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悪運の星の一般人《エキストラ》  作者: 島草 千絵
壱章
20/47

20話 彼女はどこへ?



「ナナがその伝説の勇者の遺産だって? 冗談でしょう? 大体、その勇者がいたのは1000年も前の話じゃない!! どう考えてもナナは10歳くらいの女の子だよ!?」



ダルは興奮したようにマリーに詰め寄る。

それも当然だ。 あんな話を聞かされてそうでない奴はいないだろう。

















マリーから話されたナナの状態に関わる話の内容は衝撃的なものであった。 俺たちがこの屋敷に来てからそう日が経たないうちに起きたゴーレムの襲来、その時に偶然この屋敷に入り込んで来てしまった謎の少女ナナ。 その正体がおとぎ話にも出てくる、俺らがこの世界にくるはるか前に居た勇者のお宝の指輪であるというのだ。 しかも、聞くところによると『聖輪』の能力は魔物の使役、つまり魔物の自由に操れる能力だというとんでもない能力の持ち主だったのだ。

その見た目からは彼女がそんなすごい物だとは思えない。 どこにでもいるような普通にいる可愛らしい少女なのだ。 だから、マリーの話を信じられないというダルにも同意できるし、俺もそして他の2人も同じように思っているだろう。














「ナナが1000歳じゃないくらい見ればわかる。 だが、最初に君やポルトスには言ったはずだ。 彼女は『人間』としては特殊だと」



詰め寄るダル対し、マリーはそう答えた。俺は初めてナナを見つけた時のことを思い出す。その時に確かにマリーは『魔力に反応しない人間のような』と言っていた。

つまり、



「魔力がない。 いや、こちらがナナのことを探知する技術がない」



「そう。 私たちは今までナナのことを『人間の女の子』という前提で色々考えたり調べたりしていた。 だが、事実はナナは『人間の女の子形をした勇者の宝具』ということだ。 そうなれば今までの例外的な結果も、『獣王宮』を従わせた結果も説明できる。 それに森精種の調査結果からあの遺跡には『聖輪』が封印されている可能性が高いこともわかった。 ここまでくれば彼女の正体もおのずとわかる」



ここまで証拠が揃っていると何も言えなくなる。

本当に信じがたいことだが迷子の少女、ナナは俺たちの想像もはるかに及ばないとんでもない存在だったのだ。






「でも、そしたらなんでナナちゃんはここに、マリーのところへ封印を解いてきたんですか?」



微妙な空気の沈黙が場を支配する中、アトスがその沈黙を破りマリーに聞く。



「封印は解かれたんだ。 森精種たちによってな。 ただ、森精種たちが想定外だったのは『聖輪』が文字通り『指輪』ではなく、『人間の女の子の形』で封印が解かれ侵入者から逃げるように外へ逃げ出したことだろうね」



「待って、遺跡にはナナちゃんを守る『獣王宮』がいるじゃない。 なんでそんな守られているところからわざわざ外に逃げ出したの?」



「それこそナナがここにきた理由だ。 彼女は私のところに来たんじゃない。 『聖剣』の持ち主がいるところに逃げて来たんだ」



「本来の持ち主の『勇者』が亡くなっているとは知らずに『勇者』に助けを求めに来た?」



「そういうことだろうね。 だからここ最近魔物がこの屋敷に襲いかかって来たのだろう。 ナナを取り戻すためにね」



「で、でもナナちゃんの記憶が消えてるってことはどう説明するんですか?」



「彼女の記憶は封印されている。 おそらくナナ自身が自由に力を行使しないためだろうね。 彼女だってちゃんと人格を持っている。 だから、その気になれば世界征服を企む可能性だってゼロじゃない。 だから、遺跡の外ではその力が使えないように手っ取り早く記憶を封印して力を使えなくしてるんだろう。 他に何か質問のあるものは?」



「………」



俺たちの問いに淡々と答えたマリーは最後にそう俺たちに聞く。

だが、あまりのことに俺たちは再び言葉を失い、



「なければ終わりだな。 さっきも言った通り私の望むものは手に入ったから君たちはしばらく休みでいいぞ。 街に行くならベガに言って先に行くといい」



と、マリーは俺たちにそう声をかけて部屋を出て言ってしまった。































メインルームから自分の部屋へ戻り、俺はドサっと身体をベットへ投げた。

色々とあった。 俺の頭の中を色々とした考えが巡る。 ぐるぐるとまるで大きなマドラーでかき混ぜられているようで吐き気を覚える。

ナナの正体は人間ではなく、千年前に活躍したかつての勇者の所持品である『聖輪』。 全くもって信じられない話ではあるが昨日の『獣王宮』を退けたところを見るといびつだったピースがピタリとハマったような、ありえないとは思いながらもマリーの推測に俺は無条件で納得してしまった。
















「ふぅ、一眠りするか……」



俺は気持ちを落ち着けるためにもそう呟いてから惰眠に入ろうとした時、ノックもなしに勢いよく扉が開かれる。 そこには慌てた様子のアミの姿があり、息を切らし、肩で大きく息をしている。



「おいおい、部屋に入るときくらいはノックしてから……」



「ねぇ! ナナちゃん見なかった!?」



気分の悪い時にいきなり部屋に入られ文句の一つでも言おうかと思ったが、それは悲痛なアミの叫びによって遮られてしまう。



「はぁ? ナナならアミの部屋で寝たたんじゃなかったのか?」



「いないのよ! ダルの部屋に行ってるのかなって思ってダルのところにもいなくて……!」



彼女は焦りと同様で全く目の焦点が合っていない。

とにかく俺は彼女を一旦落ち着かせて状況を聞いた。



どうやら、アミがメインルームから部屋に戻った時にはナナの姿はなくなってしまっていたらしい。 彼女は思い当たるところを必死に探したようだが、見つからず今に至るらしい。



「わかった、一緒に探すよ。 マリーには?」



「アトスが伝えに行ってくれてるって。 ナナちゃん、どこへ行っちゃったんだろう……」



「とにかく、屋敷中を探そう!」



弱気になるアミを励ましてから俺は彼女とともにナナを探すため部屋を出てた。























「屋敷内はあらかた探したけどいませんでした」



俺たちはメインルームに集まっていた。

あのあとマリーやベガ、アルタイルにも協力を求めた屋敷中を探し回った。

しかし、ナナの姿はどこにもなく俺らにはただただ焦りと不安が募る。



「あとは屋敷の外ということになるが、あの広い森を探すのか?」



俺は窓から外を見る。

外はいつの間にか雨が降り出し、鬱蒼と茂る森はより薄暗く深い緑に染まっていた。



「気合いでなんとかするしかないでしょ! ナナちゃんの一大事だよ!?」



『みなさん、聞こえるでありますか?』



ナナ探しに協力してくれているベガから通信が入る。 足で探す俺たちとは別の方向で彼女はナナのことを探してくれていたのだ。



「ベガ、何かわかったの!?」



『すみまさんであります。 ナナ殿はこの屋敷の魔力センサーに反応しないのでさっぱりで………。 しかし、先ほど保護した森精種の研究員の1人が部屋から出て行くナナ殿の姿を見たとの証言をしてくれたであります! 』



「やっぱ外か。 行くとなるとどこだ!?」



「遺跡に向かったんじゃないんですか?」



アトスがポツリと呟く。



「遺跡に?」



「マリーは記憶が封印されてると言っていましたが、もしかしたらその封印が解けて自分のことを思い出した時、ここにいづらくなってしまったんじゃないですか?」



その可能性もゼロではない。

俺は遺跡から出る際、さらの言った言葉を思い出す。



『その少女を怖いとは思わないのか?』



確かに未知の能力を持つ、しかもあの『獣王宮』を退ける力を持つ少女を恐れないわけはない。 おそらく遺跡に向かったとするならナナも俺たちが怖がっていると、気持ち悪がっていると勘違いしての行動だろう。

こっちからすればいらぬ勘違いであった。



「そんなこと気にしなくてもいいのに……」



「とにかく行こうよ! あの遺跡に!」



責任を感じて弱気になるアミを励まして、ダルはそう言ってホルダーに愛銃をしまい、自分の聖剣をとり、部屋を出る。 俺らも急いで装備を整え、ダルの後に続いた。












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