19話 少女の正体
「ううっ…………、全身が痛い………」
次の日、俺たち4人は普段と変わらない時間に起こされて、メインルームに集められていた。 まだ昨日の傷も疲れも完全には癒えておらず、筋肉痛であっちこっちが痛い。
それにしても集めた本人がまだきていないというのはいかがなものか。
「アミさーん、回復魔法でこの痛みどうにかならないんですかー?」
ダルがソファに寝そべりながら、同じく疲れが抜けきっていない顔のアミに抜けたような口調で頼む。
「流石にそこまで万能じゃないわよ。 というかダルはマリーのとこ行ってなんか変なカプセル入ってたじゃない」
「あれひどいかったんだよ!? 入って損した!!」
アミに言われたダルは寝そべっていたソファから飛び起き、自分の両肩を抱いて身震いをする。
「あはは、僕もそれを見てましたが入らなくってよかったなーって思いました」
困ったような笑顔を浮かべダルに同意するアトスを見ると、どうやらダルはマリーに騙されて新しく作ったなんかの器具の実験台になり、どうやらそれが失敗作だったらしい。
そんな怪しいものひょいひょいと乗らなきゃいいのにと思うのだが、ダルだし、おそらく三日もすればそれも忘れてまたひょいひょいとついていくのだろう。 おそらくマリーもそれをわかってるから俺たちじゃなくダルに声をかけたんだろうな。 何はともあれ、俺たちはダルの犠牲のおかげで変な実験から助かってるので彼女にはこのままマリーの実験台として活躍して欲しい。
「ところでナナはどうしてるんだ?」
一向に現れないマリーを待つ間、俺はアミに『彼女』について聞いてみた。
おそらくマリーもそのことについて説明するために俺たちを集めたのだろう。
「まだ寝てるわよ。 マリー曰く身体のどこにも異常がないみたいだからただ疲れて寝てるだけみたい」
アミは俺の質問にそう答える。
ナナは昨晩、というか初日を除いたここ何日か全てアミのところで寝ている。 ナナが一番仲がいいのはダルなのだが、彼女曰く「ダルといると楽しいけど、アミは安心する」 だそうだ。
やはり幼い子の世話は本職のアミの方が上手いようだ。
「異常なし、ね………」
俺は彼女の言葉を繰り返して考え込む。
すると、そのタイミングで俺たちを集めた張本人がドアを開けて登場する。
「なんだ、ポルトス。 そんなに彼女のことが気になるのか? 乙女の秘密にズカズカと踏み入るような男は嫌われるぞ?」
「乙女って……、ナナはどう考えてもまだ10歳そこいらだろ」
「はぁ、がっかりだよ。 君にはがっかりだよ、ポルタさん。 女ごころに年齢は関係ないんだよ?」
俺の発言に素早くダルが反応し、がっかりしたように大きなため息をつきながら俺に言う。
「珍しくダルが正論を言ったわね」
「珍しくとは心外だぁ!」
「それでマリー、ナナちゃんについて何かわかったんですか?」
「ふむ。 まぁ君たちにも関係あるし、もともと話す予定だったから今からその辺を話していくとするかね」
「ところで君たち。 前の『勇者』についてはどれくらい知ってる?」
ナナのことを話すかと思いきや唐突にそんな話をし始めたマリー。
「前の勇者? 何万もいる勇者1人目ってこと?」
アミが首をかしげる。
「いや、君たちがこうやって現れたのは魔王が私たちの方へ攻め込んできたのと同じ頃だからせいぜい20年近く前の話だ。 私が言ってるのはそれよりもはるかに昔、1000年前の話だ」
「そんな昔にも『勇者』がいたのですか?」
「君たちはあのおとぎ話を知ってるだろ? その主人公の話だ。 彼は空想上の存在ではなくちゃんと存在したんだよ。 それにそもそも今回のもそうだが、世界のあちこちに散らばる遺跡群はその時代にできたものと考えられているんだ」
「やけに詳しいんだな」
「最初に言っただろ? 『勇者』について研究してると。 君たちについても興味は尽きないがそれと同じくらい1000年前の英雄にも興味があってな、いろいろ調べているんだよ」
「その大昔の勇者様とナナちゃんの昨日の出来事と何が関係あるの?」
ダルがマリーに聞く。
確かにそんな大昔の先輩勇者と今回のナナについてなんの関係があるのだろうか。 今の話から2人をつなげる単語が見当たらない。
「まぁ、待て。 それを知るためにはいろいろと知識を入れることがある」
そう言ってマリーは俺を制して話を続ける。
「実はな。 その1000年前の勇者も君たちと同じく、この世界の危機と戦っていた。 その時に活躍したのが『従者』と呼ばれるものたちだ。 使徒はそれぞれ名前に『宮』の文字がつく」
「まるっきりあのおとぎ話と一緒なんですね」
「だから、あれは実際あった話だと言っているだろ? あれはおとぎ話というよりむしろ伝記だね」
俺は自分の中で情報を整理する。
つまりは昨日遭遇した『獣王宮』はその従者の一角でマリーの話からすると『獣王宮』はあそこで亡き勇者の宝を守っていたというわけだ。 あそこに『骸の舞姫』がいたのは本当に偶然だったのだろう。
なるほど、ナナの正体のことは一向に見えてこないがなぜあそこに森精種たちがいたかは大体理解できた。
「彼らはおとぎ話でもあるように、勇者とともに世界の危機を救い、主人死んでもなおその勇者が持っていたとされる宝を守っているんだ。 彼らの守る勇者の宝は、それは相当なものだろう。 研究者からしたら喉から手が出るほど欲しい代物だな」
「つまりあの遺跡には『獣王宮』がいたってことはその勇者の宝があの遺跡にあったってわけね。 森精種がわざわざ領土侵犯なんて危険を冒してまで調査しに来るはずだわ」
アミが納得したように頷く。
「でも、彼らはそれを手に入れることはできずに全滅したと。 こういう言い方は不謹慎ですが、まさに骨折り損のくたびれ儲けというやつですね」
結果的に森精種たちはわざわざ人間種の国まで遠征してきたのにもかかわらず、『獣王宮』どころか『骸の舞姫』に返り討ちにあうという徒労に終わってしまったらしい。
伝説の勇者の財宝も未だに遺跡の中………………ん?
俺はとんでもないことに気づいてしまった。
「まて、じゃああの遺跡にはまだその勇者の宝が残ってるというわけか? それをマリーは欲していると………」
そこまで言いかけて俺の言わんとしようとしていることを他の3人も理解した。
「冗談じゃないわよ、またあそこにいくなんて」
「え!? 私たちまたあそこに戻るの!? 今度こそ死んじゃうよ〜!!」
アミはマリーに詰め寄り、ダルはベソをかいている。 さすがにあそこにもう一度行けなんて、死んでこいと言っているのと同義だ。
「いや、その必要はない。 もうそのお宝は手に入れたからな」
そんな慌てる俺たちを全く気にせずマリーは簡潔にそう答える。
「手に、入れたですか? いつの間にそんな?」
「手に入れたというか、勝手に転がり込んできたと言った方が正しいがな。 ここで最初の疑問に戻るわけだ。 ナナの正体はなんなのか、あの力はなんなのかとな」
「まさか……っ!」
「そう、ナナの正体は勇者の宝の一つであり、どんな動物や魔物とも会話ができるという指輪、『聖輪』だ」
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