴りでサラを吹っ飛ばす。

次に魔物は何やら薄暗いが透けている球体を出しその中に気を失っているナナを閉じ込めてしまう。



「おい! サラ!!! くそっ! アミとアトスはなんとかしてナナを助け出してくれ! 俺とダルはサラの援護だ!」



「くけけけ! 弱い、弱いなぁ。 傲慢なだけの弱小種よ。 ん?」



「はぁぁぁぁっっっっ!!!」



脇腹を抑えむせているサラに高笑いする魔物に俺は死角から突きで、明日の胸元を狙う。

しかし、その突きは魔物の体を捉えることはできなかった。

その魔物の黒いマントの下はまるで霞がかかっているかのように不明瞭で存在しているかも怪しいものであった。



「うーん? その剣は………」



ダメージを与えられなかった俺は大きく距離を取り、再び態勢を立て直す。



「何をしている、貴様らの助けはいらん!!」



噎せながらも俺たちに抗議するサラ。

あいつどこまで素直じゃ無いんだ!



「何いってんだ、この緊急事態に! どう考えてもあいつは普通の魔物じゃない、そこそこの実力者だ。 単騎であっても返り討ちにあうだけだぞ」



「そうだよ! 私たちだってナナちゃん誘拐された仇を返さなきゃ!!」




そんな頑固なサラを説得しつつ再び、目の前の魔物に向かおうとしていると、俺の一撃を食らってから考え込んでいた魔物が再び高笑いし始める。



「くく、『勇者』か。 面白い、まとめて相手になってやるぞ? このイラクニャーダ様がな?」



「イラクニャーダだと? 飛んだ大物じゃないか」



「え、そうなの?」



驚く俺とは対照的にとぼけた顔でダルが聞いてくる。



「お前は毎度毎度、帝国軍にいる時何やってたんだ。 は魔王軍の亡霊族を率いる族長の右腕で異名は亡者将軍、今までも何にもの人間や勇者がやつの犠牲になってる。 マリーめ、これがわかってて一筋縄じゃいかないとか言ったな?」



俺は常に適当なダルと意味深な発言で肝心なことを話してくれていなかったマリーのこともあり、舌打ち混じりにそういう。

するとそれを聞いていたのかマリーが通信機の方からこちらに答える。



『いや? さすがに私はここまでの相手だとは予想はしてなかったよ。 ただ嫌な予感がしたのと強い魔力反応を感知したから気をつけろと言っただけだ』



「で?さすがに手負いの俺らじゃやられるだけだぞ?」



俺たちとサラには回復魔法を使ったとはいえ、昨日の『骸の舞姫』との戦闘の疲労が残ったままであった。 こんな状態で魔王軍幹部の側近と戦うなんて無謀もすぎる。



『亡霊族か………。 仕方ない私が相手をしよう。 それまで耐えてくれたまえ』



マリーはやや考え込んだ後、俺たちにそういうと通信を切ってしまう。 全く、無茶言いやがる!



「マリーが来るまで耐えればいいんだね!? いっちょ頑張るよ!!」



そう言ってダルは愛銃を構え、イラクニャーダの胸元へ寸分狂いもなく弾丸を撃ち込む。

彼女は先ほど俺が放った胸元への突きが効いていなかったことからマントの外に出ている細い腕や足を狙う。

しかし、的が小さいためか弾丸はイラクニャーダにひらりとかわされてしまう。



「疾れ、『雷燕』!」



ダルの弾丸を避けて態勢が変わったイラクニャーダに対し、サラが避けた地点にタイミングよく魔法を放つ。 放たれた2匹の燕は黒マントごとイラクニャーダを撃ち抜く。

しかし、



「くけけけけ! 惜しいなぁ」



「くっ!」



これもイラクニャーダには全くダメージになっていないようであった。 それに先ほどからやつはこちらに攻撃を加えようとしてこない。 完全に俺たちはやつに舐められているようだ。



「ちょこまかと! 私のユイ砲スペシャルマークIIでぶっ飛ばしてやる!!」



「魔力の無駄だ、バカ! それより狙うのはやつのマントから出てる部分だ。 おそらくあそこには実体がある!! サラもそこ狙いでいけ!」



「私に指図するな!」



「くけけ、仲間割れか? まぁいい。 そろそろおまえたちのお仲間が俺の結界を解く頃だからなぁ。 お前たちの相手はこいつにしてもらおう。 尖兵、召喚。 黄泉の国より蘇りし悪竜よ、今再び悪逆の限りを尽くせ!」



そう言ってイラクニャーダは目の前に手をかざす。 すると地面に大きな魔法陣が現れ、そこから這い出るように腐った身体の所々骨が見える大きな龍が姿を現した。



ギァァァァァァァァァスッ!!!!



「くけけけけ! 存分に可愛がってやれ」



この世に蘇った邪龍は高々と咆哮をあげ、目の前にいる俺らを威嚇する。 それを満足そうに見ていたイラクニャーダはナナとそれを助けるためにナナが閉じ込められた球体を持ち出し、彼女を救おうとしているアトスとアミの元へ行ってしまった。



「追いかけるにもこいつをどうにかしないと……!」



「今度こそ、ユイ砲スペシャルマークIIで!」



最悪それしかないが、後々のことを考えるとなるべく使いたくはない。

というか、さっきは突っ込まなかったがなんだそのバカみたいな名前は。 どんだけ厨二病入ってるんだよ、こいつ…………。








そうこうしている間にイラクニャーダはこの場から姿を消し、アトスとアミのところへ向かってしまう。

早く追いかけたいところだが、相手も強敵で耐久力も高くなかなか致命的な一撃が与えられない。 これは本当にユイのロマン砲の出番かもしれないな。

そんなことを考えていると邪龍は口いっぱいに魔力をため、ブレスを放つ準備をしている。

向こうもこちらを早く消したいようだ。



「まずい! 避けるぞ!!」




俺の叫ぶような声に弾かれたようにダルとサラは間一髪のところで相手のブレスを避ける。

空を切った瘴気のこもったブレスは森の木々に直撃それらを一瞬で枯らしてしまう。



「ひっ! あんなのに当たったらしわくちゃおばーちゃんに!?」



「おばーちゃんで済めばいいけどな! くそっ!どうする!?」



ドラゴン相手に魔力の切れかかった勇者2人と森精種1人どうしようもない状態であった。

マリーが助けに来てくれるとは行っていたがここは魔女の屋敷から離れた遺跡である。 今すぐ来るとも思えない。 早くても20分はかかるだろう。



「そんな救援など期待するな! お前たちも勇者なのだろ!? なら、己のピンチくらい己の力で切り抜けてみろっ!」



そうだれよりも勇者らしいことをいい一番に突っ込んで行ったサラを見て、



「確かにサラさんのいう通りです! やってやりましょう!」



弾薬の切れた愛銃の2丁拳銃をしまい短刀を取り出し魔物に向かうダル。

サラとダルはドラゴンに致命傷を与えられないとわかった今、ドラゴンの身体にまとわりつくように素早く動き手足や翼などを切りつけていき、少しでも相手の動きが鈍るようにダメージを与えていく。



「全く………、 勇者ってのもろくな仕事じゃねーな。 急がなきゃいけないのは山々だが、それもこいつを倒してからだ!」






























































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@egu05



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