2話 vs食人鬼
流石に今回ばかりは死んだと思ったその刹那、思わぬ助っ人によって九死に一生を得た。
おそらくこの3人も『勇者』だろう。
それを証拠に3人とも『聖剣』を持っている。
「まて、そういえばあんたの剣、さっき折れてなかったか?」
よく見ると先ほど根元でポッキリ折れていた彼女の剣は新品同然のように戻っていた。
「私の『聖剣』の能力よ。 そんなことより今は目の前のあいつでしょ?」
彼女は視線をサトゥルヌスの方に向ける。
サトゥルヌスは腕をだらんとしている。
すると肩の傷の部分がボコボコと盛り上がり、あっという間に傷口を塞いでしまう。
「ぐぬぬ、硬いね。 しかももう傷が塞がってるよ」
「倒さないことにはどうしようもありませんしね。 寄せ集めではありますがなんとかしましょう」
「ごちゃごちゃ言ってても仕方がない。 行くぞ!!」
ユイと呼ばれていた軍人の女の子は両手の銃二つに手早くリロードするや否や、先手必勝と言わんばかりにサトゥルヌスに弾丸を打ち込む。
それは寸分たがわずサトゥルヌスの関節に決まり、こちらへ突撃しようとしていたサトゥルヌスの動きを止める。
その射撃速度、精度はののび◯君も顔負けだ。
それに早いのは射撃速度だけではない。
彼女は細かく動き、絶妙な距離を保ちつつ相手を翻弄する。
だが、サトゥルヌスもそれでどうにかなるようなやつではない。
ユイの動きを予測し、攻撃を仕掛けて来たのだ。
「『貝殻の盾』」
サトゥルヌスの爪がユイを襲おうとした時、メガネの女の子が出現させた巨大な貝殻の盾がその爪を弾く。
『貝殻の盾』はそこまで強くない、初級魔法なのだが、どうやら剣の折れた女の子が支援魔法でそれを強化してサトゥルヌスの攻撃でも耐えられるようにしているようだった。
ユイはその攻撃でできた隙を見逃さず、眉間に弾丸を打ち込む。
だが、それは戦闘中も進化し続けるサトゥルヌスの強固な肌に弾かれてしまう。
他の3人が懸命に戦っている最中動かず俺は何をしているのか。
ただ、サボっているわけじゃない。
行動としては誰よりも早く動き出していた。
「よし、行ける! みんな、退がれ!!」
あれは3人に向かって叫ぶ。
そうするとまるで打ち合わせをしていたかのごとく3人はサトゥルヌスから距離を置く。
「うぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!! 『風切 弾指』」
魔力を最大限まで貯めて放つ『風切』で最も貫通力のある技『弾指』。 まるで人間ロケットように相手の懐に飛び込む。
完全にユイに意識が向いていたサトゥルヌスは不意を突かれ反応が遅れる。
全く反応が遅れたサトゥルヌスはそのまま、胸を貫かれ、深々と剣が刺さる。
そして、突撃した勢いは背中まで伝わり、背中がまるで爆発したかのように弾け、血肉が飛び散る。
ぐ…………ォォォォ…………………
最後に唸り、口から大量の血を吐きズシーンっとその場に倒れこときれた。
今日は本当ついてない日だ。
こんな地獄に巻き込まれたと思ったら最後にはサトゥルヌスの返り血で服も何もかも真っ赤に染まってしまった。
これは洗っても落ちそうもないなぁ。
俺は生臭い匂いのする服に顔をしかめつつ肩を落とす。
「いやぁ最後のカッコよかったよ! なんか主人公って感じで!」
ユイがはしゃぎながら俺の方へ駆け寄ってくる。
「それはどうも。 おかげでこの有様だけどな。 それよりもあんたらのおかげで助かったよ」
俺は素直に礼をいった。
この3人がいなければ今頃確実に俺はサトゥルヌスの腹の中だっただろう。
こんな仕事をしているんだ、死ぬことはあるだろうがそんな死に方だけはごめんだ。
「何をいうかと思えば、帝国軍人たるもの民を守るのは当然だよ!」
そう言って胸を張る小柄な女の子。
その胸には確かに帝国軍人の証であるバッチをつけている。
確かあれは中尉だったか?
俺は微かな記憶を辿りそんなことを思い出す。
「というか、ユイだったか? そんななりで帝国軍人ていうのは本当みたいだな」
「ちょっと!! 身長のことを言ってるのならぶっ飛ばすよ!?」
とユイが頬を膨らませながら俺に突っかかってくる。
身長低いの気にしてたんだ……。
そんな俺とユイがじゃれあってる中、メガネの女の子が懐から高そうな懐中時計をだし、それを見て肩を落として言う。
「何より、皆さん無事でよかったです。 でも、どうやらタイムオーバーみたいです」
「どういうこと?」
「確かにこの街は危険だが、焦ってもいいことはないぞ。 身長に魔物とは極力やりあわずに言った方が安全だろ」
「………さっき帝国兵の、恐らく将校クラスの方の亡骸から拝借したものです」
そう言って俺にヒョイっと通信機を投げ渡す。
『ザザザ……… 繰り返…… の街の大部分の避難は完…… これより、作戦は次のフェイズに入…………… 魔物に占領されたカステル………大規模の空爆を…………… 活動している兵は即刻退避を………… なお、空爆…………はイチロク、サンニに………ザザザ!!』
ノイズまみれの声しか聞こえないが、深刻な状況であることはわかった。
どうやら軍はありったけの火力を持ってこのカステルの街ごと魔物たちを殲滅させる作戦を立てているようだ。
一応作戦は知らせて退避するように言っているところからすると逃げられなかった場合自己責任ということだ。
せっかくピンチを抜けたと思ったら次から次へと危機が訪れる。
全く本当についてない日だ!!
「これやばいやつじゃねーか!? 今何時だ?」
「16時21分ですね。 あと11分後にはこの街は帝国軍の航空爆撃で火の海です」
焦る俺に力なしにメガネの子が答える。
「ここから11分で街を出れるわけないでしょ!? ヘルプミー!! まだ生存者はいますよー!」
ユイは通信機に向かって叫ぶが、向こうには聞こえてないようで依然としてこの街を焼き払うことを伝える無線が一方的に聞こえるだけだった。
「無駄です。 この通信機は壊れてます。 僕たちに残されてるのは11分以内にこの街を出るか死ぬかしかない」
「なら、教会の転移魔法装置を使えばいいんじゃない!? さっきあのメイドの子を教会の中に運んだ時に見たわ!!」
先ほど俺に回復魔法をかけてくれた女の子が思い出したようにいう。
転移魔法装置とは街と街を結ぶネットワークであり、それから転移魔法を使ってあっという間に目的の場所に行けるというものだ。 普段は許可のある人以外の使用は禁止だが、緊急事態の時、こちらから固定の場所への転送のみだが誰でも使えるように解放されている。 おそらくこの教会の転移魔法装置も街の外に避難させるために動いてるはずだ。
確かにそれを使えさえすれば11分以内でこの街を出ることも可能だ。
「よし! 時間が惜しい。 そうと決まればさっさと行くぞ!!」
俺たちは急いで崩れかかった教会へ駆け込んだ。
教会の中はかろうじて形を保っているが中は魔物のせいでボロボロだった。
よく見ると最前列の椅子に先ほどのメイドの子が眠らされている。
「確か教会の転移魔法装置は祭壇の後ろの部屋だったな」
俺たちは祭壇の後ろにある扉を開ける。
そこには目当ての転移魔法装置があった。
見た目はどこにも異常がなさそうだったが、
「くそっ!! うんともすんともいわねっ!!」
どうやら魔物の襲撃の衝撃を受けて壊れてしまっているようだ。
頼みの綱を失い重い空気が辺りを包む。
「えぇえ、それじゃあ私、ここで死ぬのぉ」
どうやらこのちんちくりん帝国軍人は逆境に弱いようでベソをかきはじめる。
俺らがなんとか動かそうと壊れた転移魔法装置をいじくっていると、回復魔法の子が気づく。
「待って、この子も通信機持ってる! しかもこっちのは別のみたい!」
そう言ってメイドの子が持っていた通信機を取り出す。
こちらもノイズ混じりではあるが、さっきのものよりもはっきりと向こうの声が聞こえた。
『おーい、ベガー。 そこにいると帝国軍に消し炭にされるぞー。 おーとーしろー』
メイドの子が持っていた通信機からこの状況に似合わないなんとも気の抜けた女性の声が聞こえる。
どうやら、このメイドの子の名前はベガといい、この通信で喋ってる女性は同僚か、上司であることが想像できた。
「ベガって娘は気絶してるぞ! それに頼みの教会の転送魔法装置は壊れてるぽい!!」
俺は通信機を回復魔法の女の子から奪い、通信機から聞こえる女性に向けて怒鳴るように答える。
『おや、君は?』
「そんなことは後でいい! このベガって娘を助けたはいいがそれが無駄になりそうだ。 あんた帝国軍の人間ならなんとか空爆を遅らせろ!!」
『残念だけど私は帝国軍の人間じゃないよ。 でも、状況はわかった。 教会の転移魔法装置は壊れてるって言ってたけど魔法陣の方は残っているかい?』
「魔法陣? おい、俺たちには転移魔法なんて高等魔法は……」
『いいから、残ってるかどうか聞いてるんだ。 時間が惜しいのだろ?』
「ああ、残ってる」
『それならなんとかなるな。 転移魔法の術式はこちらからやる。 君たちはその魔法陣の上で待機してもらってればいいよ』
通信先の女性はそう言って一旦通信を終える。
誰だかは知らないがどうやら助かる道筋が見えた。
俺たちは無言で頷き、メイドの子を担いで魔法陣の方へ移動した。
すると、遠くの方から爆音が響き始める。 どうやらこの街を消し炭にする作戦が開始されたようだ。
「ちっ! 始まったか。 おい、準備はできた。急いでくれ!!」
『場所はカステルの大きな鐘のある教会だね? あと、そちらの人数を教えてくれるかい? ああ、そこに残りたい者がいるならそれは含めなくていいよ』
通信先の女性は相変わらず呑気なことをほざく。
「5、5人だよ!! いいから急いで!!」
そんな彼女に対し、もうギリギリのユイが泣き出しそうになりながら叫ぶ。
『くくく、わかった。 だいぶ乱暴になるから衝撃に備えてくれ』
こうして俺たちはなんとかカステルの街から出ることができた。
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